天界で昼食を岩蟹のハサミを添えて
聖騎士長サライは腕組みをしながら目の前で輝く魔法陣の前で眉間に深い皺を作っていた。
「これはダンジョンで見た事のある転移の魔法陣に似ているが……」
クロを追い掛けるレーベスを追い二階の祭壇へ入った所までは視認していたサライ。ドアを開けるとその先に誰もおらず、魔法陣だけが輝いていたのである。
「普通に考えればこの魔法陣で転移したと考えるべきだが……」
「その通りだぜ~」
背後から声が掛かり振り向くとエルフェリーンを筆頭に『草原の若葉』やドワーフの国王に近衛兵が現れ頭を下げるサライ。
「この魔法陣は天界へ通じているからね~クロや追い掛けていた子はもう天界へ行っただろうね~」
エルフェリーンの言葉にフリーズするサライ。ドワーフの国王であるドズールも固まるが、アリル王女がアイリーンと走り転移陣へ入り姿が消える様を見て事実なのだと理解する。その後は続々と魔法陣に入り消えて行き、固まっていたサライは背中を優しく押されている事に気が付き振り返る。
「いい機会です。サライ聖騎士長も一緒に参りましょう。レーベスが悪さをする前に捕まえて欲しいのもありますが……ふふ、さあ、行きますよ」
そう口にしたのは教皇であり聖騎士長という立場上サライに拒否権はないのだが、冗談めいた発言と微笑む教皇にサライは口角を少し上げ足を進める。ドズールも近衛兵と頷き合うとサライたちの後を追いその姿が教会から消失するのであった。
「あら、エルフェリーンたちが大勢連れてきたわね」
広い一室に転移してきたエルフェリーンたちを迎えた女神ベステルはスエット姿だったがいつの間にか女神らしい服装へと変わり、その場で膝を付く教皇とサライにドズールと近衛たちを視界に入れると眉間に大きな皺を作る。
「私が神々しくて跪きたくなる気持ちはわかるけど、そういうのはいらないわ。それよりも早く席に付きなさい。クロとソルティーラがご馳走してくれるから」
女神ベステルの言葉を受け立ち上がり一礼し席に付く教皇。サライも同じように一礼し席に付き、ドズールも震えながら立ち上がり近衛に手を引かれ腰を下ろす。
「なあ、レーベス、これって……」
白いテーブルには人数分の皿やグラスが並べられ配膳する天使たちを目で追いながら隣に座り呆けているレーベスに声を掛けるサライ。聖女と教皇は目を輝かせながら天使たちを見つめ、先ほど食事をしてきたエルフェリーンとエルカジールはアイテムボックスから出したウイスキーと白ワインを開け始め、ビスチェは震えるシュミーズとゼギンを落ち着かせ、シャロンとメルフェルンはクロがいるだろう天界のキッチンへ向かう。
「近くで見るとぉ可愛いですぅ」
「ああ、上から見ていたが手を振る仕草や踊る所を見ると愛嬌があって魔物だとは思えないな……」
愛の女神フウリンと叡智の女神ウィキールは七味たちを観察しながら撫で、アイリーンは白亜と小雪を撫でながら七味たちの紹介をしている。
「クロの料理はいくらでも食べられるのだ!」
席に付きフォークとナイフを持ち料理を楽しみに待つキャロット。王城で昼食を取ったのだが、それでもまだまだ食べられると豪語している。
「クロという男は神々さえも……」
ドズールは席に付き目の前で行われようとしている会食に小さく言葉を漏らし、ついて来た近衛兵たちもクロという男の認識を改めつつ自分たちも席に付いていいのかと自問しながら待っていると料理が運び込まれる。
「岩蟹を使ったサラダになります。こちらのドレッシングをかけてお召し上がり下さい」
天使たちがボイルした岩蟹の身と葉野菜にオーロラソースを添えたサラダを運び目の前に置かれた料理を口にする女神ベステル。サライの前にもサラダが置かれ震える手でフォークを持ち教皇や聖女に視線を向ける。
「蟹の身が鮮やかで美しいですね」
「これをかけて食べるのですね」
添えられているドレッシングの器を傾けそれをかけると自然に口に運ぶ二人にサライも震えながら口に運び、レーベスも同じように口に運ぶ。
「まろやかで美味いな……」
「ははは、美味しいのだけど味がよくわからないや……」
サライは味を感じ取れたが、乾いた笑いを浮かべるレーベスは極度の緊張からか味が分からず何を食べているのか理解ができていない。同じようにドズールや近衛兵もサラダを口に運ぶがそれは流れ作業のようなもので味を感じてはおらず、昼食を取ったばかりなのだが黙々と口に運ぶ。
「ドズールたちは無理しなくてもいいからね~みんなは昼食を食べたばかりだろう?」
そう声を掛けたのはエルフェリーンであり、同じく昼食を食べていたシュミーズやゼギンはホッと胸を撫で下ろす。
「残してもいいから無理はしないで残しなさい。あむあむ……これだけ大きいとカニというよりもエビに近い食感になるわね」
女神ベステルからの声が掛かり手を止めるドズール。既に皿の料理は消えているが指摘された事で甦る満腹感に、グラスに入れられた水を少量飲み大きく息を吐く。
「か、感謝します」
座りながら深々と頭を下げるドズール。それを見た女神ベステルは手を払う仕草をする。するとドズールの前にウイスキーの瓶が現れ「お酒なら飲めるかしら?」と問われ「はっ!
」と口にして封を開ける。
「これは中々だな。蟹の食感と葉野菜のシャキシャキとした食感がよく合う」
「ドレッシングも美味しいですぅ。淡白なカニの味によく合いますねぇ」
七味たちを相手にしていた二柱も席に付き料理を口にしていると二品目の料理と共に新たな神が現れ席に付く。
「はぁ……やはりクロさまの所へと向かいましたか……クロさまに迷惑を掛けたりしていませんか?」
「アイリーン! 白薔薇の庭園の調子はどうなのかしら?」
世界樹の女神シソリンヌと武具の女神フランベルジュがエルカジールとアイリーンの前へ向かい声を掛ける。
「私はクロに迷惑とか掛けないよ! 寧ろ、クロの身を案じて王城に向かったんだよ!」
「白薔薇の庭園の調子はばっちりです! 最近は少し居合について何かを掴んだ気がしますが……まだまだですね……私の技量だと白薔薇の庭園を持て余しています……」
アイリーンの言葉に目を輝かせる武具の女神フランベルジュ。ドズールはその光景を視界に入れグラスを置くと静かに両手を合わせて目を閉じ、それは近衛たちも同じようでドワーフたちが信仰する女神の登場に深く頭を下げる。
「あの、拝まれていますけど……」
アイリーンの指摘に視線をドズールたちに向けた武具の女神フランベルジュだったが興味がないのか「それよりも白薔薇の庭園を見せてほしいわ」と腰に差す白薔薇の庭園を求め両手を広げる。
ややカオスになって来た広間に次の料理が運ばれ天使たちが舞い降り、皿には蟹の身を一口大にカットし茹でたものに三種類のソースが添えられた一皿が運ばれる。
「蟹酢、バターソース、タルタルソースを添えてありますのでお好きなものを付けてお楽しみ下さい」
天使の説明に頭をカクカクと上下させるレーベスとサライ。教皇と聖女は軽く会釈するとどのソースか迷いながらも口に入れ表情を溶かし、エルフェリーンとエルカジールは世界樹の女神に白ワインを進め蟹をツマミに飲み始める。
「さっき食べた蟹も美味かったがこのソースに付けるとまた違う味になって美味いな!」
「そうなのだ! この黄色いソースはガツンとした味で美味しいのだ!」
緊張していたゼギンだったがキャロットが目の前でムシャムシャと食べる姿に解れたのか、表情も解し料理を口に運び感想を口にする。シュミーズもお腹がいっぱいだと理解しているが目の前に運ばれてくる未知の味に手を出し、次のカニ次のソースと口に運ぶ。
「どれも美味しいわね。ただ、これだけ味の種類がバラバラだとビールの方が合うかしら」
女神ベステルの言葉に再起動したドズールは深く頷くのであった。
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