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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十三章 お騒がせハイエルフ
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宝箱



「クロの喜ぶ顔が浮かぶね~」


 岩蟹キングを討伐したエルフェリーンはニコニコ顔でアイテムボックスに収納し、アイリーンやビスチェは辺りを警戒しながら安全を確保する。確保するのだがこちらを見つめる男が視線に入り素早く警戒する。


「誰かいるわ!」


「なんだ、あの格好は……冒険者というよりも研究者か?」


 ゼギンが視線を向けた先にいた男は剣や盾などの武具を持っておらず、代わりに分厚い本を持ちペンを握っているのだ。どう考えても不審に思え指摘する。


「ん? ああ、思い出した! ケルンね!」


「ケルン? う~ん、誰だっけ?」


 ビスチェはその人物にピンと来たのか名を叫び、エルフェリーンは忘れているのか首を傾げる。


「ダンジョン農耕神さまのケルンさまですね! 前に天界でご挨拶しましたよ!」


 アイリーンも思い出したのか存在感の薄い新人の神に手を振り、七味たちも一斉に手を振る。


「皆さんお久しぶりです。あの、今日はクロ殿と一緒ではないのですか?」


 近づいて来たダンジョン農耕神と挨拶を交わし、クロがいないことを聞いていたケルンへ回答を返すビスチェ。


「クロは王さまに呼び出されたのよ。理由は解らないけど……それよりもダンジョン農耕神さまはクロに用事があるのかしら?」


「はい、実はお願いしたい事がありまして……」


 そんな二人の会話をポカンと見つめるゼギンとシュミーズ。


「ねぇ、ダンジョン農耕神さまって初めて聞くけど神さまよね?」


「わからんが、ダンジョン農耕神というぐらいだから神さまだと思うぞ……」


「ビスチェが神さまと話をしているわ……」


「ああ、そうだな……神さまと同じ空間に俺たちもいるがな……」


 まるで白昼夢のような出会いに『千寿の夜明け』の二人は呆けながらも会話を耳に入れる。


「新たな宝箱の試食をお願いしようと思いまして、用意していたのですが……」


「試食なら任せるのだ!」


 試食という単語を耳に入れキャロットが一歩前に出て手を大きく上げる。


「僕らで良かったら試食するけどクロがいいのならまた今度連れてきた時になるね~明日か明後日には教会に寄るからその時にでも天界に呼ばれるかもしれないけど」


「なるほど……それではいくつかの宝箱を出しますので皆様に御試食願えますか? この辺りには結界を張って魔物が近づかない様に致しますので、ゆっくりと食べて感想を聞かせて下さい」


 話しながら銀色の宝箱を数種類置いて蓋を開けるダンジョン農耕神。蓋を開けた宝箱は最近ダンジョンに登場した料理型と呼ばれる宝箱である。


「網とお肉があるぜ~」


「こっちはお鍋なのだ!」


「これは何? 編み込まれた蓋つきの入れ物の様なものがあるけど……」


 エルフェリーンとキャロットにビスチェが宝箱を開け中身を確認する。


「エルフェリーンさまの宝箱は焼き肉ですね。宝箱の上蓋に説明が書いてありますので読んで頂ければ簡単に料理できると思いますよ」


 ダンジョン農耕神がいうように上蓋には丁寧に説明書きがあり、文字が読めなくても理解できるよう絵でも説明されている。最後に持ち帰る事は出来ないと注意書きがされており冒険者がその場で食べる前提の物なのだろう。


「蓋を開けたら野菜に肉が入っているのだ! 蓋をしてこの魔石に魔力を流すと火がついたのだ!」


「これには肉まんが入っているわ! 魔力を流すと蒸してくれるのね!」


「その通りです。料理の神ソルティーラさまに協力を仰ぎ新たな宝箱を生み出しました! これらの味を見て欲しいのです! 本来ならクロ殿の意見も聞きたかったのですが、それは後日と致しましょう。是非、冒険者の方々にも意見を求めたいのですが」


 呆けている二人へと視線を向けるとコクコクと何度も頭を上下させるゼギンとシュミーズ。


「そっちの二つは火が入るまで時間が掛かるけど焼き肉ならすぐに食べられるぜ~」


「タレも付いていますよ!」


 小さなトングや小皿もセットになり一口大にカットされたカルビの皿には四人前はあるだろう。それを一切れトングで掴み網に乗せるエルフェリーン。網の下には赤く熱を発する鉄のような物があり網に乗せるとすぐに香ばしい匂いが漂いお腹を鳴らすキャロットとゼギン。


「焼き肉なのだ!」


「おいこれって、絶対に美味しいヤツだろ!」


 焼き肉の香りに呆けていたゼギンがテンションを上げキャロットも早く食べさせろとお腹を鳴らす。エルフェリーンはそんな二人の為に肉を追加し網一杯に焼き始める。


「調味料目当てで多くの冒険者がダンジョンに潜るようになり、ダンジョン神さまもお喜びになられておりますよ。これもクロ殿の案を採用したお陰です」


「醤油や味噌にケチャップやマヨが手に入るのは嬉しいものね。エルファーレさまたちも今頃は潜っているかもしれないわ」


 以前お世話になった南国の孤島に住むハイエルフのエルファーレとフェンリルたちを思い出し口にするビスチェ。アイリーンは無言で頷きながらも視線はカルビに向けられ、凝視するように一枚の肉に狙いを付ける。


「箸やフォークがないけど、どうするのでしょう?」


 ルビーの疑問にダンジョン農耕神がしまったという顔になり、アイリーンが気を利かせアイテムバックから割りばしやフォークを取り出し配り始める。


「これはうっかりしておりました。他の宝箱には必ずフォークを付けるように致しましょう」


「それがいいわね。生肉でトングは使うし衛生的にも必要ね。まあ、冒険者なら気にせずその辺に落ちている棒で串を作るだろうけど」


 ビスチェの視線は姉のシュミーズに向けられ、シュミーズは落ちていた木の棒にナイフを入れていた手を止める。


「こ、これはナイフの切れ味を確認していたのよ! それよりも、焼けたかしら?」


 香ばしい匂いが立ち込めエルフェリーンが一枚取り、焼き肉のタレを入れた小皿につけ口に運ぶ。


「うんうん、これは美味しいぜ~みんなも味を見て感想を聞かせてやってくれよ~」


 表情を崩し笑みへと変わったエルフェリーンがその場を開けると一斉に箸やフォークがカルビを襲う。一番にタレに付け口にしたキャロットが叫びゼギンやビスチェにルビーも満足げな表情でその味を賞賛し、アイリーンもお目当てのカルビをゲットしタレに付け口にする。


「あむあむ、これは中々ですね~タレも甘めで美味しいです。欲をいえばライスが欲しくなりますね~」


 その言葉に「それだ!」「それなのだ!」と声を合わせるゼギンとキャロット。ビスチェも同意見なようで「クロを連れてくれば良かったわ」と口にするビスチェ。


「私はウイスキーと一緒に食べたいです。お酒が出る宝箱もあるのですよね?」


「はい、ですがウイスキーやブランデーといったものはまだ設置しておりません。あるのはこの世界でも作られているワインとクロ殿に作り方を教えていただいたどぶろくですね。予定ではニ十階層以降の隠し部屋などの宝箱に入れる予定です」


 その言葉にガックリと肩を落とすルビー。するとエルフェリーンがアイテムボックスから一本のウイスキーを取り出しパッと表情を変え「少しだけだぜ~」と口にしながらコップに注ぐ。


「肉まんの方もそろそろいいかしら?」


「鍋も湯気が出ているのだ!」


 湯気を上げる宝箱を前に昼食代わりに寄せ鍋と肉まんを口にするエルフェリーンたちなのであった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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