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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十四章 シャロンの子育て日記
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菓子パンと流行り病の特効薬


 

 庭の片隅にテーブルとパラソルを出してゴリゴリとヒカリゴケを潰す日々が続き、錬金室ではエルフェリーンとビスチェが潰したものを流行り病の特効薬へ加工している。


「今日も精が出るのじゃな」


 ゴリゴリとヒカリゴケを潰すクロの横に座り話し掛けてきたのはロザリアで、やや幼そうな表情で潰しているヒカリゴケを覗き込む。


「最近は感染予防が確りとできているのであまり感染してないそうですが、それでも流行る時は爆発的に流行りますから特効薬は作らないとですね」


「うむ、手洗いうがいにマスクなのじゃ。我も商人から赤いマスクを買ったのじゃ」


「シンプルなものから柄入りのものまで、いろいろと売っていましたよね」


「うむ、花柄やレースのものまで様々じゃな。冒険者などしていると邪魔になる事は多いが街中ではファッションのひとつとして売り出されておったのじゃ」


「貴族たちは派手なものを好んで買っていましたね」


 クロの隣に座っていたシャロンはウトウトとしながらも会話に参加し、その胸には布で巻かれたグリフォンの卵を首からかけて温めている。時折、両手に魔力を集中させて卵を撫でその魔力を与えているのだ。


「子育ての方も順調そうなのじゃな」


「子育てというよりも温めて魔力を流しているだけですが……いつもよりも時間がゆっくりと流れている気がします。ここは平和で静かなのでグリフォンの卵を温めるのには丁度良いかもしれません」


 微笑みを浮かべ布に包まれた卵に手を置くシャロン。ロザリアも小さく頷き頬を撫でる風の心地よさとゴリゴリと規則正しく聞こえる音をBGMにゆっくりとした時間を楽しむ。


「お茶を入れて参りましたが、如何ですか?」


 メリリとメルフェルンのメイド二人がトレーにカップに入れた紅茶を配り、うつらうつらしていたシャロンは素早くグリフォンの卵を守るように手で包む。お茶が零れても卵を守ろうと動いたのである。


「本日はサキュバニア帝国に伝わるお茶菓子もご用意しております」


 微笑みながら話すメルフェルンにクロはアイテムボックスを開きかけた手を止め、テーブルに置かれた平たいパンに視線を送る。ドライフルーツが練り込まれているのか彩色が美しく宝石を散りばめているように見え、それをナイフでカットするメルフェルン。


「クロさまがお出しする菓子とは違いますが、これはこれで美味しいのでお茶と共にお召し上がり下さい。私が焼きました」


 賽の目上にカットしたそれを口に運ぶロザリア。シャロンとクロも口に運びやや硬いパンのような食感にドライフルーツの自然な甘さと香りを感じつつ紅茶で流し込む。


「うん、懐かしい味ですね。美味しいです」


 シャロンの笑みにメルフェルンが鼻の穴を大きく広げ頬を染める。


「うむ、我にも懐かしい味なのじゃ。昔、爺さまとサキュバニア帝国の宿に泊まった時に食べたのじゃ。あの時はもっとボソボソしておったが、これは美味しいのじゃ」


 ロザリアも以前食べた事あるのか、その時の味と比べ満足気に次を取り口に運ぶ。


「はい、本来ならロザリアさまが言うようにボソボソとした食感なのですがクロさまにお願いしてドライイーストなるパン作りに使うものを借りて作りましたので、ふんわり感が出ております。焼きたてでシットリとしているのもありますね」


 本来なら無発酵で作られる菓子パンのようなお菓子で、サキュバニア帝国発祥のお茶菓子である。練った小麦粉に少量の砂糖と塩を入れドライフルーツを散らし混ぜオーブンで焼いたものを紅茶などの友として食してきた。祝い事に使われることが多く蜂蜜や水で溶かした砂糖に付け食べることもある。


「うふふ、蜂蜜とジャムのご用意もありますよ~」


 メリリがアイテムバックから各種を並べるとロザリアはお気に入りのイチゴジャムを皿に端に添え付けて口に運び、シャロンは最近ハマっているメイプルシロップを皿に流し入れそれを付けて口に運び、クロはそのまま口に入れドライフルーツの風味を楽しむ。


「なにそれ! なにそれ!」


「甘い? 甘い?」


「僕も食べたい!!!」


 甘い匂いを嗅ぎつけた妖精たちが襲来し一番分けてくれるだろうクロの頭のまわりを飛び交い、メリリの許可を取ると木皿に分けジャムや蜂蜜を付けて渡すと妖精たちはクロの近くのテーブルに座り齧り付く。

 メルヘンな光景に菓子パンを焼き上げたメルフェルンは微笑みを浮かべ、ロザリアやシャロンも大きな口を開けて齧り付くさまに微笑みを浮かべる。


「あら、菓子パンじゃない」


「妖精たちとブランチタイムとはクロ先輩はオシャレですね~」


 空から現れたのはシャロの姉であるキュアーゼとアイリーン。遅れて七味たちと小雪が現れメルフェルンが新たに菓子パンを切り、皿と紅茶を用意するメリリ。


「確かにオシャレな光景だよな。それにファンタジーな感じもするし……」


 日本でオープンカフェなどに入る事のなかったクロは、異世界でそれをしている自身に軽く驚きながらアイリーンたちが座れるよう椅子をアイテムボックスから取り出し設置する。


「あら、気が利くわね。クロの良い所だけどシャロンは渡さないわ!」


 そう言いながらフェンリルの卵を撫でていたシャロンの肩に手をまわすキュアーゼ。シャロンは気にした様子もなく卵を優しく撫で続け、それを耳にしたアイリーンは口を尖らせながら足元でへっへする小雪の頭を撫でる。


「渡さなくてもいいからおしぼりで手を拭こうな。ほら、アイリーンも」


 おしぼりを受け取ったキュアーゼとアイリーンはメリリが入れた紅茶とメルフェルンが焼いた菓子パンを口に入れる。


「王宮で食べたのよりも美味しいわね」


「何だか懐かしい味がしますね~日本でも同じような菓子パンを食べた事がありますよ」


「はい、私の自信作です! クロさまに魔法の粉を頂きましたのでその練習に作りました!」


 胸を張り魔法の粉というメルフェルンに顔を引き攣らせるキュアーゼとアイリーン。ドライイーストだと知っているクロとロザリアは肩を揺らし、メリリは「ドライイーストと呼ばれるパンを膨らませる粉ですよ~」とすぐにばらしてクロへ紅茶のおかわりを注ぎ入れる。


「ドライイーストなら納得ですね。パンが膨らむ魔法の粉です」


「パンを膨らませる?」


「そうですね。イースト菌と呼ばれるものがガスを発生させてパンの間に気泡を作りふんわりとしたパンが焼けます。一昨日の朝食に出した四角いパンがそうですね」


「あれはまわりがカリカリして中がふんわりしていたわ。それを作るための魔法の粉を使ったのね!」


 キュアーゼの魔法の粉という発言に、もうそれでいいか思うクロ。事実、この世界には柔らかいパンはなく発酵させて作っているのは酒ぐらいである。最近ではゴブリンやオーガの村で酒と醤油に味噌を作っているが街中で発酵食品を見かけることは少ない。チーズもあるのだがフレッシュなチーズが殆どで、熟成させたチーズのように発酵させて作られているものがないのが現状である。


「そんな感じですね。おっ、キャロットと白亜たちも降りてきた……もう一頭ドラゴンが見えるけど……」


 魔化したキャロットが上空から舞い降り二階建ての一軒家サイズに、相変わらず大きいなぁと思いながらその頭から降りて飛んでくる白亜を胸で受け止めるクロ。キャロットも魔化を解きこちらへ走り、もう一頭いたドラゴンも舞い降り魔化を解く。


「ドランが来たのかな!」


 屋敷から大声を上げるエルフェリーン。その言葉通りに魔化を解いたのはキャロットの祖父であるドランであり、優しそうな笑みを浮かべ軽く会釈をするとクロたちの元へゆっくりと歩き出すのであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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