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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十四章 シャロンの子育て日記
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中華と香木と親心



 キッチンではフランとクランがクロの教えを請いながら料理を作り、リビングでは酒に酔った者たちがテーブルに顔を埋め寝始め、お腹いっぱいになったキャロットと白亜にラライはマイペースにお風呂へと移動し、酔い潰れた面々はナナイが抱き上げ部屋へと運ぶ。


「よっこらっしょっ! 見た目に反して重量感のあるメイドだな」


 メリリを担ぎ上げたナナイが愚痴を零しながら階段を上がり部屋へと向かい、メルフェルンはキュアーゼをお姫様抱っこで持ち上げ自室へと運ぶ。その光景を見ながらシャロンは自分も手伝えればと思いながらも首から掛けたグリフォン卵に手を置き撫でる。


「あはははは、みんなもう潰れちゃったぜ~ドランも無理すると二日酔いだぜ~」


「そうですな……わしも無理せず今日は寝るとします……」


「でしたら我々がご案内致します」


 そう申し出たのはナナイたちと一緒にやって来たオーガの男たち。オーガは基本二メートルを超える長身で力も強くドランが倒れても支えることができるだろう。それにこの場には多くの女性たちがおり、クロとシャロンを含めた男たちは倉庫として使っている旧家で本日は寝泊まりする予定となっている。


「世話を掛けてすまぬのう……」


「いえ、我々もエルフェリーンさまにお世話になっている身でありますから」


 オーガの男たちに手を引かれ外へと向かったドラン。リビングにはエルフェリーンとルビーにロザリアが残り、キッチンカウンターにはシャロンとアイリーンが座り他の者たちは既に部屋に運び込まれている。


「そうそう、最後に強火にしてごま油の香りを立たせて完成」


「辛そうだけどゴマと山椒の香りが食欲をそそるな!」


「……ん……絶対辛いけど……美味しいヤツ……」


 麻婆豆腐を完成させ器に入れリビングとカウンター席に座る者たちへ届けるクロ。キッチン内ではハフハフと麻婆豆腐を口にするフランとクラン。その表情はどちらも自然な笑みが浮かび上がり聞かなくても味の感想を物語っている。


「クロ先輩は中華も得意ですよね~ふぅふぅ、あむっ!? 熱っ!! でも、美味っ! これは絶対に白米が欲しくなる!」


「はふはふ、辛いですが美味しいですね。香りもいいですし、ピリ辛なのに次を食べたくなる味ですね」


 カウンター席でアイリーンとシャロンが絶賛し、リビングで飲むエルフェリーンとルビーにロザリアも口に運びやや辛い味付けにウイスキーとブランデーを口に入れる三人。あまり辛いのが得意ではない三人にとってはピリ辛も辛口の範囲なのかそれ以降手を付けることはなく、クロは代わりになればと魔力創造で市販されているスモークチーズと飴のように包まれているマグロの四角形のおつまみを皿に開け、麻婆豆腐を回収してキッチンへと戻る。


「これ美味しいです!」


「飴みたいだけど魚の味がするよ!」


「うむ、珍味の類なのじゃ」


 ひとつ剥いてはひょいパクと口にする三名。スモークチーズも口に合った様でワインやブランデーと合わせて口に運ぶ。


「あのマグロのおつまみも懐かしいですね~父さん用に買っていたのをこっそり食べていましたよ~」


「あれはコンビニでもスーパーでも買えたからな~お酒を飲む家庭には大体あったかもな~」


「ん……あれは美味しい?」


 キッチンに帰って来たクロの裾を引っ張り疑問を投げ掛けるクラン。クロはその場で魔力創造し封を開け取りやすいよう広げ、その場にいた者たちが一斉に手を出し、中には天井から糸を飛ばして持ち去る七味たちの姿もありクロは「剥いてから食べろよ~」と上に向かって声を掛ける。


「これです。これ、懐かしい味ですね~」


「醤油で煮込まれた魚を圧縮しているのかな?」


「これは酒が進む味だな! 長や長老たちが喜びそうな味だよ」


「ん……これは持って帰りたい……長から交渉を頼まれていた……」


 四角いおつまみの感想を言い合っているとクランが何やら思い出したのか懐から出した板をクロへと渡す。


「ん? 何々……白ワインをできるだけと、日持ちする甘味に、白ワインに合うおつまみをできるだけ欲しいと……支払いはビスチェが払うか、ビスチェで払うか……ダメだろこれ……」


 呆れたように口にするクロ。すると、フランが持って来たバッグの所へと走り皮袋を取り出すと戻ってきて広げて見せる。


「これをランクスさまから渡すように言われた。たぶんだけどその支払いに充てて欲しいのだと思う……」


 皮の袋を開けると甘い香りが広がり中には石のように硬い木片数個と、もう一つ革製の袋が入っておりそれを開けると乾燥したキノコがぎっしりと詰まっていた。


「乾燥したキノコは分かるが、こっちの甘い香りの木はエルフの習慣か何かなのか?」


 フランとクランに視線を送り話し掛けるが二人は目を見開いたまま固まっており、困ったクロはエルフェリーンの下に向かう。


「ん? これは香木だぜ~それも最高級の世界樹の香木だぜ~」


「うむ……良い香りなのじゃ……甘い香りの中に清々しい森を連想させるのじゃ……」


「香木はもの凄く高いと耳にした事がありますけど……」


「そうだぜ~なかでも最高級とされるのが世界樹の外皮で作った香木だぜ~大昔に枯れた世界樹が石のように硬くなり甘い香りを発生させるからね~

 枯れた世界樹は僕の知る限り一本だけだぜ~エルフたちにとってこの香木は代々引き継ぎ神を手元に置くようなものだからね~ランクスが手放してまでビスチェを守りたかったんじゃないかな~」


 ニヤニヤとするエルフェリーンにクロは思う。これは返そうと……


 アルコール片手にスンスンと嗅いでいたルビーから香木を取り上げると入れてあった袋に戻して確りと縛り固まっていたフランに持たせ、干したキノコを見つめるクロ。カラカラに乾いているがやや人の形をしているそれに頭を傾ける。


「それは妖精茸と呼ばれるキノコだぜ~干す前は白くて木漏れ日に反射して輝くのが特徴的で、妖精茸がある森には妖精が住むといわれているね。水で戻してからスープにするのが一般的かな?」


「ん……妖精茸は煮込めば溶ける……美味しい……でも、かつお出汁や鶏がらスープの方が美味しいかも……」


 エルフェリーンが説明し、クランが味を説明する。


「こっちも高価だとかはないのですよね?」


 クロがエルフェリーンとクランに視線を送り疑問を口にすると、クランは首を横に振りエルフェリーンは笑いながら口を開く。


「世界樹の香木と比べたらすべてが安価だぜ~妖精茸が市場に出る事はほぼないけど、エルフたちの中でも特別高く取引されているキノコじゃないね~」


 その言葉に胸を撫で下ろすクロ。


「ただ、妖精茸はエルフたちの間では子作り茸と呼ばれているけどね~」


 エルフェリーンがニヤニヤしながら話し、それを耳にしたアイリーンは食べかけていた麻婆豆腐を吹き出し、シャロンは頬を染め、クロはそっと皮袋に戻して紐をきつく締める。


「ん……エルフにとっては重要なキノコ……」


 そう呟くクランの言葉は尤もで、エルフは長く生きながらも子供を産む数が少なくその原因は男にあると言われている。その原因を改善すべく薬として煎じて飲んだり料理に入れたりと女性が工夫を凝らして代々男に飲ませてきた物である。

 それをランクスから送られたクロが困惑するのは当然で、クロとしては見なかった事にして送り返すのが今できる唯一の手段だったのだろう。


 「料金はいらんからフランとクランは明日の朝食当番な……」


 そう口にするクロはキッチンへ戻り、自身で作ったどぶろくをカップに注ぎ入れ飲み干すのであった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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