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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十三章 お騒がせハイエルフ
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新たな試走と崩れるアイリーン



「こりゃスゲー!! 俺が風になったみたいだぞ!」


「楽しいのだ! 楽しいのだ! 走るよりも楽しいのだ! 飛ぶよりも楽しいのだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 三日ほど掛けゼギンとキャロットのレーシングカートが完成した。カートに使われる骨組み事態を太く頑丈にし、タイヤもそれに合わせ大きく作り二人が乗っても問題なく走っている。車体の重量が増えスピードが遅くなる事を計算に入れたのか、魔道駆動と呼ばれるエンジン代わりのギアの力も上がっており前に作ったレーシングカートと遜色ない加速を得て走っている。


「いや~上手くいって良かったね~スピードが遅くなるかと思ったけど大丈夫そうだよ」


「はい、キャロットさんとゼギンさんの喜ぶ姿が見られて良かったですね。これなら四人同時にレースができます!」


「うむ、それは楽しそうなのじゃ!」


「うぅぅぅぅ……本当に良かったね~完成したカートが走っているよ……うぐっ……私はこんなに感動したのはいつぶりだろうか……うぐっ……」


 ひとりテンションの違うエルカジールはゼギンとキャロットが乗る重量級カートが走るさまを見て泣いていた。

 その二つを作ったエルフェリーンやルビーが引くほどに泣いていた。


「嬉しいのはわかるけど……泣くほどかな?」


「エルカジール様に喜んで貰えて嬉しいですが……」


「エルカジールさまはカートを作る工程を一から観察していたので感情移入したのかもしれませんね。あの熱い工房にずっと籠って見守っていましたから」


 完成までの三日をすぐ傍で観察して過ごしたエルカジールは二人が汗して作ったレーシングカートが目の前で走る姿を見て涙する。自身はカジノを経営しているがこのような涙を流してまで感動するのはここ数百年なく、あふれ出る感情を涙という形で表現している。


「それはそうと、あのサイズのカートと小さい方のカートを入れてレースをするにはコースの幅が狭くないですか?」


 クロの疑問にエルフェリーンが口を開く。


「それは大丈夫じゃないかな。ほら、アイリーンがコーナーに入るよ」


 ゼギンがカーブに入りすぐ後ろにキャロットが続き、その後ろからアイリーンがスピードを落とさずにカーブに侵入する。先に入った二人が大回りでカーブをまわるのに対し、アイリーンは外側から一気に内側に入り加速して二人を抜き去る。

 所謂、アウトインアウトと呼ばれる走り方でカーブの侵入は外側から入り、内側へ抜け、一気に外側へ抜ける技術である。ただ単純にカーブを曲がっていた二人はブレーキで速度を落としてからカーブに侵入するのに対し、アイリーンは最低限の速度に落としカーブへ侵入し抜ける間際に一気にスピードを上げたのである。


「おいおい、早すぎるだろ……」


「抜かれたのだ!」


 重量級のカートの利点はその大きさと重さにあり、もしアイリーンが乗る通常カートが接触すれば吹き飛ばされる可能性すらあるが、加速率という点では通常カートの方が高くカーブでスピードを殺されている重量級カートが追いつくのは難しい。逆にいえばカーブに先に侵入していればサイズも大きく抜かしづらい。が、今回は二人とも大回りでカーブに入り走っていた事ですんなりと抜くことができたのだ。


「やっぱり私が一番ですね~これは赤い甲羅か緑の甲羅や加速するキノコとかも使用可能にするべきでしょう!」


 ゴールしたアイリーンがピットに戻りカートから降りるとドヤ顔をしながら口にし、後からやって来たゼギンがカートを降りる。


「すごく楽しかったが、最後のあれはすごいな。あっという間に抜かされ、抜き去られたぞ」


「やっぱり加速度は軽い方が上だね~最高速度は重量級の方が上みたいだけど」


「そうですね。直線ではキャロットさんが伸びていました。あの、キャロットさんは大丈夫でしょうか?」


 最終コーナーのショックアブソーバーに突っ込んでいるキャロットが乗ったカートを遠目に口にするルビー。負けず嫌いな性格がアクセルを踏み込ませたのだろう。そんなキャロットはひとりでカートから抜け出し腕を魔化させショックアブソーバーに突っ込んだカートを引き抜きレースに戻る。


「大丈夫そうだな……ふぅ……あまり心配させないで欲しいな……」


 胸を撫で下ろすクロ。それとは対照的にエルカジールはそわそわとしながら戻ってきたキャロットに駆け寄る。


「大丈夫!!!」


「私は頑丈だから大丈夫なのだ!」


「君じゃないよ! カートの方だよ! このカートはエルフェリーンとルビーが心を込めて作ったカートだよ! 乱暴に運転しちゃダメじゃないかっ!!!」


 エルカジールの心配はカートだったようで大声を上げ注意すると膝を曲げてカートに傷やへこみがないか確認する。


「丈夫だといっても後で首が痛くなったりするからな。ほら、ポーションを飲んでおけよ」


 クロがいうように軽い交通事故でも後から首が痛くなり、後日むち打ちという診断結果を貰うものも少なくない。急な衝撃に頭が振られ首の椎間板や関節を痛めることが多くあるのである。


「わかったのだ!」


 元気よく応えクロからポーションを受け取ると一気に喉に流し込むキャロット。


「カートは大丈夫そうだね……よかった……」


 傷がないのを確認したエルカジールは肩にかけていたタオルで土埃を拭き取り笑みを浮かべる。


「エルカジールさまがこれほどカートを好きになるとは思わなかったわ」


「ああ、エルカジールさまはギャンブルにしか興味がないと思っていたからな……」


 護衛としてここまでやって来た『千寿の誓い』の二人はカートを磨くエルカジールを見つめ、エルフェリーンは呆れた表情を浮かべる。


「エルカジールの方が執着しているように見えるね~まったく、姉として少しだけ心配だよ~」


 エルフェリーンの言葉は耳に入っていないのかカートを拭き続け、シャロンとキュアーゼがカートに乗り込みエンジンをかける。


 普通自動車のようなキーなどは存在せず、近くにある魔石に触れ魔力を流せばカートに魔力が流れ魔鉄とムカデの甲殻を使った合金に魔力が伝わり簡単な強化魔法のようなエンチャントが掛かり強度を増し、後はサイドブレーキを引きアクセルを踏み込めば走り出す。ギアチェンジなどは存在せず踏み込めば速度が上がり放せば加速する事はなくスピードが落ち、ブレーキを踏み込めば止まる仕組みである。ガソリンを使わず魔石をエネルギーとして使い限りなくエコな仕上がりになっている。

 使っている魔石はそれなりに高価なもので車体にも高価な素材を使っているが、市場に出たら買いたいと申し出る者は多く出るだろう。


「シャロン! 勝負よ!」


「は、はい! 負けません!」


「うふふ、私も参加させて下さいねぇ」


 姉弟のレースにメリリが急遽参加し笑みを浮かべながら声を掛け、キュアーゼが眉間に深い皺を作るがフルフェイスのヘルメットのお陰かそのムスッとした表情は確認できずシャロンは「お願いします」と承諾すると、ビスチェがフラッグを掲げレースが始まる。


 勢い良く走り出した三台。ビスチェの持つフラッグはクロが魔力創造したもので、白と黒のモザイク調なものと真っ赤なフラッグの二種類である。スタートとゴールはモザイク調なフラッグ、緊急時は赤いフラッグを振りレース中止を伝えるものである。


「スタートダッシュは体重の軽いシャロンなのじゃ」


「キュアーゼさんとメリリさんは胸とお尻が大きいですからね~」


「なるほど、それで……アイリーンのカートが早かった理由が分かったよ」


 自分で話を振っておいてなんだが、クロの言葉に自身の胸をペタペタと触りその場に崩れ落ちるアイリーンなのであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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