ヒカリゴケの採取と岩蟹キング
「おらっ! この程度かよ!」
「相変わらずの怪力よね……はぁ……良い所を見せたいのは分かるけど、素手でアイアンゴーレムを殴るのはどうかと思うわよ……」
ゼギンが身体強化を使い拳に魔力を集中させアイアンゴーレムを殴り、その身にヒビを入れ呆れた表情を浮かべるシュミーズ。
「凄い一撃だったね~」
「はい、身体強化をしたとしても真似できるとは思えません」
「普通は真似をしようと思わないものよ。風の精霊よ、止めを刺しなさい」
エルフェリーンとルビーは素直に褒めつつヒカリゴケを採取し、ビスチェは姉のシュミーズと同じように呆れつつ精霊魔法を使いヒビの入ったアイアンゴーレムを細切れにする。
「やっぱり魔法はスゲーな。俺が殴る意味がなかったな」
ゼギンの言葉にビスチェはドヤ顔を浮かべ仁王立ちである。
キャロットやゼギンのレーシングカートが完成して三日ほどカートを楽しんだ一同は、毎年恒例のヒカリゴケの採取へとターベスト王国近くにあるダンジョンへと潜っていた。
「私にもできるのだ!」
キャロットの元気な声が響き新たなアイアンゴーレムが現れ、元気に駆け出し飛び蹴りをお見舞いする。
「あの嬢ちゃんも大概だな……」
「ふふ、ゼギンが呆れるぐらいなら相当ね。」
「キャロットはドラゴニュートだからね~腕っぷしには自信があるんだよ~」
和やかに話しながら岩に付着しているヒカリゴケをナイフで剥がして布の袋に入れる一同。時折、岩肌から露出する紫水晶を発見しては目を輝かせるルビー。
「クロもこっちに来れば良かったのにね」
「あはは、そうだね~でも、クロは王さまから直々に呼ばれたからね~顔を出さなきゃだぜ~」
ビスチェがいうようにクロがターベスト王国の王都へと入国すると警備兵から待ったが掛かり、「クロ殿には王陛下からの召喚状が出ている」と声を掛けられたのである。蝋で封印されたそれには王家の印が押され、顔を引き攣らせているうちに馬車が現れクロはシャロンとメルフェルンにエルカジールとロザリアが付き添い王城へと向かったのであった。
「クロ先輩が呼び出されるとか、何かあったのでしょうか?」
アイリーンもヒカリゴケの採取を手伝い、七味たちも前足を器用に使いヒカリゴケを回収する。小雪だけはロザリアがリードを持っていた事もありクロと共に行動し、今頃はお城の中で二人の王女に撫でられているだろう。
「どうだろうね~僕と敵対するような事はしないと思うけど……クロの事だから上手くやるさ」
「そうね。クロなら問題を起こすような事はしないわ。問題が起きてもシャロンやロザリアが付いているから大丈夫よ」
「白亜さまも付いているのだ!」
アイアンゴーレムを殴り倒したキャロットはドロップ品の魔核と鉄のインゴットを持ち叫び、新たなアイアンゴーレムが数体に気が付かれこちらに向かってくる。
「お前は……行くぞ!」
「任せるのだ!」
ゼギンが呆れた声を出すが意識を戦闘モードに切り替え背にしているバスターソードを引き抜き、キャロットは両手を魔化させ走り出す。
「あの二人は何だかんだといいつつ良いコンビね」
「二人とも接近戦重視だからねぇ~自然と連携が取れるのかもしれないねぇ~」
「少し羨ましいですね~私も白薔薇の庭園を使って戦いたいですけど、アイアンゴーレムだと刃こぼれしそうで……」
「その武器は変わっているわね。あんなに薄く細い刃はすぐに折れてしまいそうだけど武器として使えるのかしら?」
その言葉にアイリーンは採取の手を止めて白薔薇の庭園を引き抜くと魔力を通す。すると白薔薇が舞い散るエフェクトが現れ目を丸めるシュミーズ。
「凄く綺麗だわ……」
白薔薇が舞い散るエフェクトに見惚れるシュミーズ。アイリーンはドヤ顔を浮かべつつ走り出し、近くで擬態していた岩蟹へ白薔薇の庭園を振り下ろす。振り下ろすといっても間合い外からで刀身から伸びる糸が鞭のようにしなり、両手を上げ威嚇する岩蟹を糸で絡め取り行動を阻害し、七味たちが一斉に飛び掛かり岩蟹の装甲である岩が次々に剥がされ、止めの一撃は六美の影魔法シャドーエッジと呼ばれる影の刃でその身を貫かれる。
「ギギギ~」
両手を上げお尻を振る七味たち。アイリーンはドヤ顔でドロップ品である巨大なカニの爪を手にするとアイテムバックに収納する。
「これはクロ先輩に料理してもらいましょうね~」
「ギギギギギ」
「また、カニを使ったパスタが食べたいわ! カニの身を麺にして食べた料理が絶品だったの!」
「あれは美味しかったですね~この腕なら作れるかもしれませんね~」
以前、キャロットの祖父であるドランがマーマンの集落近くで遭遇した巨大なカニの魔物を使った料理を思い出して涎を流すビスチェ。アイリーンもその事を覚えており弾力のあるカニの身の味を思い出し自然と笑みを浮かべる。
「カニは美味しいのだ! 楽しみなのだ! もっと狩るのだ!」
「それなら俺も手伝うぞ! クロには美味しい料理をご馳走してもらったからな。カニっぽい岩を倒せば爪が手に入るんだろ?」
「よし、ヒカリゴケはこれだけあれば大丈夫だね! 僕たちも岩蟹を討伐して蟹の爪を集めようか!」
エルフェリーンが採取を終わらせるとギラリとした瞳を浮かべ大きな岩が点在する夕日のフィールドを眺める。心なしか岩蟹だろう岩が逃げ出そうとしているように見えるが気のせいだろう。
「おらっ! これはアタリだ! 岩蟹だぞ!」
「こっちはただの岩なのだ! 砕けたのだ!」
「あっちに群れがいるわ! 岩蟹キングもいるわよ!」
ビスチェの叫びに視線を向ける一同。岩蟹の大きさは一メートルほどだが岩蟹キングはキングと呼ばれるように大きく巨大で、見上げるほどの大きさである。
あるのだが、「あれは僕の獲物だぜ~」そう口にし地面を滑るように走るエルフェリーンは本来の姿に戻り、黄金の髪と瞳へ変わり、身長も大人と思える姿へ変わるとアイテムボックスから自身の身長よりも大きく長い魔剣を取り出し魔力を込める。一気に魔力を通し黄金に輝くエルフェリーンが空高く舞い上がり岩蟹キングが両腕を上げ迎え撃とうとするが、その両腕をあっさり切り落とし、更には巨大中体へと振り下ろされる金色の一撃。
「おいおい……マジかよ……」
「エルフェリーンさまの武勇は耳にした事があるけど……これほどまでとは……」
伝説的に語り継がれているハイエルフのエルフェリーンの実力をまじかで見たゼギンとシュミーズは驚きを口にし、ビスチェは仁王立ちでドヤ顔をし、アイリーンは手にしていた白薔薇の庭園を鞘に戻して口を尖らせる。
「私も戦ってみたかったです……」
真っ二つになり光の粒子の様に消えた岩蟹キング。その場にはドロップアイテムである巨大な魔石と乗用車サイズのカニの爪が二本現れ歓声を上げるエルフェリーンと七味たち。
「クロに良いお土産ができたぜ~」
「ギギギギギ~」
アイテムボックスのスキルを使い巨大な爪を収納するエルフェリーン。七味たちは両手を上げお尻を振り喜びの舞いを踊るのであった。
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