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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十四章 シャロンの子育て日記
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七味たちのリクエスト



「爺さまが飛んでたのだ!」


 元気な声が庭に響き白亜もクロの胸の中で嬉しそうな鳴き声を上げ尻尾を振り、遅れてやってきたドランと挨拶を交わすクロたち。


「竜王国の元陛下……」


 顔を引き攣らせながら呟くキュアーゼ。シャロンは立ち上がり会釈をするとドランは見慣れないサキュバスがいると声を掛ける。


「うむ? 初めて見る者が居るがカリフェルの娘かの?」


「ひゃ、はい、キュアーゼ・フォン・サキュバニアです……」


 姿勢を正して挨拶をするが最初に噛んだことでシャロンは肩を揺らしまわりからもクスクスと笑い声が上がり顔を赤くするキュアーゼ。ドランは優しそうな笑みを浮かべながら「ドランじゃ」と短い挨拶を交わし走って来たエルフェリーンに深く頭を下げる。


「ドラン! 元気だったかい!」


「はい、お陰様で以前よりも若々しくなったと妻から言われておりますよ。ガハハハハ、今日はゴブリンたちの流行り病の特効薬を取りに参りました」


 大きな声で笑うドランにエルフェリーンもニコニコしながら旧友の来訪を喜ぶ。エルフェリーンは大昔にドランとカリフェルにラルフと数名の友を連れ諸国をまわり見聞を広めた事があり、その友たちも寿命を終え墓の中に眠っている。

 種族ごとに寿命が違い、ハイエルフ、ドラゴニュート、サキュバス、ヴァンパイアといった仲間だけが生き残っている。寿命に関しては種族でも違うが魔力量に比例する傾向があり世界最高峰の魔力を持つハイエルフやサキュバスにヴァンパイアなどは高齢でも見た目が若くそれだけ寿命が長いのである。


「ばっりち用意できてるぜ~今日は泊まっていくかい?」


「それは嬉しいお誘いですな。クロの料理が食べられると思うと酒が進むというものです」


 エルフェリーンからクロへと視線を向けたドランに、クロは頷き酒が進むだろう居酒屋メニューを思案する。


「ドランさまも菓子パンを作りましたのでお茶と一緒に如何ですか?」


 メルフェルンの言葉にドランは「うむ」と頷き席に付く。胸にしがみ付いていた白亜も甘えた鳴き声を上げ、思案していたクロは白亜を持ち上げ菓子パンを見つめ涎を流しているキャロットに渡すとキッチンへ向かおうと歩みを進め、その後ろをアイリーンと七味たちにシャロンが付いて行く。


「うふふ、ささ、キュアーゼさまもどうぞ~」


 シャロンを目で追っていたキュアーゼをメリリが強引に席に付かせるとメルフェルンが作った菓子パンを皿に分けジャムを進める。


「ドライフルーツを入れた菓子パンとは懐かしいね!」


「うむ、大昔にカリフェルが焼いてくれたものを食べた事があったが素朴な味わいで美味かったのう」


 エルフェリーンとドランが菓子パンを口に運び昔を懐かしむように口を開くとキュアーゼが目を見開く。


「お母さまが料理をしたのですか!?」


「ああ、してくれてぜ~この菓子パンとは違って少し苦かったけど美味しかったぜ~」


「うむうむ、焦げてはいたが温かな気持ちの籠った菓子パンじゃったのう。もちろんこの菓子パンも絶品だ。ふんわりとしながらもまわりがカリカリで甘すぎないのがいいのう。クロの出す菓子はどれも我には甘すぎるから丁度良いのう」


「クロの菓子は菓子で絶品なのじゃ。甘味が苦手なものにはこちらの方が口に合うのかもしれんのじゃ。爺さまならこちらを選ぶと思うのじゃ」


 ロザリアも会話に加わり菓子パンを口へ運びメルフェルンは得意げな表情を浮かべつつロザリアのカップに紅茶を注ぎ入れる。


「美味しいのだ!」


「キュウキュウ~」


 一口サイズの菓子パンをひょいパクと口に入れ叫ぶキャロットと白亜。たっぷりのジャムを付けて食べる二人に笑みを浮かべるドラン。孫はいつまでたっても可愛いのだろう。







 屋敷に戻ったクロは昼食を考えながらキッチンへ向かい竈に火を入れる。普段使いしている魔剣に魔力を通すと刃先がオレンジに輝き、それで薪を撫でるよう擦るとすぐに火がつき竈へ入れる。


「夕食に飲むだろうから昼食は簡単なものでいいかな」


「その考えは甘いと思いますよ~ドランさんと師匠が一緒なら紅茶からウイスキーへすぐに変わりますね~」


 後ろから聞こえた声に振り向くとキッチンカウンターにはアイリーンがおり、その一つ間隔を開け椅子に腰かけるシャロンの姿があった。


「七味たちも来たのか。何か食べたい料理はあるか?」


 空いている椅子の上には七味たちが乗っており片手を上げ、クロの質問には念話ができる一美が両手を上げて意思を送る。


『肉じゃが、じゃがバター、ポテトサラダ、ポテトフライ、コロッケ、ニョッキ』


 一美の念話に他の七味たちが椅子の上で両手を上げお尻を振りジャガイモレシピを期待しているのだろう。


「ならニョッキを作るか。アイリーンと七味たちも手伝ってな」


 クロの言葉にアイリーンが七味たちに浄化魔法を掛け、クロはアイテムボックスに入れてあるジャガイモを取り出すと水で洗い茹で始め、同時に竈に鍋を置くと大量の水を入れ沸かして行く。


「洗ったジャガイモは半分に切って茹でるからカットを宜しくな」


「ギギギギ」


 ギギギの声が重なり七味たちの元へ洗ったジャガイモを置くと素早く糸でカットする七味たち。十センチほどの糸を操り魔力を通してカットしザルには大量のジャガイモが山積みになりクロは鍋へと入れ茹でて、アイリーンは玉ねぎをみじん切りにしニョッキに合わせるソース作りをする。


「玉ねぎを軽く炒めたらひき肉に塩コショウしてニンニクを入れて、最初はあまり動かさないようにすること、肉感があって美味しくなるからな」


 クロは説明しながら竈にフライパンを置くと玉ねぎを炒めてひき肉を投入する。それを凝視している七味たち。竈の上の壁には七味たちが掴まりやすいようフックなどが取り付けられており、それに掴まり料理を覚えるべく見つめる。


「私が言うのもなんですが、クロ先輩が七味たちに今すぐにでも襲われそうに見えますね」


 料理するクロの上から凝視している七味たちを見てそんな感想を漏らすアイリーン。七味たちはそんな事をしないと抗議のギギギという声を上げ、中にはそんな事はしないと手を横に振る七味もいるほどである。


「七味たちはそんなことしないよな~ひき肉に焼き色が付いたら軽く解しながら更に炒めて、トマト缶を投入しコンソメの顆粒を入れて水を入れて煮込む」


「ジャガイモに火が入りましたよ~竹串がスッと刺さります」


 アイリーンからの報告にクロは大鍋から手持ちの付いたザルでジャガイモを取り出し大きなボウルへ移動させる。湯気の上がるジャガイモにフォークを刺して皮を剥くアイリーン。七味たちも糸でフォークを固定し糸を使って器用に皮を剥き、クロはソース作りに戻り混ぜながらトマトを潰し焦げない様に撹拌する。


「剥けましたよ~」


「それなら塩コショウして小麦粉入れて潰してくれ」


「ついにマッシャーの出番ですね~」


 マッシャーを使い茹でた芋を潰し小麦粉を入れ混ぜ、アイリーンが丸く成形し七味たちがフォークを使い凹凸をつけ、クロはソースの味見をし完成させる。


「後は茹でてソースと絡めて完成だな。粉チーズを掛けても美味いと思うぞ」


「早く食べたいですね~」


「ああ、その前にサラダも用意しような」


 キッチンから流れるトマトソースの香りにキャロットや白亜に小雪が集まりドランたちも屋敷へとやってきてお腹を鳴らすのであった。









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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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