ミケランジェロと回鍋肉
日も落ちかけたオレンジの空の下、七味たちは専用の厨房を片付けていた。今日はカラアゲに始まりフランクフルトやアメリカンドッグに焼き鳥と様々な料理を作り皆に提供した事で満足感もあり、更には自身たちも初めて食べる味に胃も満たされたのだ。
「ギギギギ」
リーダーである一味が火を落としたBBQコンロに浄化魔法を掛け最後の片付けを終える。まわりの七味たちとハイタッチを決め屋敷へと戻ろうとした時だった。
辺りは薄っすらと暗くなり始め遠きに見える光に一美は警戒の声を上げ、他の七味たちも光源に気が付き警戒態勢を取り、七美が素早く屋敷へと向かい玄関の戸を叩く。するとアイリーンが現れその手には大皿に乗ったこんがりと焼かれた肉を見た途端、両手を上げてお尻を振る。
「これはクロ先輩からの差し入れですよ~最高級の和牛の力を堪能……お客さんですかね?」
アイリーンが来たことで他の七味たちも集まり両手を上げてお尻を振り歓喜の舞いを披露する。
「私が向かいますので七味たちは暖かいうちに食べて下さいね~」
「ギギギギ」の鳴き声が重なりクロの焼いたステーキを口に運ぶ七味たち。アイリーンは足を進め来訪者が待つ敷地の入り口へ向かう。
「お~い、アイリーン!」
「………………久しぶり」
そこにはフランとクランの姿がありその後ろには大きなカタツムリのミケランジェロの姿がある。毎年のように流行り病の特効薬を求め現れるエルフの双子であり、先月はクロに料理を教わりに来るほど親交のあるエルフである。
「オーガにドランさんも来ていますから宴会中ですよ~フランとクランさんもどうですか?」
「本当かよ!?」
「ん……」
フランはテンションを上げて声を上げ、クランは静かに頷くが内心では歓喜していた。フランとクランはクロを師と仰ぎ料理を教わり、成樹祭と呼ばれるエルフたちの祭りで屋台を開き皆の心を掴むことができたのだ。その結果、多くの者たちから求婚されたがすべてを断り、その代わりに錬金工房『草原の若葉』との交渉役という地位を絶対的なものにしている。
里の長であるキュロットが宣言している事もありフランとクランは同族のエルフたちから一目置かれているのだ。
「ささ、ミケランジェロちゃんもクロ先輩がキャベツをくれますからね~」
鳴き声を上げることはないがキャベツという単語に反応した巨大なカタツムリは速度をやや上げ進み屋敷へと辿り着く。
「七味たちは美味しそうなもの食べてるじゃん!」
「ん……あれはきっと美味しい肉……」
クロのステーキを囲み一心不乱に食べる七味たち。それを見たフランとクランに面識があり、ペット兼ライバルとしてクロの下で料理の修行をしていた仲である。一美が片手を上げて挨拶をすると他の七味たちも一斉に片手を上げつぶらな瞳を向ける。
「みんな元気そうで良かったよ。新しい料理とか習ったか?」
「……ん……私たちにもまた教えて欲しい」
二人からかけられた言葉に七味たちは両手を上げてステーキ皿を中心に回り始める。これは仲間が無事に帰って来たと喜んでいるのか、それともクロから教わった料理を二人に披露できると喜んでいるのかはわからないが、楽しそうな光景にクランもその場でクルクルと回りアイリーンとフランは肩を揺らす。
「これ美味いっ! やっぱりクロ師匠の料理が一番だよ!」
「ん……最強……」
フランとクランが屋敷に入り頬を染めるエルフェリーンへと挨拶し、他の者たちとも軽く挨拶をすませるとキッチンへ向かいクロへ頭を下げ、クロはというとそんな二人にの前に湯気を上げる回鍋肉風の炒め物を置く。
「手を洗ってからな~ああ、それとカタツムリたちは来てるのか?」
「ミケランジェロだけ連れてきたからさ、あの丸い野菜をあげて欲しい」
「ん……ここに来たくて何度か逃げ出した……あの野菜が目当て……」
二人はそれだけ言うと手を洗いに走り、クロはアイテムボックスから今年ビスチェの菜園で採れたキャベツと自身が魔力創造で創造したキャベツを出すと外へ向かう。
「うおっ!? 玄関先で待ち構えているとか軽くホラーだぞ……」
大きなカタツムリはちょっとした小屋サイズで、それが目の前にヌッと現れれば誰でも恐怖するだろう。
そんなカタツムリのミケランジェロの殻には多くのロープで縛られ荷物が固定されている。これは移動手段として育てていて得にエルフが多く雨の日には驚くほどの速さで移動する事ができ、雨季の近いこの辺りでは重宝する移動手段となっている。
「ほら、キャベツな~こっちがビスチェの育てた方で、こっちは群馬県産のやつだからな」
キャベツを二つ置いた途端にクロが魔力創造で創造した方に食いつきモシャモシャと食べるミケランジェロ。その食欲に二つじゃ足りないと思ったクロは段ボールに入れられたキャベツを創造し開封する。
「水とかもあった方がいいですよね~」
アイリーンが底の浅い木箱を持って現れアイテムボックスから出したペットボトルの水を入れるクロ。
「長旅だったから疲れただろ」
「これだけの荷物とフランちゃんとクランちゃんを乗せての移動は大変ですよね~」
話し掛ける二人にキャベツを一心不乱に食べていたミケランジェロは顔を上げクロに顔を近づける。が、何度かそのヌメヌメとした親愛行動を受けていたクロはサッと後ろへ避け、アイリーンは避けることなく優しく素手で撫で言葉を掛ける。
「クロ先輩は酷いですね~私は避けませんからね~」
軽い罪悪感を覚えつつ様子を見守るクロ。ヌメヌメを撫でていたアイリーンは満足したのか手を放して浄化魔法を掛けヌメヌメを取り去るとクロと共に屋敷へと帰還し、七味たちも仲良く空になった大皿を持ち中へと進む。
「師匠! さっきの料理の作り方を教えてくれっ!」
「ん……あれは凄い……むふぅ」
キッチンへ戻ると食べ終えた皿を両手で掲げて叫ぶフランに、鼻息荒く賞賛するクラン。
「回鍋肉が気にったみたいだな」
「葉野菜がシャキシャキで肉がガツンときた!」
「むふぅ……あれはライスが進む味……よって無敵……」
「回鍋肉は肉も美味いがキャベツが止まらなくなるからな~作り方はそれほど難しくないし、一緒に作るか?」
クロの言葉に跳ねて喜ぶフランと、立ち上がりキッチンに掛けてある自身のエプロンを装備するクラン。
そんなキッチンの様子を見つめるシャロンは隣に座り白ワインを口にして酔った姉であるキュアーゼが飲み過ぎないようペットボトルの水をグラスに注ぎ入れて渡す。
「あら~お姉ちゃん嬉しいわ~グビグビグビグビ」
重度のブラコンであるキュアーゼがシャロンの勧める水を飲まない訳はなく一気に飲み干し笑みを浮かべる。
「ぷはぁ~シャロンがくれたお水が一番美味しいわ~」
「姉さんは飲み過ぎると次の日必ず頭痛が酷くなるから、もう少しペースを落とした方が……」
「うんうん、そうするぅ~シャロンがいうならそうするぅ~」
シャロンなりにキュアーゼを心配し水を渡したのだが、そんな事よりもキュアーゼにとってはシャロンが心配してくれたという事実が嬉しかったようで頭を左右に振りながら笑みを浮かべ、その揺れで自然と酔いが早く回るのであった。
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