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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十三章 お騒がせハイエルフ
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二柱からのお願い



 蟹グラタンを最後にキッチンの片付けをしているクロたち。ここの主である料理の女神ソルティーラは熱心に料理雑誌とにらめっこしており、天使たちが空いた皿やグラスを持って来てはゆるキャラ天使であるヴァルが浄化魔法を掛けて回っている。


「ふぅ、こんなものかな……」


 竈や水回りに使った器具などを片付け終えたクロがキッチン内を見渡し確認しているとノックの音が響きドアから顔を出す叡智の女神ウィキールと愛の女神フウリン。


「少し構わないだろうか?」


「クロさんにお願いがありますぅ~」


 二柱の登場にクロは「どうぞ、こちらに」とキッチンへ招き椅子を用意するとそこに座り笑みを浮かべる愛の女神フウリン。叡智の女神ウィキールはクロを見つめると口を開く。


「今日の料理は素晴らしかった」


「とても美味しかったですぅ~」


 二人からの料理の感想に微笑むクロ。手伝いをしていたシャロンとメルフェルンも笑みを浮かべ、天使たちは宙を舞いながら喜ぶ。


「それは良かったです。えっと、ソルティーラさまがあの調子なのでアレですが耳に入れば喜ぶと思います」


 こちらの話し合いなど耳に入っていないのか熱心に雑誌を熟読する料理の女神ソルティーラ。


「ああ、アレはアレで正常だから問題ない。それよりもだ。クロはドワーフの王から頼み事をされていただろう」


「はい、ウイスキーの受注ですね。残りの五十本を二週間後までに用意したいと思います。ただ、これからは流行り病の特効薬の製作で忙しくなるので……」


「そうですぅ~それで私たちがぁ手伝いに来たのですぅ~」


 申し訳なさそうに口にした叡智の女神ウィキールとは違い、笑みを浮かべたまま喋る愛の女神フウリン。


「手伝いにですか?」


「そうですよぉ、前にも同じような事がありましたよねぇ」


 その言葉に思い出したのはクロが創造魔力を使い特上のお寿司を大量に創造して多くの神たちに振舞ったのだ。魔力枯渇の心配がないよう愛の女神フウリンと叡智の女神ウィキールがクロへ魔力を注ぎ大量のお寿司を創造したのである。


「あの……それって……」


「今思っている通りだ。私が魔力を分け与えるから魔力創造でウイスキーを量産するといい。その、あれだ。梅酒とカクテル缶を我々にも創造して欲しいのだ」


「魔力のぉ注ぎ過ぎに注意しますからぁお願いしますぅ」


 一瞬頭に過った魔力の注ぎ過ぎという言葉に頬を引くつかせるが、まだこの世界にない酒を求めての行動とドワーフの国王であるドズールを二週間も待たせなくてすむという事実に「わかりました」と口にするクロ。


「ほ、本当か!」


「ありがとうですぅ~」


 二柱からの歓喜の声が上がりクロは口を開く。


「あの、きっとエルカジールさまも白ワインやウイスキーを持って帰りたいと要求すると思うので、その分の魔力も頂けませんか?」


「もちろんだ! その程度なら全く問題ないぞ!」


「私たちはぁこれでも中位の神ですぅ。神力を魔力に変えてクロに送ったとしてもぉ百本や二百本どころかぁ、業者の使う箱で創造できますぅ」


 珍しくテンションを上げ喜ぶ叡智の女神ウィキール。愛の女神フウリンは両手を合わせて喜びの声を上げつつクロへ飛びつき抱き締める。


「ちょっ!? フウリンさま!!!」


 驚いたクロが声を上げると愛の女神フウリンはスッと離れ悪戯っ子のような笑みを浮かべる。


「感謝のハグですぅ~でもでもぉ、怖い視線を感じたのでぇ二秒が限界ですぅ」


 怖い視線に心当たりのないクロだったが頬をパンパンにしているシャロンと、そのシャロンの嫉妬を見てジト目を向けるメルフェルンの姿に顔を引き攣らせる。


「まあ、あれだ。早く終わらせて会場へ戻ろうか」


 叡智の女神ウィキールの提案に乗りクロは魔力創造でウイスキーを増産し始め、愛の女神フウリンと叡智の女神ウィキールはクロの肩に手を置き魔力をゆっくりと流し始める。魔力創造を発動すると魔法陣が浮かび上がりその上にウイスキーが現れるのだが、素早く次を作るため次々に手の場所を変えて創造し、魔法陣に乗っているウイスキーをシャロンが取りテーブルに置き、メルフェルンがテーブルの端へと移動させ、流れ作業であっというまに五十本を完成させる。


「ふぅ、魔力があればあっという間ですね。シャロンとメルフェルンさんも助かります」


「クロさんを手伝えたと思うだけで僕は十分ですから……」


「私も手伝えただけで満足しました……」


 頬を膨らませていたシャロンだったが今ではその表情も晴れ笑顔を浮かべ、メルフェルンもやや棘のある言い方だったが拳を固めている。


「次は梅酒ですね。どれほど創造しますか?」


「では、ニ十本ほど頼めるだろうか。それと缶の梅サワーも頼む」


「私はぁカクテル系の缶を五箱ほどお願いしますぅ。色々な味がいいですぅ」


 メルフェルンの拳には触れずリクエストに応えるべく魔力創造を開始する。


 梅酒の瓶が創造されると若干叡智の女神ウィキールからの魔力供給が高くなりそれを感じたクロは創造するスピードを上げ、シャロンとメルフェルンは額に汗を掻きながら受け取り移動させる。テーブルがウイスキーと梅酒で置き場がなくなるとクロが魔力創造を終了させアイテムボックスに収納し、叡智の女神ウィキールも神力を使い自室に転移させる。


「無理を言ってすまないな」


「いえ、ウィキールさまには色々とお世話になっていますし、前に図書館であった時も………………助かりました」


 数秒ほど落ちた天使の事を思い出していたクロだったが叡智の女神ウィキールから何かされたかという事が思い出せなく、助かりましたという漠然とした感想を口にする。


「あの時に助けられたのは私の方だ……私の聖域にあの様な禁書があるとは気が付かなかったからな……本当に感謝している……」


 深く頭を下げる叡智の女神ウィキールに「いえいえ、あれは師匠たちのお陰ですから」と口にし、袖をクイクイと引かれ下から覗き込むように視線を向ける愛の女神フウリンからのリクエストに応えるべく魔力創造でカクテル系の缶の入った段ボールを創造する。


「これひとつに二十四本も入っているのですね」


「普段はひと缶ずつ創造しているからな。コンビニの時は裏で管理するのが大変だったが、その経験が生かせて良かったよ」


「それは良かったですぅ~」


 皮肉という訳ではないがクロが口にした言葉に笑みを浮かべ口を開き、創造されるカクテル系の段ボールを見てうっとりと目を細める愛の女神フウリン。


「神さまとはいえ飲み過ぎは体に悪いと思いますので注意して下さいね」


「もちろんですぅ~」


「ああ、それは気を付ける心算だ。神がアルコールに溺れては示しがつかないからな」


 魔力創造を終えたクロの言葉に両手を重ねて喜ぶ愛の女神フウリン。叡智の女神ウィキールは自分を戒めるべく深く頷き休肝日を作ろうと心に誓う。


「あれ? まだ何か料理を作っているのかい?」


 キッチンのドアから顔を出したのはエルカジールであり、ほんのりと頬を染め手には白ワインを持ち段ボールを初めて目にしたのか興味深げに頭を傾け見つめる。


「これは私のですぅ~」


 そう口にして段ボールに手を置き瞬時に消して見せる愛の女神フウリン。


「なっ!? まだ何が入っているか解ってないのに消すことはないじゃないか!!」


「ダメですぅ~アレは内緒ですぅ~欲しいのならクロに頼むといいのですぅ~」


 口を尖らせた愛の女神フウリンにエルカジールはニヤニヤと笑みを浮かべクロに飛び付き「あの箱には何が入っているか教えてくれよ~」と子供のように叫び、クロは大きくため息を吐きながら段ボールだけを創造するのであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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