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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十三章 お騒がせハイエルフ
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非常識



 女神ベステルが創造したのはエルフェリーンが討伐した岩蟹キングほどではないが、その爪は大きくカニの身の繊維が太く食べ応えがあり食感はエビに近いものであった。


「こちらは蟹チリになります。少量ですが辛みのあるスパイスを使っております」


 ぶつ切りにした蟹の身をチリソースで和え多めの長ネギのみじん切りを振りかけ完成させたのだがエルフェリーンとエルカジールの表情が曇る。


「これは辛そうだね……」


「真っ赤な料理とか私には無理だよ……」


 普段から辛いものが苦手なエルフェリーンとエルカジールはカレーも甘口以外は受け付けず、クロは常に甘口と中辛を作り提供している。


「ご安心下さい。こちらの蟹チリの赤はトマトと呼ばれる野菜の色で赤くなり辛みも抑えております。辛みのあるスパイスを入れていますが見た目よりもマイルドな仕上がりとなっております」


 天使の説明に安堵し蟹チリを口にするエルフェリーン。エルカジールはその様子を見つめ本当に辛くないかリアクションを待つ。


「うん、ちょっとピリッとするけど美味しいよ。これはお酒が進む味だね! それに香りがいいよ。山椒かな?」


「はい、クロさまが言うには唐辛子よりも香りが出てマイルドに仕上がるとのことです」


 エルフェリーンのリアクションにエルカジールが蟹チリを食し表情を明るくし、女神たちも満足げに箸を進める。


「ピリピリした食感に甘みとピリリとする味が良いものだな」


「はい、これは酒が進む味です」


「シャキシャキとした食感もあり楽しいです」


 ドズールとその近衛兵たちも緊張が解れたのか、女神ベステルが創造したビールと料理を楽しみ満腹感がありながらも食を進める。


「みなさ~ん、これより七味たちのダンスをご覧くださ~い!」


 アイリーンの叫びに視線が集まり七味たちが前足を上げて左右に振り、ピタリと静止するとタップダンスのようにリズムよく足を鳴らして踊り始める。


「可愛いですぅ~一糸乱れぬ七味ちゃんたちですぅ~」


 愛の女神フウリンはほろ酔いなのか両手を叩いて喜び、叡智の女神ウィキールは一糸乱れぬ七味たちのダンスを興味深げに見つめる。


「前にも天界から見たが、魔物がこのような行動を取るとは驚きだ……」


「魔物にも個性があり学習するわ。七味たちは特にその傾向が強くアイリーンから色々と学んでいるわね。ロザリアから影魔法や浄化魔法を使う個体もいるわね」


「それはもう進化に近いな……影魔法はまだ理解できるが、浄化魔法は聖属性なのに……」


「五美の高速タップですぅ~すごいですぅ~」


 両手を叩いて喜ぶ愛の女神フウリンがいうように六本ある足を残像が残るほどの速さでタップし、他の七味たちのタップ音と重なり曲のようにタップ恩を奏でる。


「凄いよ! これは私のカジノでショーとしてみんなに見せたいよ!」


「うんうん、この心臓の鼓動のようなリズムはいいね! お酒のペースも早くなっちゃうよ!」


 エルカジールとエルフェリーンにも好評なようで耳を傾けつつ酒を飲み料理を口にする。


「一糸乱れぬリズムを魔物たちが奏でているとは恐れ入る」


「威嚇として音を立てる魔物はいますがこうも見事な曲を奏でるとは……」


 ドズールと近衛兵たちは酒を飲むのも忘れ七味たちのタップダンスを凝視し、教皇や聖女たちも初めて見る七味たちのタップに驚きの表情を浮かべる。


「アイリーンさんのテイムしている蜘蛛たちには驚かされますね」


「七味たちですね。蜘蛛の魔物は強力な個体が多く恐怖の対象なのですが、七味ちゃんたちは人懐っこくてカワイイです」


「俺の中の常識が音を立てて壊れていくな……」


「ああ、クロたちが非常識なのがよくわかった……はは、今度は糸を出して飛び回り始めたよ」


 サライは自身の常識の中にある魔物と違う行動に驚き、レーベスは驚愕しながらも糸を使いコミカルな動きを始めた七味たちの姿に笑みを浮かべる。


「最後はみんなで決めポーーーーーズ!!!」


 アイリーンの声に合わせポーズを決める七味たち。七美が糸に絡んで落下した事で締まらないポーズになるが、笑いが巻き起こり酒の席での余興としては十分だろう。


「ナイスアドリブです七美!」


「ギギギギ……」


 前足以外は糸で拘束され動かすことはできないが、その前足で頭を掻いて見せる七美。コメディーを理解しているのか驚きの光景であり、「七美の特技はツッコミなはずなのに……」と呟くアイリーン。


「お待たせしました。カニ春巻きとカニシュウマイです」


 カニ春巻きは細く切り揃えたカニの身とチーズにアスパラを入れ手巻揚げたもので、カニシュウマイはぶつ切りにした蟹と摩り下ろしたカニの身を使い蒸したものである。


「パリパリでぇチーズが溢れますぅ」


「こっちは身がゴロゴロと食べ応えがあるな」


「熱っ!? でも、ウマッ!? カニとチーズがこんなにも相性がいいなんて知らなかったわ! これは白ワインね!」


 料理ごとに酒を変えて飲む女神ベステル。白ワインと聞き世界樹の女神シソリンヌが微笑みを浮かべ手にしていた白ワインの瓶を持ち素早く移動すると女神ベステルのグラスに注ぎ入れる。


「あら、気が利くわね」


「はい、急な来訪者である私もこの会席に参加させていただいておりますから」


「そんな事気にしなくてもクロは料理を作ってくれるわよ」


 女神ベステルの言葉にコクコクと頭を上下させる愛の女神フウリンと叡智の女神ウィキール。エルフェリーンとビスチェも同じように頷き「クロなら用意するぜ~」「クロだもの」と口にする。


「やっぱりクロはいいね~みんなから信頼されているし、こんなにも美味しい料理を提供してくれるからかな~」


「そうだぜ~クロは優しいし信頼されているぜ~神々もそうだろうけど期待に応えようと頑張っているからね~エルカジールの経営するカジノにもそういった人は必ずいるはずだぜ~」


 クロを羨むエルカジールの言葉にエルフェリーンが応え口にし、エルカジールはその言葉に思い当たる人物を想像する。


「えっと……いるような……いないような……どうだろう……」


 腕を組んで目を瞑り従業員たちの顔を思い浮かべる。すると、ある人物の事が頭に浮かぶが首を横に振る。

 その人物は清掃作業を四年ほど続けている者なのだが基本的にドジな部分があり、モップで床を綺麗にした後にバケツに汲んだ水をこぼすような人物である。が、一生懸命さは誰よりもあり汗を流して床を磨きゴミが落ちていないか常に目を光らせている。


「ふふ、一人思いついたけど……ああ、そうだね。私の近くにもいたよ……あの子は親の借金があって苦労して返済の為に頑張っている……そうだね。あの一生懸命な感じはクロにいているかもしれないね……料理をしている姿はクロにそっくりかもしれないな………ドジな所は違うけど……」


「だろ~クロもドジな所はあるぜ~この世界に来たばっかりの頃は異世界の金塊を僕に見せて買い取ってもらおうとしたり、呪われた武具を見せて浄化して欲しいと頼んだり、エリクサーを二日酔いの薬として渡そうとしたりね~」


「あの呪われた武具からは嫌な気配がプンプンだったわ……結局は浄化できずにクロが保管して、使えそうなものは呪い返しのアイテム素材として使ったわね。二日酔いの時は状態異常ポーションで充分なのにクロったら抜けてだから……」


 エルフェリーンとビスチェの言葉に絶句する教会関係者とドワーフたち。エリクサーという伝説の中のポーションや呪い返しのアイテム制作という単語に目を剥いている。


「あはははは、常識外の事をするクロ先輩らしいエピソードですね~」


 アイリーンが肩を揺らし笑っているがエルフェリーンがニヤリと口角を上げて口を開く。


「アイリーンもそうだぜ~お腹いっぱいで苦しくて自身にエクスヒールを使うとか、それこそ常識の範囲外だぜ~」

 

 その言葉に絶句する教皇と聖女に聖騎士二人。エクスヒール自体は伝説とまでは行かないがそれでも教会内に使用者は少なく片手で収まる人数であり、聖魔法の天才的な才能がなければ習得できないので回復魔術である。


「やっぱりクロの仲間も非常識な存在だな……」


 そう呟くレーベスであった。 






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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