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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十三章 お騒がせハイエルフ
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レーベスと追いかけっこ



「マヨは偉大です……」


「カニさんは美味しいのです!」


 お腹いっぱいになった王女二人の姿に癒されたクロは食べ過ぎた王妃二人へと視線を向ける。


「国を挙げて岩蟹のドロップアイテムである蟹の爪を回収させましょう!」


「この国の名物になる可能性もありますね!」


 王妃の提案に国王ルーデシスは困り顔を浮かべクロへ助けてという視線を送るが、クロはクロでメイドたちの片付けを手伝いアイリーンは浄化魔法で使用した食器や鍋を浄化する。


「冒険者に依頼を出せばよいのじゃ」


 ロザリアの言葉に「それだ!」と声を重ねる王妃たち。ホッと胸を撫で下ろすルーデシス。その横でウイスキーを飲みながら肩を揺らすドズールにエルフェリーン。


「それじゃあ、僕たちはそろそろお暇させてもらうぜ~これからは流行り病の特効薬の製作に忙しくなるからね~」


 流行り病の特効薬の製作はここ数百年続けるエルフェリーンの大切な仕事であり、これは錬金ギルドや薬師たちが総出で行っている。近年では衛生管理の大切さをクロが伝え死者数は減っているが、それでも爆発的に流行する恐れがあるため気を抜くことが許されない。数十年前はこの病で国単位の死者数があったほどである。


「ウイスキーの残りは特効薬が完成する二週間後に王都へまた来ますので、その時にでも持ってきますね」


「うむ、忙しい時期に申し訳ないが頼むぞ。ああ、支払いは先に済ませても構わないのだが……」


「それは後でお願いします。お金には困っていませんし、この後は教会に寄るだけですから」


 クロたちが王都に来た際には必ずといっていいほど教会へ寄り、寄付をするのが習慣になっている。ただその度に天界へと招かれ宴会料理と酒を要求されるのだが……


「うむ、若いのに立派な心掛けだな。我も教会に赴き寄付をしよう」


「ハイハイ! 私も行きます! 私も行きます!」


 ドズールの言葉にアリル王女が手を上げて叫びハミル王女も一緒に行きたいのか手を上げようとするが、食べ過ぎで苦しいのか上げようとしていた手を口元へと運ぶ。


「私たちも御一緒したいのですが王妃が教会へ行くと政治的な問題が……」


「王妃が教会へ行けば貴族たちに何を言わるか……」


「まだ幼いアリルなら問題はないが貴族の勘繰りには困ったものだな……はぁ……」


 国王であるルーデシスもアリルやハミルが天界へ行った話を耳にし同行したい気持ちもあるのだろうが、貴族からすれば政治に教会が関与していると受け取られかねないのである。


「我が国にはそれほど厳しく言う貴族はいないが武具の出来には厳しいな。もちろん我もだがな。ガハハハハハ」


 豪快に笑い飛ばすドズールにルーデシスも釣られて笑い声を上げ場が和み、アイリーンの作業も終わり王宮を後にするクロたち。


 王家の馬車に乗り教会へと向かうと庭で遊ぶ子供たちに発見され多くのシスターや司教に出迎えられ、中には聖騎士たちの姿もありギラギラとした瞳を向けて来るレーベスの姿に馬車を降りたクロは苦笑いを浮かべながらアイテムボックスに収納している飴の袋を取り出す。


「クロ! 再戦だ!」


 飴目当ての子供たちに囲まれていたクロへ叫ぶレーベスに「無理です。無理!」と応えたクロは教会内へと逃げるように向かい、レーベスは逃がすものかと後を追う。それを止めるべく聖騎士団長であるサライが追い掛け、笑い声を上げるエルフェリーン。


「まるでクロが犯人みたいだね~」


 他人事といった感じで笑うエルフェリーンとビスチェにドズール。ドワーフの近衛兵が寄付金の入った袋をシスターに渡し感謝され、エルフェリーンも寄付金を渡すと教会内へと足を進める。


 いつもの様に二階の貴族用の祭壇へと向かう一同。


「おいこらっ! 再戦だ! 前にきた時も逃げやがって! 勝ち逃げはゆるさねえからな!」


 階段を駆け上がるレーベスは先を行くクロに罵声を浴びせるが止まる様子はなく、二階の祭壇のある一室に逃げ込むクロ。そこには聖女レイチェルが祈りを捧げていたがクロが入室すると魔法陣が現れ驚いている間に転移し、クロも転移陣に駆け込み、手を伸ばし掴み損ねたレーベルも結果的に天界へと向かうのであった。






「へへへ、もう逃がさねえぞ」


 不気味な笑みを浮かべるレーベスはクロの肩に腕をかけ絶対に逃がさないと宣言する。


「いやいや、それよりも今いる場所がどこだかわかって言っているか?」


「そりゃ教会の………………」


 辺りを見渡し呆けるレーベス。三人がいる場所は二階の祭壇のある一室ではなく、八畳ほどの部屋で真ん中に炬燵があり女神ベステルが肩まで入りニコニコと笑顔を向けているのだ。女神というだけあって炬燵に肩まで入っていても後光のような光を出しており、見る人が見れば女神だと認識できるだろう。


「えっ!?」


「よく来たわね。クロに聖女と聖騎士かしら?」


「は、はい、お久しぶりです」


 片膝を付いて頭を下げる聖女。クロは軽く会釈をし、レーベスは口を半開きにしたまま固まっている。


「これからもっと人を連れてくるみたいね。ここじゃ手狭だから広間に行きましょうか」


 そう口にして炬燵から出る女神ベステル。毛玉が多くついたスエット姿に、女神がこれでいいのかと思うクロだったが、後光がやる気を出しているので神々しさが無駄にあり呆けていたレーベスは膝を付く。


「これから移動しようとしているのに、どうして拝むのかしらね……」


 女神ベステルの言葉にスッと立ち上がる聖女レイチェル。レーベスも立ち上がるが緊張しているのかその動きはぎこちない。


「さあ、こっちよ」


 女神ベステルの後に続き真白な廊下を進み辿り着いた一室に入ると長いテーブルがあり多くの椅子が用意されており、こちらに向かい手を振る見知った女神が声を掛けて振る。


「やっぱりクロだちですぅ」


「相変わらず元気そうだな」


 愛の女神フウリンと叡智の女神ウィキールが休憩中なのか紅茶を飲みながらケーキを食べており、クロは「はい、お久しぶりです」と挨拶を交わす。その姿に聖女は頭を下げ、レーベスはギギギと効果音でもつきそうな首の動きでクロへ視線を向ける。


「女神さま相手に……親し過ぎる……」


 小さく言葉を漏らすレーベス。


「ここには何度も来ていますし、それなりに敬っていますから」


 そう口にするクロ。クロがいうように三日に一度はお酒や料理を奉納し、毎朝両手を合わせ健康に過ごせている事を感謝し祈っている。この世界の宗教観からしたら不敬に当たるかもしれないが当の本柱ほんにんたちは咎めることはせず、寧ろ親しくされている事を気に入っている。


「そうそう、あんまり神頼みにされても困るものね~それよりも、岩蟹料理は美味しそうだわねぇ。あの大きなカニの爪をどう料理するか見てたけど」


「茹でてぇ、マヨを付けてぇ食べていましたねぇ」


「私はバターで炒めたものを食べてみたかったな」


 女神ベステルの声に被せリクエストをする愛の女神フウリンと叡智の女神ウィキール。


「料理を提供したいのですが岩蟹の爪がありませんよ」


「そこは任せなさい。これでも偉い神さまなのよ」


 そう言って腕を振る仕草をする女神ベステル。するとテーブルに大きな岩蟹の爪が並び、クロたちが入って来たドアを開けて現れる新たな女神。


「クロさま、手伝わせて下さい!」


 料理の女神ソルティーラが叫ぶように料理の手伝いを申し出て、更に奥からダンジョン農耕神が現れ多くの宝箱が出現する。


「クロ殿! こちらの味見も手欲しい! エルフェリーンさま方にはダンジョンで味を見てもらったがクロ殿の意見も取り入れたい!」


 いつしか聖女は席に付き静かに目を閉じ料理を待ち、レーベスは神々から頼りにされているクロを見て大きく口を開けフリーズするのであった。









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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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