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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十三章 お騒がせハイエルフ
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グラタンと屋敷の二人



 会食会場に天使の群れが料理を運ぶと歓声が巻き起こり湯気を上げる料理がテーブルに置かれ手早く料理を分ける天使たち。


「これは見事な……」


「こんなにもダイナミックな料理があるとは驚きなのじゃ……」


「岩蟹の爪を器として使うとは僕も驚きだよ~」


 岩蟹の爪を横半分に切りマグマのようにボコボコと湯気を上げ、こんがりと狐色に焼かれたチーズからは香ばしい匂いが漂う。お腹を摩っていたシュミーズやドズールだったが、目の前の皿に盛りつけられたそれを前にすると自然にフォークを握り少量を息で冷まし口へ運ぶ。


「蟹の体を容器にした蟹グラタンは食べた事がありますけど、爪を器にするとか異世界感があっていいですね」


 アイリーンの言葉は皆から華麗にスルーされ、ハフハフとしながらも熱々の蟹グラタンを口に運ぶ一同。


「うまっ!? これは絶品だわ! 口の中を軽く火傷していても食べたくなるわ!」


 女神ベステルは先ほどのカニ春巻きで口内を軽く火傷しているがそれでもハフハフと息を吐きながらグラタンを食し、愛の女神フウリンと叡智の女神ウィキールも同じように口に運び満足げな表情を浮かべる。


「ハフハフ……ゴロリと入っているカニが美味しいですぅ」


「チーズの部分はパリパリとしながらも蕩けているのがいいな。これは冷たい梅酒サワーと相性も良さそうだな」


 誰もが自然と笑みを浮かべる会場をこっそりと覗き見ていたシャロンはキッチンへと戻りその様子をクロへと伝える。


「クロさん! 皆さん美味しそうに食べています! 聖女さまや聖騎士の方々は無言で食べているほどでした!」


 テンション高く伝えるシャロンにクロは無言で頷き、蟹グラタンを作る手伝いをしていた料理の女神ソルティーラも笑みを浮かべる。


「蟹の爪を器にするのは面白いアイディアでしたね」


「あれだけ大きいと器として使えましたね。それにしても包丁にもエンチャントを施している事に自分としては驚きましたが」


「はい、この包丁は武具の女神フランベルジュさまにお願いして作っていただいたものですから。硬い岩蟹の甲殻だろうが魔力を通せば豆腐のように斬る事が可能です」


 蟹の爪を横に一閃した包丁を手に持ち説明する料理の女神ソルティーラ。万能包丁の様な見た目だが波紋が美しく魔力を流すと波紋に沿って黄金の輝きが現れ「異世界感があるなぁ」と口にするクロ。


「本当に美しい包丁ですね。アイリーンさんの白薔薇の庭園みたいです」


「アレとは兄妹の様なものですから……変なエフェクトを入れられなくて良かったです……」


 白薔薇の庭園は魔力を流すと白いバラの花びらが舞い散るエフェクトが現れ、それを危惧していた料理の女神ソルティーラは受け取った際にエフェクトが出ないことを心底ホッとしたのだ。


「アイリーンさまは気に入っておられましたが……」


「見た目は確かに美しいのです。見た目は、美しいのです……ただ、料理中に花びらが舞い鍋に入ると思うと、どうしても許せないといいますか……」


 同じことを二度言い強調する料理の女神ソルティーラ。クロも「異物混入だと考えると確かにそうですね……」と理解する。


「ハフハフ……このグラタンという料理は美味しいですね。前に食べたポテトグラタンやライス入りのドリアも美味しかったのですが、今日の蟹グラタンが一番美味しく感じます」


 キッチンでは味見用に用意した蟹グラタンをメルフェルンが食べ感想を述べ、シャロンや手伝いをしていた天使たちも口にして表情を溶かしている。


「蟹はうま味成分のグルタミン酸が多く入っていますし、アデニル酸は塩ゆでする事で更に旨味が増しますね。カニの殻からも旨味成分のグルコサミンが溶け出していると思うので美味しく感じると思いますよ」


「ほうほう、やはりクロさまは博識ですね。また手伝えるような時があればお声がけ下さい。どんな用事があろうとも駆けつけさせていただきます」


 料理の女神ソルティーラから深く一礼されたクロは「こちらこそお願いします」と頭を下げ魔力創造で数冊の料理雑誌を想像すると頭を上げたソルティーラに手渡す。


「言語が違うので読めないかもしれませんが、ソルティーラさまなら写真を見れば理解できると思いますのでお受け取り下さい」


「宜しいのですか!? ありがとうございます」


 目をキラキラさせたソルティーラは雑誌を受け取るとページを捲り始め目を皿にして次々にページを進める。


「天使さんたちもありがとうございます。それにヴァルもありがとな」


 クロに召喚されるまでもなく現れたゆるキャラ天使のヴァルは天使たちに混じり配膳を手伝っていた。最近は七味たちが料理を覚ええる為に手伝っており、呼ばれることが少ないヴァルは天使たちから役に立つだろう魔術などを教わり天界で暮らしていた。クロが来たという事を知ったヴァルは急ぎクロが料理するキッチンに現れ手伝いを申し出たのである。


「いえ、ヴァルは主様に仕えるホーリーナイト! いつでもお呼び下さい!」


 頼もしい返事を受けたクロは最近ほったらかしていた事を反省するのであった。









 一方、居残り組の二人はグリフォンの馬房の前で世話をしていた。


「うふふ、こうして見ると可愛い者ですねぇ」


「ええ、そうよ。グリフォンは可愛いの。特に鋭く見えるけど優しさのある瞳が可愛いわ。懐けば身を寄せてくるし、寒い日はその翼で優しく包んでくれるのよ」


 メリリは箒を持ち隅々まで綺麗に掃き出し、キュアーゼは藁の代わりに敷いているクロが創造した毛布を新しい物と変えていた。


「それにしてもグリフォンの産卵に立ち会えるとは驚きです。長く生きておりますが初めて拝見しましたが、あっさりとしたものなのですね」


「グリフォンの体格からしたら卵が小さいからね。多い時は一度に三つ産む事だってあるわ。この子は初めてのことだから心配したけど……」


 卵を温めているグリフォンの背を優しく撫でながら話すキュアーゼ。本来ならキュアーゼもクロたちと共にダンジョンへ潜る予定だったが、グリフォンの異変に気が付き様子を見る為に泣く泣く残ったのである。


「卵が無事産まれて良かったですねぇ」


「ええ、このままゆっくりと温めれば二十日ほどで殻から出てくるわ」


「ピルゥゥゥゥゥゥゥ」


 喉を撫でられたグリフォンが気持ち良さそうな声で鳴き自然と微笑む二人。


「本当に可愛いものですね。以前襲われた時は空から襲ってくる脅威に逃げるしかなかったのですが、手名付けるのもアリですね」


「それができるのはごく一部の天才的なテイマーだけよ。私たちはグリフォンを神獣と崇め、卵の時からお世話をしているのよ。一時期は乱獲で個体数が減ったけどサキュバニア帝国総出で保護に動き個体数も増えたわね。

 そうそう、私たち皇族にはグリフォンが与えられるんだけど、シャロンには危ないからと母さんや家臣の者たちが反対したのよ。だからシャロンが乗るフェンフェンは本当の意味でパートナーとは言えないわね」


「シャロンさまは小さな時からフェンフェンと一緒だと言われていましたが?」


「そうね。それでも本当のグリフォンのパートナーになりたいのなら卵のうちから温めるのを手伝い魔力を流さないとダメなのよ。卵のうちから魔力を流すと私のことを信頼してくれるし、なによりも思いが伝わるもの」


「ピルゥゥゥゥゥゥ」


 甘えた声を上げるキュアーゼのグリフォン。


「もちろんシャロンが望めばだけど……」


「ピルゥ」


 そう呟くキュアーゼにグリフォンは頭を擦り付け一声上げ「私も賛成よ」とでも言っているかのようである。


「うふふ、まるでキュアーゼさまはグリフォンの母親のようですねぇ」


「そうかしら……早く帰ってこないかしら……」


 グリフォンを優しく撫でながら弟の帰りを待つキュアーゼ。メリリは手を動かしながら夕食はどの三分ラーメンとレトルト食品にしようかと思案するのであった。








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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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