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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十三章 お騒がせハイエルフ
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日本刀とクロの接待



「魔力創造というスキルは恐ろしいものだな……我はてっきり先ほどの魔導書を魔力で召喚し知識を得るものとばかりに思っていたが、このような物質を自身の魔力で創り上げるとは……このウイスキーと呼ばれる異世界の酒も魔力創造で創られたのだな」


 一斉に突っ込まれクロは自身の魔力創造というスキルをできるだけ他言しないで欲しいと付け加えて説明した。


「異世界の物で知っているものならどんなものでも魔力で作ることが可能ということは、異世界の武器なども創ることが可能なのですか?」


 傍に立ちドズールを守っているドワーフの近衛兵からそんな声が漏れ、ドズールは振り向き眼力を強めた視線を送りたしなめる。内輪の話とは言え国王が二人出席し、他国の物と交渉する際に近衛兵が口をはさむことは不敬に値するのである。


「女神ベステルさまに止められている武器以外なら出せますが、自分は師匠やルビーが作る武器の方が優れていると思いますよ。ちょっと待って下さいね」


 そう口にし、振り向いたドズールは目の前で行われる魔力創造に視線を注ぎ、他の者たちも注意深く見守る。


「これが自分の国で過去に使われていた日本刀と呼ばれる武器ですね。こちらで使われている魔剣などとは違い純粋な武器ですね」


 魔力創造したそれを両手でもちドズールに手渡すクロ。渡されたドズールは慎重に受け取り「抜いても良いか?」と口にし、クロが頷くとゆっくりと鞘から抜き取り感嘆の声を上げる。


「ほぅ……息を吞む美しさだな……波紋が波のように浮き出ているぞ……」


「あれが異世界の剣なのか……細くてすぐに折れてしまうのではないか?」


「芸術という意味ならまごうことなき一級品だろうが……」


 ドワーフは武器に関しては煩く先ほど注意された事も忘れ、日本刀に浮かび上がる波紋の美しさを口にする。ドズールは波紋の美しさやシンプルな作りの鞘でありながらも洗練されたデザインに目を止める。


「鞘には漆と呼ばれる樹液を塗り光沢を出しています。あまり詳しくはわかりませんが日本刀を使った戦い方はアイリーンの方が詳しいと思うので後で聞いて見て下さい」


「うむ、アイリーンは武具の神から白薔薇の庭園なる日本刀を賜ったのじゃ。あれはこの日本刀よりも美しい魔剣なのじゃ」


 その言葉にドズールは声を荒げ立ち上がる。


「それは誠か!?」


「はい、自分が武具の女神フランベルジュさまから受け取りアイリーンに渡したので本当です。大事にしていた物らしいのですが罰として自分に預けろと女神ベステルさまが……自分では扱える気がしなかったのでアイリーンに渡しました」


「うむ、アイリーンは白薔薇の庭園を使い巨大なワニやムカデとも戦っておったのじゃ。最近では我も目で追えぬほどの速度で日本刀を振るうようになっておるのじゃ」


「ロザリア姫がいうなら誠なのだろう……はぁ……今日一日で何度も驚き疲れたぞ……」


 ゆっくりと椅子に腰を下ろして息を吐くドズールにルーデシスは共感しているのか腕を組み無言で何度も頷く。


「ああ、その日本刀はプレゼントしますので好きに使って下さい」


「よいのか!」


 玩具を与えられて子供のように目を輝かせて喜ぶドズール。一瞬にしてため息を吐き疲れていた表情が変わりロザリアとエルカジールが肩を揺らし、ルーデシスはそれを羨むような視線をクロへ送る。


「自分には師匠とルビーが作ってくれたナイフがありますし、日本刀とか扱ってもすぐにダメにするだけですから」


「確かに熟練した者が扱う武器なのだろう。あれは刃を交える戦い方ではすぐに刃こぼれを起こし最悪は折れるだろう。相手の一撃を躱しながら斬るか、相手に抜かせる前に斬るかだな……ロザリア姫がいっていたように早さが求められる武器なのだろう」


 日本刀の重さを確かめるように両手で持ち語るドズール。クロは腰にしている普段から使っている魔剣仕様のナイフを鞘に入れたままベルトから外してドズールに向け口を開く。


「このナイフを普段から使用しています。先ほど言っていた師匠とルビーからプレゼントされた物です」


「うむ、見せてもらおう」


 日本刀を丁寧にテーブルに置くとクロから受け取り鞘から引き抜かれる魔剣。


「おおおおお、これは見事な……ミスリルと魔鉄にオリハルコンが使われエンチャントも施してあるな……やや焦げているが」


 訝し気な視線を向けるドズールにクロが理由を口にする。


「魔力を通すと刀身が燃えるので火起しに使わせて」


「火起しだと!?」


「はい、自分は簡単な生活魔法を使えますがこのナイフに魔力を通した方が早いので」


 その言葉にプルプルと震えるドズール。ロザリアとエルカジールはその光景を目にしており魔剣を使ってする事じゃないと今にして思い、メルフェルンは武具の扱いに厳しいドワーフなら怒るだろうと成り行きを見守る。


「ぶははははは、魔剣で火起しとは、ぶははははは、こんなに笑ったのはいつ振りか!! しかも、エルフェリーンさまの魔剣で火起しするとは、クロよ! お前は我よりも遥かに大物だな!」


 表情を崩し笑うドズールに対してクロは困惑していたが目の前にあるウイスキーの瓶を開けグラスに注ぎルーデシスとドズールの前に置き、ツマミになるだろうとアイテムボックスから柿の種を取り出し皿に開ける。


「これは気が利くではないか!」


「ありがたい」


 二人の王から感謝の言葉を受けるクロだが袖をクイクイと引くロザリアが横におり、人数分のグラスを用意しお酒の飲めないアリル王女とハミル王女にはジュースを用意する。


「簡単な料理ならまだまだありますのでウイスキーの試飲をして下さい。他にも日本酒や焼酎にどぶろくといったお酒もありますので試して下さい」


 機嫌が良さげなうちにお酒を飲ませてここから退散しようと画策するクロ。飲んで色々と忘れてくれればとドワーフの近衛兵にも酒の入ったグラスを持たせる。


「ごくり……いえ、我々は近衛としての責務が……ごくり……」


「よい、クロ殿のご厚意だ。受けるが良い」


「有り難く頂だい致します」


 主からの許可が出ると両手でグラスを持ち深々と頭を下げる近衛の三名。それを羨ましそうな視線を向けるメイドたちに足を向け、以前にも配ったケーキ各種をメイド長に持たせると、ルーデシス国王が許可を出すまでもないといった表情で受け取りお礼を述べるメイド長とメイドたち。


「おおこれだ! この味だ! どこまでも深く続く余韻のある香り……ふぅ……この味は夢にまで見たぞ!」


「うむ、ウイスキーも良いがブランデーも飲みたいのじゃがのう」


 機嫌よくウイスキーの感想を述べるドズールにロザリアが再度クイクイと袖を引き、テーブルにあるブランデーを所望する。

 非公式な場であっても女性が席を立ち自身で酒を注ぐことはマナー違反とされ、メイドか傍にいる男性などに頼む事になっている。クロが頼みやすいと言うこともあるが、メイドたちはケーキの箱を開けテンションを上げており、シャロンはロザリアから袖を引かれては女性恐怖症を発症する。クロが適任といえよう。


「これでいいですか」


「うむ、感謝するのじゃ~ドズール王よ、このブランデーもウイスキーに負けない香りと強さがある。飲んでみて欲しいのじゃ」


「おお、ロザリア姫がいうのなら美味いのだろう。是が非でも試飲させてもらおう」


 クロがグラスに注ぎ入れツマミと共にブランデーを提供すると香りを楽しみ試飲するドズール。テーブルには多くの料理が並び昼間から飲み会へと変わった一室。子供たちは料理とジュースを飲みながら白亜と小雪を撫で、大人たちはウイスキーとブランデーや日本酒を飲み比べ、メイドや近衛たちもケーキや酒を楽しむ。


「クロさんが来ているとお聞きしたのですが」


 政務で遅れて現れたダリル王子がやってくる事には大人たちは酔い潰れ、クロは作戦が成功したなとひとり満足気な表情を浮かべていた。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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