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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十三章 お騒がせハイエルフ
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クロ歴史 9



 小一時間ほど固形石鹸とブラシを使い皮鎧と戦ったクロはぐったりとした表情で風呂を出ると、リビングを抜けキッチンの裏戸から外に出て鎧を適当な廃材の上に置き干し戻る。


「はぁ~疲れた……」


 リビングではコボルトの三名が流行り病の薬品を受け取りエルフェリーンやビスチェと笑顔で談笑しており和やかな雰囲気である。が、クロと視線が合うとビスチェは頬を膨らませあからさまに視線を逸らす。


「ビスチェはまだ怒ってる~」


「怒ってない! 不機嫌なだけよ!」


 チーランダに指摘され膨らませていた頬を解除するが視線は相変わらずクロと合わそうとはせず、クロはまだ濡れている後頭部を掻きながらキッチンへと向かう。


「クロさん、クロさん、どうやって自力で出たのですか?」


 キッチンのドアから顔を出したのはロンダルでまだ幼さの残る少年にクロはアイテムボックスのスキルでまわりの土を回収して脱出したと簡単に説明する。


「アイテムボックスのスキル持ち! 凄い!」


「そうか?」


 クロとしてはこの世界に召喚され手に入れたアイテムボックスのスキルの便利性にはまだ気が付いておらず、ロンダルはその凄さを口にする。


「僕たちはエルフェリーンさまの指名依頼を受けて薬を配る旅をしています。アイテムボックスのスキルがあれば薬はもちろんですが旅に必要な物も持ち歩けますから」


「ああ、そういえば大きなリュックを背負っていたな」


「はい、あれには予備の武器や簡単なテントとかを入れてあります。エルフェリーンさまから借りているマジックバックもありますがそれほど容量が大きくないので……」


 クロのアイテムボックスのスキルの容量はほぼ無限であり、トラックよりも大きなギガアリゲーターや東京タワーの残骸を入れられるほどである。ロンダルたちが借りているマジックバックは物置サイズであり、届ける薬品と携帯食や水を入れればすぐに容量は満杯である。


「あれだけの荷物を担いでいるのなら筋力もありそうだし、俺的には尊敬するよ。俺はいつまでたってもビスチェから一本取れないしな……」


「ビスチェさんから一本は僕にも無理です。勝てるとか思えないし……姉ちゃんたちもビスチェさんと模擬戦しても勝てないと思いますよ。なんたって『暴風のビスチェ』と呼ばれるぐらい凄い人ですから」


「暴風のビスチェ?」


「はい、王都近くでスタンピートが発生した際に凄く活躍したそうですよ! 暴風を起こして魔物を吹き飛ばして大活躍だったらしいです! その後には勧誘してくる冒険者も吹き飛ばしたらしいですが……」


「あははははは、ビスチェらしいな! 魔法ありならそれこそ一本取れないな!」


 ビスチェの活躍に笑い声を上げるクロ。ロンダルも笑い始めキッチンが騒がしくなるとチーランダが顔を出して口を開く。


「ん? 何か面白いことがあったの?」


「ああ、ビスチェの活躍を聞いてな。『暴風のビスチェ』と呼ばれているとか初めて知ったよ」


「そうそう! ビスチェは凄いの! 私も見た事があるけど魔物と人がビューって弾き飛ばされてくの! 冒険者ギルドの看板も飛んで行ったの!」


 その言葉にクロとロンダルは爆笑し、エルフェリーンとチーランダがキッチンへ顔を出す。


「王都のスタンピートの話だね。あの時はエルフェリーンさまとビスチェがいたから助かったが、今思うとゾッとするね。狼型の魔物や猪の魔物なんかは冒険者でも相手できるが、空を飛ぶ鳥系の魔物や虫系の魔物は矢で落としてからじゃないと戦えないからね」


「飛びサソリも多くいたからね~ビスチェが竜巻を起こして僕が棘状にした石を飛ばしたんだぜ~」


「そうそう! 凄かったんだから! 二人がいなかったら今頃は王都じゃなく廃都になってたかも!」


 チーランダがテンション上げて声にし、ビスチェも自身の話題が出て気になったのかキッチンのドアの隙間からこちらの覗き聞き耳を立てる。


「ん? クロは少し顔色が悪い? 魔力を使い過ぎたかな?」


 エルフェリーンがクロの顔が青ざめている事に気が付き指摘し、クロは自身の顔を手で触り確認するが熱などはなく体の怠さを覚えるぐらいであった。


「そうですか? 確かに疲れていますが……ああ、魔力の使い過ぎかな? お風呂を沸かすのにも多くの魔力を使ったし、鎧を洗うのにも泥が落ちやすい石鹸やブラシに服もか。穴を埋めるのが大変だったから単純な疲労かと思いまし」


「ダメだよ! 魔力を使い過ぎると魔力欠乏で死んじゃうかもしれないよ! 早くこれを飲んで!」


 エルフェリーンがアイテムボックスから魔力回復ポーションを取り出しクロへと強引に手渡し、クロは苦笑いを浮かべる。これは貴重な魔力回復ポーションを使う事に躊躇っているのではなく単純に不味いからであり、その味は只々苦く後味が舌に残るのである。


「だ、大丈夫ですよ。ああ、三人もお風呂に入って汗を流したらいい。疲れたも吹き飛ぶぞ」


 話題を変えようと『若葉の使い』へ向かい口を開くが、エルフェリーンはクロに抱きつき口を開く。


「飲まなきゃダメだよ! クロがいなくなったら僕が困るし、ビスチェもきっと困るからね! また家が汚れちゃうよ!」


 その言葉にクロはキッチンのドアの隙間からこちらを見つめるビスチェへと視線を向ける。ビスチェはクロと目が合い視線を逸らすかと思われたが無言でコクリと頷き、早くそれを飲めとばかりに顎をしゃくる。


「は、はい……」


 魔力回復ポーションの瓶を開け覚悟して口に入れ顔を歪ませたクロはアイテムボックスのスキルで常備してあるお茶を飲み口直しをし、抱きついていたエルフェリーンは笑顔へと変わり、様子を見ていたビスチェもホッとしたのか優しい笑みを浮かべる。


「あの、あの、お風呂入りたい!」


 両手を上げてチーランダが声を上げ、クロは「ああ、さっぱりしてこい」と声を返し、魔力創造でバスタオルを創造すると投げ渡す。


「ふわぁ~こんなに柔らかな布はじめて見る! ありがとっ!」


 走るようにお風呂へ向かうチーランダ。残りの二人にもバスタオルを渡すとポンニルとロンダルからお礼を口にし、ポンニルはチーランダを追い掛ける。


「そろそろ昼時ですし、何か作りましょうか」


「うん! 僕は美味しいものがいいな~ロンダルたちも付かれているだろうから元気が出る料理がいいね~」


「僕たちもいいのですか!?」


「ああ、クロの料理は美味しいぜ~この世界でもトップクラスだぜ~見た事もない料理を食べさせてくれるから楽しみにするといいぜ~」


 その言葉にハードルを上げないで欲しいと思うクロ。ロンダルはキラキラした瞳を向け、ビスチェは勢いよくキッチンのドアを開けたチーランダに謝られながらぶつけた額を手で押さえ蹲っていた。






「なにこれ美味しい!」


「こっちの泥みたいなスープも美味いよ!」


「泥みたいって……豚汁な」


「どれも美味しいです! エルフェリーンさまが言っていた通りに凄く美味しいです!」


 昼食用に用意したのは牛丼と豚汁に漬物である。甘辛く煮た玉ねぎと牛バラをサッと煮こんだそれを炊き立ての白米に乗せて提供する。生卵を入れても美味しいと説明すると最初は嫌がっていたが、エルフェリーンが入れて食べる姿に三名も興味を持ち同じように食べるとおかわりのラッシュであった。


「うん、美味しいわね。この赤いのを入れるとサッパリ食べられるわよ」


 お気に入りの紅ショウガを勧めるビスチェに機嫌が戻ったのかもと安堵するクロなのであった。









 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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