ダンジョンへ行こう
ターベスト王国の王都から歩いて三十分ほどの位置にある町には冒険者ギルド支部がある。
こんなにも近距離に冒険者ギルドがあるのにはもちろん理由があり、資源型ダンジョンと呼ばれるダンジョンから多くの魔石に肉や野菜に薬草などの多くの資源が採取採掘できるのである。そのために多くの馬車がこの町と王都を行き来しているのだ。
「こうやって荷馬車に揺られるのも楽しいものだね~」
「キュウキュウ」
帆馬車の荷台には多くの荷物が積み込まれながらも、横になるエルフェリーンはクロの膝に頭を置き、白亜はクロの頭に乗り楽しそうに声を上げ、ビスチェとアイリーンは後方を見つめて遠ざかる王都のあれこれを話し合う。
「ここまでくれば王都臭さがなくていいわね」
≪王都の臭ささは人の多さと治安の悪さ≫
「裏路地で立ちションするなって事よね! 目の前に立ちション禁止って書いてあるのに、そこでする男の気がしれないわ!」
≪わかる! 座ってするべき≫
「そうじゃないだろ……はぁ……」
糸で浮かぶ文字に一応のツッコミを入れながらも膝枕をしながら見上げてくるエルフェリーンと、頭に乗っている白亜が落ちない様に注意するクロ。
荷馬車はゆっくりと進み町へと到着すると荷物検査などはなく、すんなりと高い塀に囲まれた町へと進み冒険者ギルドへと到着する。
「おっちゃん、ありがとうね!」
エルフェリーンがお礼をいうと年老いた帆馬車の持ち主は笑顔を向ける。
「こっちは金を貰ってるんだぁ。気にするなぁ~ついでだ、ついでぇ~」
冒険者ギルドから遠ざかる帆馬車に手を振り別れ、クロたちは冒険者ギルドへと足を向ける。
西部劇の様な開き戸を押して入ると真っ先に目に入ったのは微笑む受付嬢たち。数名の冒険者が飲み食いできるテーブルで話し合う姿が見て取れ、昼が近い事もあり冒険者の殆どはダンジョンへと探索に出ているのだろう。
足を進め空いている受付へ向かうと頬笑みながら「いらっしゃいませ」と声をかける狐耳の受付嬢。エルフェリーンも簡単に挨拶を返しながら冒険者証を提示して話し始める。
「『草原の若葉』の皆さまは、今年もヒカリゴケの採取で宜しいですか?」
「ああ、流行病の特効薬には必需品だからね。十四階層の夜エリアへ向かう予定だよ。他に十四階層にいる冒険者はいるかな?」
「恐らくはいないと思われます。最近は六階層のスパイスや十二階層の宝石の採掘が人気ですので、危険な夜の階層に向かう者は少ないです……あの、もし宜しければ、夜光草やキャンドルロックに闇属性の魔石を手に入れたら融通して頂けませんか?」
頭を下げる狐耳の受付嬢に口を開くエルフェリーン。
「それは構わないけど、依頼は出しているのだろう?」
「出してはいるのですが、昨今はランクの低い冒険者ばかりで十四階層まで足を運ぶ者は少なく、高ランクの冒険者もいるのですが二十階層のジュエルパールや十九階層の魔力草などの高価な素材採取や、最近流行っている護衛をつけてダンジョン内を探索する貴族の遊びに参加しており……」
申し訳なさそうな表情で理由を説明する受付嬢にため息吐くエルフェリーン。
「まったく情けない冒険者がいるものだね。僕らが全盛期だった頃はダンジョンが何処まで続くか探索したものなのに……今でも四十階層の炎龍退治やマグマの海を固めようと多くの水魔法を振り撒いて爆発した記憶が蘇るねぇ~」
遠い目をしながら語るエルフェリーン。クロは炎龍という単語に顔を顰め、ビスチェとアイリーンは興味があるのか尊敬の眼差しを向ける。
「炎龍退治……もう二百年以上も討伐されていませんね……生ける伝説であるエルフェリーンさまらしいエピソードです」
「そんなに昔だったかな? いや、でも……そっか……そうだ! 炎龍の肝があればエリクサーの素材が集まるかもしれない! クロのシールドを使えばマグマエリアも突破できるよね! それなら四十五階層を突破して新しいエリアに!」
「俺は絶対嫌ですよ」
テンションを上げるエルフェリーンにビスチェとアイリーン。受付嬢も席を立ち上がりキラキラした瞳を向けるが、全力で否定するクロ。背中のリュックに入れられた白亜は頭を傾げる。
「どうしてだい? 僕の記録をクロが塗り替えてくれよ~更なる冒険が待っているんだよ~」
「そうよ、クロ! エルフェリーンさまの新しい伝説の礎になりなさいよ!」
≪未突破ダンジョンを攻略するのはクロ先輩です!≫
「二百年の時を超えて新たなダンジョン攻略の時代が来る事は、冒険者ギルドとしても大歓迎です!」
皆がクロを見つめダンジョン攻略を進めるが、クロは耳を塞ぎ目を閉じてまわりの意見をシャットダウンする。が、ビスチェの蹴りがクロのお尻を綺麗に捉え冒険者ギルドに響き渡る破裂音。
「痛っ!? おい、蹴る事はないだろうがっ!」
「あんたが話を聞かないからでしょうがっ! 大体、師匠の言葉に耳を塞ぐ方が失礼ってもんよ! クロの馬鹿! アホ! スケベ!」
≪今のはクロ先輩が悪い……≫
「そうかもしれないが……マグマの上とか歩きたいか?」
お尻を摩りながら口を開いたクロに顔を背けるビスチェとアイリーン。背中の白亜はブルブルと震えてその振動はクロにも伝わる。
「キュゥ……」
「白亜は不参加だな。俺もマグマの上を歩く探索はしたくない。家でゆっくりゴリゴリしていたいな」
「ううう、残念だけど無理強いは出来ないね……今度は白夜を誘ってみるよ」
「キュウキュウ」
背中から上がる嬉しそうな声に、七大竜王である白亜の母である白夜がダンジョンに挑戦する事を聞いたクロはホッとしながらも、それはそれで危険なのではと思案する。ビスチェも顔を引き攣らせ、受付嬢は顔を真っ青にしている。
「それよりも今はヒカリゴケの採取だね。早く採取して家に帰ろうか」
エルフェリーンの言葉に受付嬢は顔を青くしながらも、素早くダンジョンの入場許可証を発行しクロへと手渡す。
「クロさま、白夜さまが暴れる可能性はないですよね? 七大竜王の白夜さまは温厚な方だと耳にした事がありますし、大丈夫ですよね?」
「一度しか会った事がないですが……優しそうな感じでしたよ」
「キュウキュウ!」
リュックの白亜が「ママは優しい!」とでも言っている様に嬉しそうな声を上げ、それを視界に入れた受付嬢は目が点になる。
「それじゃあ、行こうか! ダンジョン突破だ!」
「いやいやいや、ヒカリゴケの採取ですよ……本当に勘弁して下さいよ。師匠……」
手を振り上げて冒険者ギルドを後にするエルフェリーン。その後をビスチェとアイリーンが続き、クロも受け取った許可証をアイテムボックスへと入れると、その手を掴む受付嬢。
「本当に優しい方ですよね? 背中の白竜の子供には触れませんから、いざという時はクロさまが何とかして下さいね!」
「自分にできる気がしませんが……」
「それでもできると言って下さい……クロさまだけが頼りです! エルフェリーンさまと白夜さまが暴走したら止めてくれるだけで十分ですからお願いします!」
クロの手を両手で引き止めて頭を下げる受付嬢にクロは絶対に無理だと思いながらも「頑張ります……」と答えと、手を離して頬笑みを浮かべる受付嬢。
「ダンジョンはクロさまに掛かっています! ダンジョンの平和を宜しくお願い致します」
丁寧に頭を下げる受付嬢。隣の受付嬢や依頼票を整理していた受付嬢たちからも頭を下げられ、困った顔をしながらも受付を離れると、新たに冒険者ギルドへと顔を出す冒険者が目に入る。
如何にも貴族令嬢といった長く美しい黒髪に珍しいなと視線を向けると微笑まれ、ドキッとするクロ。その後ろからは同じ様な令嬢が二名続き、騎士が数名と屈強な冒険者が現れ、ああこれが受付嬢の言っていた最近流行りの貴族の遊びか、と思うクロ。
「クロおーそーいー」
ビスチェの声が冒険者ギルドに響き、クロは急ぎ冒険者ギルドを出るのだった。
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