エルフェリーンたちの帰還とウイスキーの適正値段
「クロ~帰ったぜ~」
王城の入り口から飛び出して来たエルフェリーンはクロに向かい飛びつき、それを必死に抱き止めるクロ。
「無事で良かったです」
「あはははは、僕ひとりでもニ十階層は潜れるぜ~ヒカリゴケの採取なんてへっちゃらだよ~」
「そうね。私たちも付いているのだから安心できたでしょ」
エルフェリーンの後ろからビスチェが顔を出し、他にもルビーやゼギンにシュミーズも居心地の悪そうな顔をしているがダンジョンから無事に帰還を果たす。
「王さまに呼び出された件は大丈夫だったでしょうね?」
ビスチェからの問いにクロは口を開いて答える。
「ああ、問題はないかな。ドワーフの王様から王子さまの結婚式でウイスキーを使いたいから売って欲しいというだけの事だったしな」
クロの言葉に後ろで控えていたドズール国王がビクリと体を震わせ、ルーデシス国王も若干顔色を悪くしながら成り行きを見守る。
「へぇ~それはお祝いしないとね~」
抱き付いていたクロから離れたエルフェリーンは二人の国王と近衛兵が立つ場所へと視線を向ける。すると、ルーデシスは素早く頭を下げ、王妃やダリル王子にハミル王女も頭を下げ、それを見たドズールは深々と頭を下げる。
「そんなに畏まらないでくれよ~僕はクロに無理難題を押し付けに来たのかと思っただけだし、ルーデシスの事はこれでも信頼しているんだ。ダリルは優秀だしハミルは可愛いからね~アリルちゃんも可愛いし、今度産まれミミルにも丈夫に育って欲しいからね」
その言葉に顔を上げたアリルが走り出しエルフェリーンに抱きつき「ありがとーです」とお礼を口にする。その姿に顔を青くするルーデシスだがエルフェリーンは幼いアリル王女に抱き締められ頭を優しく撫でながら笑みを浮かべる。
「あははは、アリルはやっぱり可愛いね~僕は可愛い者と努力する者には優しいんだぜ~ダリルは王になるべく努力し、ハミルとアリルは音の精霊に好かれるぐらい歌を頑張っていたんだろ」
「はい、頑張ってます! お歌の練習をすると精霊さんがキラキラしてくれて楽しいです!」
ハミル王女とアリル王女はマヨの歌を中庭で歌い続けており、時間を作っては練習し音の精霊に歌声を届けている。精霊は姿を見せることはないがキラキラとした光の粒子が歌のメロディーに乗り二人を包み込む姿はターベスト城の観光スポットといえるだろう。
「楽しいのなら良かったよ! 音の精霊は音楽が好きだからね~これからも歌を頑張ってね」
「はい、頑張ります!」
笑みを浮かべるエルフェリーンにホッと胸を撫で下ろすルーデシス。王妃は不安感などないようで微笑みを浮かべ、カミュールに至っては「丈夫に育って欲しい」と言われ涙を流しメイドにハンカチを受け取って涙を拭っている。
「それでクロはウイスキーをいくらで売ったのかな?」
「えっと、ウイスキーが百本で銀貨百二十枚ですね。この前雑誌を確認して値段を覚えて、」
「なんだって!? それは安すぎるよ! ウイスキーが一本銀貨十二枚だって!?」
クロが言い終わる前に叫ぶエルフェリーン。その姿にルーデシスの顔色が再度青くなり、慌ててドズールが口を開く。
「それは我も言ったのだ。最低でも金貨数枚はするだろうな。だが、クロは頑なに受け取ろうとはせず困っておったのだ」
今朝がた朝食を取っていると近衛兵を連れたドズールが金貨の袋を持ちウイスキーの値段交渉に現れ、クロは雑誌を見せて値段をこの世界の標準的な価値と合わせて価格を1200円だと決めたのである。
銅貨一枚が十円と換算し、百枚で銀貨一枚となる貨幣価値である。
百本ほど買いたいという事となり、合計が銀貨一枚と銅貨二百枚になるのだが、「それではあの酒の勝ちに見合うはずがない!!」と激怒するドズールにクロが折れ、「異世界への運び賃として一本は金貨一枚に相当する」と言い放ったドズール。だが、クロも「それは貰いすぎるのでせめて十倍程度にして下さい」と逆に値段を下げたのである。
「日本円なら一本千二百円ですからね。それなのに一本百二十万とか受け取れませんよ!」
「確かにボッタクリ過ぎますね~異世界の物としてもクロ先輩の値段が適正かもしれません」
同じく日本生まれだったアイリーンの言葉にエルフェリーンが口を尖らせるが納得したのか「アイリーンがいうのならそうかもしれないね」と口にする。
「クロ先輩! それなら私も買いたいです! 前にダンジョンで買い取ってもらった魔核や使わない素材を売ってお金がありますから、全部ウイスキーにして欲しいです!」
「私も! 私も白ワインが欲しいわ! 金貨ならそれなりに持っているから買わせてほしい!」
ルビーとシュミーズからの両手を拘束され懇願されるクロ。どちらもダンジョン帰りということもあり、丈夫な胸当てを装備していることで腕に硬いものが当たり顔を歪めるクロ。
「クロはモテモテです!」
キラキラした瞳で叫ぶアリル王女にクロは思う。この光景は教育上よくないのではないかと……
「カニのハサミから身を切り放したら一度茹でて灰汁を出しましょう。灰汁を取ったら出汁に使いますので捨てないで下さいね」
エルフェリーンが自慢げに出した岩蟹キングのドロップアイテムを確認したクロはお昼時ということもあり、中庭で調理しましょうという流れへと変わった。中庭は広く整えられているがクロが普段使っているBBQコンロは炭や灰が散らばる事がないため庭師たちからの許可もおり、青空の下で巨大なカニの爪の調理を開始するクロ。
サイズがサイズなだけにギゼンとキャロットがその硬い甲殻を剥がし、ロザリアとアイリーンがナイフを使って身を剥ぎ取り、メルフェルンとシャロンがその身を茹でて下拵えをする。
「あれほど巨大な岩蟹は見た事がないな……」
「岩蟹キングのドロップアイテムだぜ~ちょっとした丘ぐらいのサイズで倒し甲斐があったね~」
「流石は『帝国潰し』と呼ばれるだけの事はありますな……」
「あはははは、その呼ばれ方はあまり好きじゃないけど、実際に潰しちゃったからね~言い訳できないね~」
「その様ですな……我らドワナプラはエルフェリーンさまに対して敵対行為を取る事はないと約束いたします」
「ん? 敵対行為?」
「はい、我らが束になっても勝てぬ相手……まぁ、今回のクロ殿の件への感謝が大きいですが、敵対する心算はないとだけ覚えて頂ければ……ウイスキー調達の為の資金も浮いた事ですからな……この資金は別の事で民たちに返したいと思います……」
深く頭を下げるドズール。エルフェリーンはウイスキーを口にして笑みを浮かべる。
「そうだぜ~お金は溜めてちゃダメだぜ~使うのも大切。民に還元するのが一番いいね~経済がまわれば人が集まり笑顔になるからね~」
茹でたカニの身はクロが指示を出しメルフェルンや王城の調理スタッフが手伝い、カニの身を麺に見立てたパスタや、かに玉にカニサラダ、出汁を取ったスープは野菜やカニの身を入れた味噌味ベースの鍋に変わり大鍋で煮込まれている。岩蟹は通常のカニの身よりも繊維が太く弾力があり食べ応え十分で、カニの身を解しアスパラとバターで炒めた料理を皿に盛ると両陛下の前に置くクロ。
「シンプルに茹でただけのカニありますので蟹酢に付けても美味しいですし、マヨを付けても美味しいですよ」
その言葉に走り出すハミル王女。後を追いかけるアリル王女。
「あの子たちはマヨラーですね~」
湯気を上げるカニのむき身にマヨを付け頬張るダブル王女の姿に癒されるのであった。
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