王妃二次会とドズールの考え
ダリル王子が合流し酒臭い一室を離れ王家専用のサロンへと移動したクロたち。ロザリアはまだ飲み足りないのか頬を軽く赤くしながらもブランデーを要求し、苦笑いを浮かべるクロ。
「私ももっとウイスキーやどぶろくを飲みたいなぁ~」
甘えた声を出すエルカジールからのお願いもあり仕方なしにお酒の瓶をテーブルに並べ、居合わせた王妃たちは微笑みながら互いのグラスに注ぎ入れ、ロザリアとエルカジールも互いに酒を酌み交わす。
「まさかドワーフを酔い潰すとは思わなかったわ」
「ドワーフの近衛兵まで酔い潰れるとは……見ていて滑稽でしたわ」
抑えて飲んでいた王妃二人はカパカパとグラスを開けて飲むドワーフと国王を羨ましそうな瞳を向けており、あの場ではグラス一杯も飲み干すことはなかった。既婚者の女性の飲酒を好ましく思わない貴族も多くマナー違反とはいわないが下品だと思われる事があり、既婚の女性がお酒のおかわりを要求する事はない。
「あはははは、そうだね。ドワーフを酔わす酒は名酒と呼ばれるけどクロが出してくれたお酒はどれも名酒だね!」
「うむ、まったくなのじゃ。強さもそうじゃが、それ以上に香りが良いのじゃ。味も申し分ないし、ツマミも最高なのじゃ」
その言葉にツマミを要求されていると感じたクロはアイテムボックスから女性たちが好みそうなチョコ系の菓子やケーキをアイテムボックスから取り出すと歓声が上がり、王妃はメイドにケーキを切り分けるよう指示を出し、白亜は甘えた声と尻尾を振りながらクロの足に抱きつく。
「白亜にも分けて貰おうな。すみませんがお願いできますか?」
「お任せ下さいませ」
笑みを浮かべたメイド長からの言葉に白亜の尻尾の揺れが激しくなり、小雪はその尻尾を目で追い首を振る。
「茶色い方はチョコを使った物で、白い方はチーズを使ったケーキですね。ウイスキーやブランデーになら合うと思うので、ああ、メイドさんたちにも同じものを出した方が良かったですね」
クロの気遣いに給仕をしていたメイドたちは再度喜びの声を上げ、メイド長は深く頭を下げお礼を口にし白亜の前へ取り分けたケーキを置く。
「我々にまで気を使って頂き感謝いたします」
「いえいえ、甘いものでご機嫌が取れたと思えば安いものですし、喜んで頂けるのなら自分も嬉しいですから」
「キュウキュウ~~~~」
チーズケーキを口にした白亜が喜びの声を上げ和やかな空気が流れる王室専用サロン。シャロンやダリルもケーキを口にして表情を溶かし、女性たちはブランデーを口にしながら甘味を楽しむ。
「まったりとしながらもコクのあるチーズの風味が美味しいわ」
「こちらのチョコと呼ばれるケーキも大変美味しいわね。これが毎日食べられるシャロンさまやロザリアさまが羨ましいわ」
ケーキを食べ表情を蕩けさせた王妃からの言葉にロザリアが口を開く。
「うむ、それは我もそうは思うが……これを毎日食べていては大変な事になるのじゃ……」
その言葉にケーキを口に運んでいた王妃二人の手がピタリと止まり、シャロンは首を傾げクロは苦笑いを浮かべる。
「そ、それはどういう意味で……」
「うむ、単純に太るのじゃ。このケーキなる甘味には多くの砂糖やバターが使われておるのじゃ。メリリが一時期のう……」
そう口にしながらクロへと視線を向けるロザリア。
「そうですね。ケーキは太りやすいので毎日出す事はないですね。多くても七日に一度ぐらいにしています。どうしてもとお願いされると出してしまいますが、メリリさんのダイエットする姿を見たからかアイリーン以外からは強請られなくなりましたね」
「アイリーンさまは狩りで動きますので太らないのかと……毎朝長い距離を走り多くの魔力を消費されておりますから……」
「どれだけ食べても太らないと本人は言っておったのじゃ……女性の敵なのじゃ……」
事実、アイリーンは早朝から七味たちを連れ狩りに出かけ罠の確認に向かい長い距離を走り回っている。罠に成果がない時は身体強化を使い高速で移動し狩りを行い解体作業まで行っておりそのカロリー消費は多く、一日に七千キロカロリーを消費する水泳選手もビックリな数字だろう。
「アイリーンには個人的にお願いされた携帯食やお菓子も渡していますから……最近は少し遠出しないと鹿が狩れないといっていたのでどこまで行ったんだか……」
アイリーンは空中に糸を固定させその反動で空を飛ぶ事もでき、本人がやる気になればその日のうちに米作りをしているゴブリンの村に行って帰る事も可能だろう。
「アイリーンの成長速度は凄いからの。我は長年の経験があるから動きが読めるが、あの剣術を初見で見切るのはほぼ不可能なのじゃ。踏み込みも早ければ抜刀も恐ろしく早く、斬られた瞬間は気が付かぬやもしれんのじゃ」
ブランデーを飲み干したロザリアからの言葉にそんなにも強くなっているのかと顔を引き攣らせるクロ。この調子ならもう絶対に勝てないな、と思いながらケーキを食べ終わった白亜の口のまわりをおしぼりで拭う。
「キュウ~キュウ~」
甘えた声を上げクロのお腹にくっ付き大きく欠伸をする白亜はそのまま眠りに落ち、仮眠用のベッドにはアリル王女とハミル王女が規則正しく寝息を立てている。
「ふふふ、古龍のお子様と聞いていましたが、甘える仕草や寝息を立てる姿は可愛いものですね」
「あら、生まれたばかりのミミルも可愛いですわ」
自身がお腹を痛めて初めて産んだミミルは乳母が離宮で育てており今この場にはいない。が、口を尖らせる第三王妃。
「確かに可愛らしい女の子でしたね」
「はい、目元は陛下に似てお優しく、口元や眉は私に似ていましたわ」
シャロンが気を使いミミルの話題を出し、それを真に受け微笑むカミュール妃。その姿にロザリアは笑みを浮かべエルカジールも肩を震わせる。
「そういえば出産祝いを師匠たちと話していたのですが、こういった物はどうですか?」
予め用意していた出産祝いの品をアイテムボックスから取り出すクロ。涎掛けや乳母車に哺乳瓶などクロが魔力創造したものや、エルフェリーンがエンチャントを施して作った空気清浄機や毒などを無効化するオシメを止める木製の金具などをテーブルに並べるクロ。
「まあ、色々なものがあるのですね!?」
立ち上がり両手を合わせて喜ぶカミュール妃。第一王妃リゼザベールも立ち上がり物色し始める。
「喜んで貰えたようなら良かったです」
「もちろんです! ミミルが健やかに育つよう努めさせていただきますわ」
晴れやかな笑みを浮かべる王妃たちにクロは胸を撫で下ろすのであった。
「ふぅ……ドワーフの王である我が酔い潰れるなど……情けない……」
日も落ちかけたオレンジの空を見ながら目を覚ましたドズールは先に起きている近衛兵に独り言が聞こえたかとハッとするが、耳に入っていなかったようでベッドから立ち上がり窓辺に立つ。
「美しい夕焼けだな……」
「はっ、中庭の庭園は朝日と夕日に美しくなるよう設計されていると伺いました」
「そうか……」
「陛下、ひとつ宜しいでしょうか?」
立っていた近衛兵は膝を付き頭を下げ、ドズールは窓からそちらへ視線を向ける。
「クロ殿が披露したスキルについてなのですが……あれはいったい……」
「恐らくだが神が持つとされるスキルの断片……劣化とは言わぬが素晴らしいものだな……魔力創造という名の通りに魔力で故郷の物を作り上げるスキル……」
「そのスキルがあれば作らずともウイスキーが量産できるのではないでしょうか?」
「うむ……」
「では、クロ殿に国へ来るよう交渉すべきかと」
その言葉を耳に入れたドズールの眉間に深い皺が浮かび上がる。
「お前は我が国を潰したいのか?」
その言葉に顔を上げる近衛兵。
「いえ、そのようなことは……」
「クロ殿の後ろには『帝国潰し』がいるのだぞ。しかもだ、その帝国潰しは本当の意味での帝国潰しへと変わった……お前も知っているだろう……エルカイ国なる国が新たに立った事を……エルフェリーンさまが帝国を潰したのだ。その矛先が我に向くなど……
国に帰ったら通達を出す。『草原の若葉』には手を出すなとな……」
窓へと向き直ったドズールは黒く変わった空を見つめるのであった。
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