お城へ向かうクロたち
一方、ターベスト王国の国章入りの馬車に乗り王城へ向かうクロはエルカジールから疑いの視線を受けていた。
「クロが何かやらかしたのかい?」
その言葉を耳に入れたクロは色々と思い出していた。
ハミル王女は健康的に……いや、あれは健康というよりも少しぽっちゃりと……後は女神さま関係の件? アリル王女を連れて天界に行った事が公になったとか? 去年は流行り病の対策が上手く軌道に乗り始めて死者数がグンと減ったと聞いたからそれ? 今頃、師匠たちはその流行り病に聞くヒカリゴケの採取に行ったけど、それなら俺だけが呼ばれる理由がわからないな……
「う~ん、思い当たる事がない……こともない……」
「どっちなのだか……はぁ……ん? あれはドワーフ?」
クロの答えに納得がゆくはずもなく息を吐き視線を窓に向けるエルカジール。視線の先には多くのドワーフが見えるのだがその殆どが鎧を着て武装をしている。ドワーフたちの多くはハンマーを武器にしており柄の長いハンマーを担ぐ姿は街中では目立ち目に留まる。目に留まるのだがその数が多いと余計に異様な姿に映る。
「ドワーフが多いのじゃ」
「そうですね。この辺りでは鍛冶屋や冒険者ぐらいですが、あの装備だと兵士に見えますね」
「こちらの国に戦争に来たという感じではありませんね。兵士や町の民と話をしているように見えますし、酒を飲み交わしている兵士もいますよ」
馬車内のロザリアとシャロンにメルフェルンも窓へと視線を向け普段見ない光景を牛木に思う。クロはまだ自分が呼ばれた原因を考え中であり、思え返せば色々とこの国に迷惑を掛けているのではないかと思案し始める。
アンデット騒動と時も大変だったよな。あれは俺に原因はないが、天を割って現れた女神ベステルさまから名指しで教会に来いと言われたっけ……他にもお寿司関係で多くの者が神託を受けたとかもあったな……
あれ? もしかして俺って問題児なのかも……
多少なり自覚し始めたクロは顔色を悪くする。
最近だとカイザール帝国を潰した事にも加担したし、その原因になった多くの魔鉄を作ったのがバレたのかも……
額には冷めた汗が浮かび始めるクロ。それを横から見つめるシャロンはポケットから取り出したハンカチでクロの汗を拭う。
「あの、凄い汗です。それに顔も青く……」
「ああ、すまないな……色々と思い出していたら、この国に迷惑を多くかけていると思って……な……」
「クロさまがご迷惑をかけているのは理解できますが、アイリーンさま方から窺った限りでは勇者をも超える働きだったと耳にしておりますが」
メルフェルンの言葉に頭を傾げるクロ。
「いいですか、クロさまは王都がアンデットに襲われた時に助けに入りましたよね?」
「えっと、はい……ですが、それは師匠が飛び出して行ったからで」
「それでもです。ほぼ一人で王都の空を埋め尽くすレイスを退治したと耳にしていますが、それこそ英雄と遜色のない働きぶりです。他にもハミル王女の治療をしたのはアイリーンさまですが、その後の食生活をフォローしたのはクロさまです。カイザール帝国の滅亡はある意味では民が喜び、国が新たに誕生し……そうそう、ダンジョンで貴族の娘を助けたという話もありましたね」
「うむ、人さらいの事件なのじゃな。闇ギルドが関わっていたが……」
「ありましたね……あの時はアイリーンとラルフさんにロザリアさんが大活躍していましたよ」
クロの言葉に大きく息を漏らすメルフェルン。シャロンは目を輝かせて話を耳に入れる。
「無自覚な英雄は質が悪いですね……それらの事件なりに関わっている時点で問題児、ではなく英雄と祭り上げられる可能性があると言うことです。民というものは英雄を好み、国としても目立った英雄がいるという事は国益に繋がります。
サキュバニア帝国ではカリフェルさまが皇帝であり英雄でした。今では皇帝の座を退き他国で宰相のようなお仕事をされておりますが、アレでも立派な広告塔として活躍なさっておられました。これからシャロンさまが英雄のような立ち位置でサキュバニア帝国を支えるのです!
おっほん、話が逸れましたが、この国で英雄といえばエルフェリーンさまですが、その弟子であるクロさまを英雄に祭り上げれば……効果は二倍! いえ、三倍かもしれません! ターベスト王国はどこにでもある様な国で目新しい物はなく他国との交流もそれなりといった感じの目立たない国。そこにクロさまという新たな英雄が生まれたとなれば国交が今以上に進展するはずです!」
メルフェルンの言葉にあからさまな嫌悪感を抱いたクロは顔を歪め、隣で座るシャロンもあまり嬉しくはないようでクロに視線を向ける。
「あ、あの、もしもの時は僕を頼って下さいね。これでも皇子ですから、僕がクロさんを保護する事も可能ですから……」
勇気をもって口にするシャロンの頬が赤く染まり、メルフェルンからジト目を向けられるクロ。ロザリアはそれを見て肩を揺らし、エルカジールは仲間を思う姿に薄っすらと涙を瞳に溜める。
「わ、私も手を貸そうじゃないか。クロには美味しい料理を食べさせてもらったからね~世界最大のカジノのオーナーを敵に回すほどこの国の国王が馬鹿じゃないことを願うよ」
エルカジールからも頼もしい言葉を受けクロは無言で頭を下げる。下げるのだが、胸に引っ掛かる心配事は多く表情は晴れない。
「ご到着いたしました。足元にお気を付けください」
ノックが室内に響き馬車のドアが開くと既に王城の庭で、こちらに向かい走ってくる王女が目に入る。ひとりはまだ幼さ残したハミル王女。以前よりも痩せているのか軽やかな足の運びで走る。その前を行きクロに抱きついたのは妹のアリル王女。まだまだ遊び対盛りでフル充電した元気を使い消えるまで走り続けるような子である。
更にはその後ろから走ってくるヒゲモジャな男が数名。見るからにドワーフであり、身分が高いのか金や銀に宝石をあしらった服を着てこちらに向かい走ってくるのだ。
「あれはドワーフじゃのう」
「ドワーフがアリル王女さまの遊び相手をしていたのかな?」
ロザリアとシャロンが首を傾げていると一着のアリル王女がクロに抱きつき、二着のハミル王女がアリル王女にくっ付き、「クロ! クロ!」と笑顔を向けるアリル王女。ハミル王女は肩で息をしており、クロはアイテムボックスから取り出したペットボトル入りのジュースを手渡す。
「あ、ありがとう、ご、ございますわ……」
「いえ、それよりも自分を呼んでいると伺ったのですが」
「はい! クロをパパが呼んでいました! モジャモジャのおじさんたちも一緒です!」
アリル王女の言葉にこちらに向かいやって来たモジャモジャのおじさんへと視線を向けるクロ。
「うむ、クロ殿にどうしても頼みたい事があってな」
ドワーフの男がクロを見据えて頭を下げ、その男に付いてきた者たちも一斉に頭を下げるのであった。
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