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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十三章 お騒がせハイエルフ
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レーシングカート作りと羨むエルカジール



「くっくっく、これでエルフェリーンの錬金の秘密が探れる……」


 片手を口元にあて呟くエルカジールは走り去ったエルフェリーンとルビーを追い渡り廊下を忍び足で進む。エルフェリーンとルビーはキャロットとゼギンがレーシングカートに乗れないことを不憫に思い、午後はその制作をしようとシフォンケーキの誘惑を一切れで抑え食べ過ぎる事はなく、エルカジールも牛丼を並みとシフォンケーキは一切れに抑え自身の満腹量を長い月日を生き把握しており食べ過ぎる事はない。


 渡り廊下の先には錬金工房の作業部屋である錬成室と横には鍛冶場があり、錬金工房はエルフェリーンが、鍛冶場はルビーが使っている。クロやビスチェも錬成室でポーション作りを手伝っているのだが、基本はゴリゴリと薬草を潰すだけの作業なので風通しの良く日当たりの良い場所でクロは作業している。


「あっちから音がするけど……鉄を叩く音?」


 レーシングカートは錬金術で作られていると想像していた事もあり首を傾げ、鉄を叩くなら鍛冶場かな? と思い鍛冶場と書かれた看板が揺れる工房へ足を向ける。すると、目に入ったのは見た事のない形をしたものが二代あり目を輝かせる。


「何これ!?」


 思わず叫ぶエルカジール。視線の先には前に作った軽トラ型の馬車とキャタピラ式ゴーレム馬車であり、この世界にない奇抜なデザインに目を奪われる。


「こっちは前が大きくて後ろには何かしらを乗せられそうだね! あっちはタイヤじゃないけど進むのかな? 梯子が付いているけど……高い所で作業する為のものだろうけど……どっちもレーシングカートのように走るのならレースができるね!」


 テンションを上げて独り言をいうエルカジール。窓からはその姿をエルフェリーンとルビーが見つめる。


「どうやら気になって見に来たみたいだね~」


「アレを初めて見る衝撃は大きいと思いますよ! 私も雑誌に載っている多くの車を見た時は驚きました!」


 なぜだかルビーもテンションを上げ口に出し、エルフェリーンはケラケラと笑いながら窓を開ける。


「キャロットたちの大きなカートはこっちで作るぜ~見学しても構わないけど邪魔だけはしちゃダメだぜ~」


「いいの!? てっきり断られるかと思ったのに……」


「別に構わないよ~この技術を盗んでもいいし、君のカジノのレースに加えたっていいぜ~僕は寛大だからね~」


「ほんとっ!? 本当にいいの!!」


「ああ、構わないぜ~ただ、レーシングカートは自分で作ってくれよ~僕たちはもう少ししたら王都のダンジョンに潜るからね~」


「流行り病のヒカリゴケ採取ですね! 私はその時に助けてもらって……今思うと死にかけて……あの時は師匠たちに助けていただき、ありがとうございます」


 深く頭を下げるルビー。その頭を優しく抱き締めるエルフェリーンは「あははは、今は優秀な鍛冶師じゃないか。僕はルビーやみんなが頑張る姿を見ているからね~」と口にする。その姿にエルカジールは仲間の存在を羨ましく思いながら入口へとまわる。


 私も仲間と呼べる存在が……部下ならいるけど弟子はいないか……カジノの経営は部下に任せられるけど、あんなにも尊敬し信頼されているのは少しだけ、ほんの少しだけ羨ましいかも……


 エルカジールは自身がトップを務めるサマムーン王国のカジノを思い浮かべ、雇っている者たちの顔を思い浮かべる。雇っているのはどれもラミア族であり支配人やディーラーたちは人族よりも長生きだが、それでも永遠の時を生きるハイエルフからすればひと時といった程度の付き合いであり、別れの寂しさを考えると濃密な付き合いをすることはなかった。

 それがエルフェリーンは『草原の若葉』というチームを組み皆で協力して家を建てたり、ポーションの素材を集めたり、テーブルを囲んだりと仲を深めているのだ。


「それじゃあ、加工した魔鉄とムカデの甲殻を溶かしてフレーム作りから始めようか!」


「前よりもフレームは太くして強度を持たせないとですね!」


 鍛冶場へ入ると熱気を帯びた空気を頬に感じるエルカジール。それにもましてルビーの表情と声に熱気を感じ視線を向ける。晴れやかな表情でふいごと呼ばれる炉に酸素を送る道具を使い両手で広げては閉じるルビー。力作業ということもあり汗を流しながらオレンジに輝く炉に空気を送り込み、魔鉄と大ムカデの甲殻を細かくしたものを入れ溶かす。

 魔物の甲殻はそのまま切って加工しても問題なく使えるが、今ルビーがしている様に魔鉄と一緒に溶かして使う事も可能で強度が増し更に魔力の通りも良くなる。レーシングカートのフレームに使うのにはもったいないかもしれないが強度という意味では効果はあるだろう。


「うんうん、火の精霊も喜んでいるぜ~このまま燃やし続けよう。僕は砂場を均しておくからね~」


 砂場と聞いて頭を傾げるエルカジールだが工房内の一角にエルフェリーンがいう砂場を発見する。木で囲まれた二畳ほどのスペースに砂が引かれており近くの棚には多くの金型がある。

 これは鋳造と呼ばれ、砂で型を作りそこに溶けた鉄を流し込み冷やして形を作る方法である。この方法でこれからフレームを作るのだが、まずは平らに砂を伸ばし薄い一枚の鉄板を作り、それが冷える前に持ち上げて筒状に丸める。その為の長方形の型を用意しようと砂を凹ませるエルフェリーン。


「こっちは準備できたぜ~」


「魔鉄と甲殻も溶けました!」


 額の汗を拭って声を上げるルビーは特別な魔術を施し耐熱性を持たせた大きな柄杓を慎重に炉に入れ持ち上げる。

 ドロドロに溶けた魔鉄と甲殻は火の精霊が飛び交っているのかキラキラと輝き、それを持ち慎重に歩きエルフェリーンが用意した型に流し込む。


「うんうん、良い感じだね! ここからは僕の仕事だ!」


 そう言いながら熱の温度を視認し耐熱性を高めたポールを置くと焼床鋏やきどこばさみと呼ばれる焼けた鉄を挟む工具で両端を持ちポールを包む。多少不格好になった部分もあるが確りと包み込まれポールに熱が伝わり合体する前にポールを引き抜く。引き抜かれたポールは熱を帯び赤く変わるが溶けている部分などはなくホッと息を吐くエルフェリーン。


「これを後十四本作らないとだね~」


 完成したポールはまだ熱を持っているが変形するほどの熱さはなく、二人で焼床鋏を使い移動させると次を作るために鞴を使い火力を高めるルビー。エルフェリーンは砂場を平らに均し同じように型を作る。


「すごく大変な作業だね……この中の熱気も凄いけど、それを近くで持って加工するのは大変そうだよ……」


 ポツリと言葉を漏らすエルカジール。元はエルフェリーンが作るレーシングカートの技術や錬金術を見て盗もうと考えていたが、その気持ちはいつしか失せ目の前で汗を流しながら作業する二人の姿に目が離せなくなり、熱い鉄を流し込むルビーやそれを整え筒状に加工するエルフェリーンの真剣な瞳を向ける。


「こちらにいたのですね。ここだと熱中症になりますから冷たい物を飲んで下さいね」


 やって来たのはクロであり慣れた手つきで鍛冶場の隅に桶を置きペットボトルに入ったスポーツ飲料を並べて氷と水を入れ冷やす。


「二人は凄いね……僕が思っていた以上に大変な事をしてレーシングカートを作っていたよ……」


「そうですね。鉄の加工は熱くて大変です。自分がレーシングカートを魔力創造できたら楽だとは思うのですが、エンジン関係になると理解していないせいか無理で……本当に凄い事をしていると思います」


 真剣に鉄を流し入れそれを筒状に加工する二人の姿に感心するエルカジールとクロなのであった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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