ニョッキの見た目とウインナー
「幼虫みたいな形なのに美味しいのだ!」
「キュウキュウ~」
ニョッキを食べたキャロットの感想にジト目を向ける一同。楕円形にフォークで筋を付けたニョッキの形はカブトムシの幼虫をイメージしてしまったのだろう。
「キャロットよ、その表現はリアル過ぎるのう。それよりも七味たちが揚げたカラアゲも美味しいのう」
「サクサクなのだ!」
「キュウキュウ~」
七味たち専用に作った外にあるキッチンでは唐揚げを量産しており、揚がったカラアゲを届けるアイリーンはドランの言葉に胸を撫で下ろす。
「うむ、カラアゲに関しては味もクロに並ぶのじゃ」
「これを魔物が料理したと信じる人は少ないと思いますよ~」
「私も窓から見て驚いたわ。『草原の若葉』は人も魔物も凄い人が多いのね」
呆れたように呟くキュアーゼに胸から下げた卵に手を置き温めていたシャロンが口を開く。
「『草原の若葉』は凄い人が多いですよね……僕は特技もないし普通で……」
フォークに刺したカラアゲを口に運んでいたキュアーゼはその手を止めると、肩を落としたシャロンの頭を優しく撫でる。
「シャロンはシャロンじゃない。私が言いたいのは誰も彼もが特技があって凄いって事よ! シャロンはみんなの癒しだもの! 強さでいったらクロよりも上じゃない!」
「それはクロさんがシールドや他の魔法禁止だから……」
俯くシャロンにから揚げの皿を配っていたアイリーンが口を開く。
「何でもありなら私よりもクロ先輩の方が強いかもしれませんね~」
「それはないでしょ! アイリーンの糸を使った狩りを見せてもらったけどアレははっきり言って卑怯よ! 気配の消し方も一流といっていいし、粘着質の糸を放出したり、空に糸を掛けて跳んだり、糸に魔力を通して斬撃にしたり、腰から下げた白薔薇の庭園は美しいだけだったけど一流じゃない! それがクロよりも強いとかありえないわ!」
リビングの席に付いていたキュアーゼはテーブルに手つき立ち上がって大きな声を上げる。
「クロは私のパパに勝ったわよ」
「巨大イナゴを串刺しにしたのもクロなのじゃ」
「剣聖の娘のレーベスさんも圧倒していましたね~」
ビスチェとロザリアにアイリーンからの言葉を聞きキッチンで料理をするクロへと視線を向けるキュアーゼ。その表情は信じられないといったものである。
「まあ、私が言いたいのは何でもアリという状況ですけどね~クロ先輩がもし戦いの中で、もう料理を作らない、と言われたら私は問答無用で棄権しますね~」
ニヤリと笑って話すアイリーン。
「うふふ、私も棄権しますねぇ。この料理が食べられないのは職場の雇用条件に反しますから」
「あはははは、僕だって棄権するぜ~ウイスキーとクロの料理がない人生なんてつまらないよ~」
「私も同感です! クロ先輩よりも弱いですけど……」
メリリにエルフェリーンそしてルビーまでもがクロとの戦いを棄権すると発言し、キュアーゼの中ではそれは強さとは違うじゃないと思いながらも腰を下ろしてフォークに刺していたカラアゲを口に運ぶ。
「ただ、シャロンくんの言い分も違いますね~シャロンくんはその助けたくなる容姿と、負けず嫌いな性格に、最強のBL属性があります!」
拳を固めて力説するアイリーン。
「いいですか! そもそもシャロンくんは最強です! 今だってグリフォンの卵を温めているシャロンくんの姿は保護欲をそそられますし、シャロンくんが困っていたらみんなは手を貸すはずです! クロ先輩と話しているシャロンくんを見ながら心の中では熱い男同士の友情はこんなにも素晴らしいものなのかと思う女子は多いはず! なんなら男性だって多いはず! これはもう最強です! 最強の誘い受けです!」
言いたい事を言いきったアイリーンは額を拭う仕草をするが、後ろからハリセンで殴られスパーンと屋敷内に響き呆れていた者たちの視線を集める。
「昼間からシャロンを苛めるな! それよりも次のカラアゲを運べ! 七味たちが次揚がったと、こっちに手を振ってるからな」
窓の外から両手を振る二美と山盛りのカラアゲを乗せた皿を持つ三美の姿がありアイリーンは笑顔で急ぎ外へと向かう。
「まったくアイリーンは頼りになるけど腐っているからな……はぁ……ほら、シャロンもしっかり食べてグリフォンの卵を温めような」
クロの言葉に顔を上げるシャロンは「はい!」と返事するとトマトソースを和えたニョッキを口に運ぶ。
その様子にキュアーゼはシャロンが落ち込んでいたのが嘘のように変わり、クロへと視線を向ける。クロが新たに持って来たポテトオムレツを配って歩き、テーブルから落ちそうになっていたグラスを戻したり、空いた皿を片付けたり、サラダを前に腕を組んでいたロザリアにドレッシングを進めたりとフォローに徹している。本来ならメイドがするような事だがここのメイド二名は食べ始めており、ほぼ身内であるメルフェルンの態度に眉間に深い皺を作るが隣に座るメリリと楽しそうに会話をしながら食べる姿に自然と皺が取れ、キュアーゼもテーブルに登場したポテトオムレツを皿に取り口へ運ぶ。
「ホクホクしながらもシャキシャキしているのがいいわね。それに添えてあるこのパッキとする肉? が美味しいわ」
「ウインナーと呼ばれる肉料理ですね。パッキとするのは腸という内臓に肉を詰めているそうです」
シャロンの言葉に顔を引き攣らせるキュアーゼ。内臓を食べる文化はあるのだが腸はあまり使われることはなくそのまま埋めて土に返すことが多い。その腸を敢えて使っている事に顔を引き攣らせたのだ。
「これはお高いウインナーじゃないですか!」
カラアゲを持って来たアイリーンがウインナーに反応し声を上げ、楊枝でひとつ刺すと口へ運び表情を緩める。
「うんうん、やっぱりこれが美味しいね。ウイスキーとの相性もいいし、この玉子焼きも美味しいよ~」
「この肉汁があふれ出る肉は妻にも食べさせたいのう……ぷはぁ~」
エルフェリーンとドランは既にウイスキーを飲み始め、それを見たルビーとロザリアは互いに視線を合わせ無言で頷き合いアイテムバックからウイスキーの瓶を取り出すと互いに酒を酌み交わす。
「ウインナーでしたらお土産にいくつか用意しますね」
「おお、それは嬉しいのう。妻が喜ぶ顔が目に浮かぶわい」
「ウインナーといえばフランクフルトも美味しいですよね~炭火焼で炙ったフランクフルトとか最高に美味しい気がします!」
「祭りやコンビニの定番だよな~炭火で炙った事はないけど美味そうだな」
アイリーンの言葉を受けクロは魔力創造を使いコンビニで売っていているアメリカンドッグと棒に刺さったフランクフルトを創造するとアイリーンに持たせる。
「七味たちに焼いてもらってくれ」
「まだカラアゲもしていますから丁度良かったですね~」
スキップで外へと向かうアイリーンを見送りキッチンへ戻ろうとしたが裾をクイクイと引かれ振り返る。そこにはビスチェとキュアーゼの姿がありピンときたクロはアイテムボックスのスキルを使って白ワインをニ本取り出す。
「クロは分かっているわね!」
「ありがとっ!」
クロから白ワインを受け取った二人は席に戻り宴会へと姿を変えた昼食。クロはワイワイとテーブルを囲み飲み食いする皆を見ながら、夕食は軽いスープにして夜まで居酒屋メニューを少しずつ作っていこうとキッチンへ戻るのだった。
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