流行り病の特効薬を求めて集まる者たちの飲み会
「お客さんですよ~」
アイリーンが玄関から叫びやって来たのは『若葉の使い』の三名。コボルト族のチーランダとロンダルにその母であるリンシャンである。元冒険者のリンシャンがポンニルの代わりに現役復帰し、流行り病の特効薬を受け取りにやって来たのである。
「丁度良かった皆さんもどうですか?」
玄関に入りブーツを脱ぐ三名に声を掛けるクロ。チーランダは目を輝かせリビングに走りロンダルはチーランダが脱ぎ散らかしたブーツを揃え、リンシャンは微笑みを浮かべクロと挨拶を交わす。
「お気遣いありがとうございます」
「いえいえ、薬を届けて頂いているのでこちらも助かっていますから。色々なお酒と料理を取り揃えてありますので疲れを癒して下さい」
クロの言葉にロンダルとリンシャンがリビングへ向かいエルフェリーンたちと挨拶を交わし、メリリがリンシャンを手招きするとレモンハイを勧め、チーランダはキャロットと白亜の近くに座ると一緒になってカラアゲを口に入れる。
「シャロンさんの卵ですか?」
ロンダルはクロを通して仲良くなったシャロンの元に向かい首から下げている卵だろう膨らみを指差し、傍にいたキュアーゼに軽く睨まれるがシャロンが笑顔で口を開く。
「ロンダルくん! 久しぶり! これはグリフォンの卵で、僕が温めながら魔力を与えています」
「親のグリフォンが温めないの?」
シャロンの横に座り疑問を口にするロンダル。
「サキュバニア帝国のグリフォンは昔から私たちが卵を温め育てているのよ。そのせいかグリフォンたちが子育てをすることはないわね。産んでも放置して私たちを鳴き声で呼ぶぐらいだわ。グリフォンの子が空を飛ぶ練習も私たちが傍に付いてするのよ」
キュアーゼの説明に驚いた顔をするロンダル。
野生のグリフォンは自身で産んだ卵を温めるが、サキュバニア帝国のグリフォンは飼いならされたものを繁殖させている事もあり、子育てはサキュバスたちの大事な仕事となっている。サキュバスの中でも一部の貴族がそれを行い、皇族は必ず一個の卵が与えられ温め育てることになっているのである。しかし、シャロンはインキュバスという男のサキュバスであり、人口比でいえば1000対1と少数なため危険が伴うと反対されグリフォンの卵を育てることなく過ごしてきたのである。
「魔化すれば飛べるから……早く出てきて顔を見せて欲しいな……」
優しく卵を撫でるシャロン。ロンダルは布に包まれている卵を見つめながら空を飛べるのを羨ましく思っていた。
「焼きたてのフランクフルトとアメリカンドッグですよ~そのままでも美味しいですがケチャップとマスタードを掛けると更に美味しくなりますからね~」
アイリーンが現れ焼きたてのフランクフルトとアメリカンドックをテーブルに置き、クロは用意していたケチャップとマスタードを入れたボトルを置くと真っ先に手を出すキャロットとチーランダ。
「マスタードは辛いから掛け過ぎ注意だぞ」
「わかったのだ!」
「私は辛いのも大丈夫~」
キャロットはケチャップを掛けチーランダは両方を掛け口に運び、二人は熱々のフランクフルトの洗礼を受け慌ててクロが傍にあったコップに水を入れて渡す。
「熱々なのだ!?」
「ちょっ!? こんなに熱いなんて聞いてない! でも美味しい!!」
二人はフウフウしながら口へ運び、クロは白亜用にナイフでフランクフルトをカットする。するのだが、そのカットしたものをフォークで刺して口へ運ぶエルフェリーン。ビスチェとドランも同じように口へ運びハフハフと熱々を口に入れ酒で流し、ジト目を向けるクロ。
「だって熱そうだったからね~ハフハフ美味しいよ!」
「クロは優しいわね! ハフハフ」
「うむうむ、クロ殿は優しいのう」
ジト目を向けていたが「キュウキュウ」と鳴きながらクロの足をペチペチと叩く白亜。新たにフランクフルトをカットして皿に盛りテーブルに置くと白亜はフォークを使いそれを口に入れ尻尾を振り、その姿に癒されるクロ。
それを見ていたシャロンは卵に手を置いたまま、僕もクロさんのように子育てを頑張らないと、と口には出さずに誓う。
「ほら、シャロンも見てないで食べろよな。卵を温めるだけじゃなく魔力も送っているんだろ」
クロが皿にアメリカンドッグとフランクフルトを取るケチャップを添えて前に置く。
「はい、ありがとうございます」
「ロンダルもだからな」
「うん! 最近はチー姉ちゃんよりも背は大きくなったからいっぱい食べてもっと大きくなるよ!」
成長期のロンダルの前にはアメリカンドックの他にカラアゲやポテトオムレツなどを置きキッチンへ戻るクロ。
「オーガの皆さんも来ましたよ~」
アイリーンが叫びラライがリビングに突撃しキャロットの横に座り、ラライも顔を見せ数名のオーガたちがリビングになだれ込む。
「こりゃ料理を頑張らないとだな……」
リビングの人口密度が一気に上がりナナイがエルフェリーンへ挨拶を交わし、ラライはキャロットとチーランダからフランクフルトを進められ、大きな口で頬張りその味にテンションを上げクロのいるキッチンへと走る。
「クロ~美味しい~これ美味しい~」
フランクフルトを振りながら現れたラライに「だろ~でも、座って食べないとナナイさんに怒られるからな~」といわれキッチンカウンターの椅子に座り残りを一気に口に入れる。
「モゴモゴ……美味しかったよ! 棒みたいなのに肉なの! 美味しいの!」
「フランクフルトだな。もう一つのアメリカンドックも美味しいから食べてみな」
「うん! 行ってくる!」
嵐のように現れ嵐のように去って行くラライの姿に玉ねぎを刻んでいたクロは、ボリュームのあるメニューも作った方がいいかもなと思案する。
「ええええええええええ、アメリカンもうないの!?」
一足遅かったらしく叫び声を上げるラライ。最後のひとつを口に入れたドランが申し訳なさそうな表情で頭を下げている姿が見えキッチンから窓へ視線を向けるクロ。
視線の先にはアメリカンドッグを揚げる七味たちの姿があり、これならすぐにでも新しいのが揚がるなと確信しながらもラライの好きな料理を作ろうと手を動かす。
「久々にみんなが集まっているからやっぱり肉だよな~」
玉ねぎをカットし終えたクロは魔力創造で大きな肉の塊を創造すると、分厚く切り塩コショウをするとフライパンで焼き始める。適度にサシの入った和牛を魔力創造したステーキ肉は焼けば油が溢れキッチンペーパーで余分な脂を取りながら焼き、隣の窯で余分な脂を吸ったそれをフライパンに塗ると玉ねぎを弱火で炒める。
「アルミホイルは使い終わってたっけ」
アイテムボックスを漁るが目当てのアルミホイルは見つからず魔力創造すると、こんがりと焼き目の付いた肉をホイルに乗せ炒めた玉ねぎと一緒に包み込む。
「分厚いから少し時間が掛かるか」
「ハフハフおいひぃ~」
待ちに待っていたアメリカンドッグを口にしたラライのリアクションがキッチンにも響き思わず笑みを浮かべるクロ
「あんまり煩くすると次からは留守番にするからね」
ナナイに怒られ立ち上がり叫んでいたラライは素早く椅子に腰を下ろすが怒られていたのも忘れているのかアメリカンドックを口に入れ再度立ち上がり、隣に座っていたビスチェが慌ててラライの腰を掴み椅子に座らせる。
「まったくこの子は……はぁ……」
「あはははは、ラライは元気があっていいね~」
大きくため息を吐くナナイに対してエルフェリーンは笑いながらウイスキーを傾ける。そこへクロが現れ分厚く切ったステーキが登場しおろしポン酢を添えて去り、ロザリアが切り分けると我先に口へ運ぶ一同。
リアクションは様々であったがキャロットとラライは立ち上がり「美味しいのだ!」「美味しい!」と叫び、ナナイも思わず立ち上がり目の前で叫ぶ娘のラライと同じリアクションを取りそうになり、口を押えて椅子に腰を下ろすのだった。
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