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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十三章 お騒がせハイエルフ
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クロ歴史 7



 翌日、朝食の用意をしているとビスチェとエルフェリーンがリビングのソファーに座り何を話している声が聞こえ聞き耳を立てるクロ。


「クロは血に抵抗があるのかトラウマがあるのは分からないけど、血が苦手みたいだね」


「対人戦や対魔物戦でも血が出るでしょうし、血が見たくないという理由で戦えないのは論外ね。それこそクロの命に係わるわ。血に慣れるよう努力するべきなのかもしれないけど……また、肉の出ない食事は嫌ね……」


「そうだね~あれだけ大きいアーマードボアの血抜きを見て気持ち悪くなるのは理解できるけど、こればっかりは慣れだし、食事に肉が出ないとは僕も嫌かな~夕方に捌いたアーマードボアの内臓は新鮮なうちに料理しないとダメになっちゃうけど、今のクロにお願いするのは気が引けるよ~」


「肝臓と心臓は丁寧に洗ったけど切ればまだ血が出るわね。私が料理してもクロはきっと食べないわね。なにより美味しくないわ」


 そんな話を耳にしながらワカメご飯のおにぎりを握るクロ。二人から心配されているという事実と、食材を無駄にしたくないという気持ちから決意をしてリビングへ向かう。


「そ、それならもう大丈夫ですよ。食材だと思えば肝臓や心臓もレバーとハツですから料理します」


 ぎゅうぎゅうとワカメご飯のおにぎりを握り続けるクロに、二人は大丈夫ではないことを察する。


「クロ、クロ、おにぎりがどんどん小さくなっているよ! あんまり握ると歯が立たなくなるよ!」


「おにぎりはふんわりと握る方が美味しいのよね? しばらく肉抜きね……」


 二人の指摘にクロは手にしていたおにぎりに視線を落とし「あっ……」と小さく声を上げ、ぎゅうぎゅうに握り小さくなったおにぎりを口にする。


「握り過ぎたな……あの、食材として見れれば料理する事はできると思いますので……」


「そうかい、それならアーマードボアの心臓と肝臓を出すね。錬金術の素材にしてもいいけどクロなら美味しく料理してくれると思うからさ~」


 アイレムボックスのスキルで大きな木の器を出すと、そこにバスケットボールほどの心臓と、その三倍はある大きさの肝臓が置かれ顔を青くするクロだったが震える手を握り締め観察する。


「血ができるだけ残らない様によく水で洗ったわ。私ならぶつ切りにして根菜と煮るけどクロならどう料理するのかしら」


「僕なら塩を振って焼くだけだね~どんな料理になるか楽しみだよ~」


 二人からの言葉に期待されているんだと心の中で言い聞かせ、一抱えある木皿を持ち上げ「期待して下さい」と言葉を残しキッチンへ移動する。


「手が震えていたけど大丈夫かしら?」


「うん……ちょっと心配だね……」


 キッチンへと向かうクロに視線を向ける二人。クロはキッチンへ戻ると作りかけのおにぎりをアイテムボックスに回収し、気合を入れる。


心臓ハツの下ごしらえは水で洗うだけだったはず。肝臓レバーの下ごしらえは塩と酢で揉み少し待ってからよく水で洗うだったな。久しぶりだけどやってみるか……」


 肝臓を一口大に切りボウルに入れ塩と酢を入れ揉み込みながら、これは食材これは食材と心の中で連呼する。多少血が出るが連呼している事と二人が楽しみにしていると考え手を動かし下処理を終わらせる。

 心臓の方はボウルに入れたっぷりの水を入れて軽く揉み、大きな血管は開くようにして包丁を入れる。エルフェリーンが丁寧に洗ったと言っていた通りに血が出ることはないがそれでも水の色は赤く染まり始め、水を数回換えて作業を終え水を切る。


「ふぅ……後はこれを料理するだけだな。心臓は味噌で炒めるかカラアゲだな。レバーはレバニラ炒めとレバーパテにでもしようかな~」


 下処理が終わり緊張感のなくなったクロは食材として下準備に入る。その様子をこっそりと見ていた二人は互いに視線を合わせ微笑み、覗いていたキッチンのドアからリビングに戻る。


「もう大丈夫そうだね~今日からお肉が食べられるよ~」


「クロには料理人としてここで頑張ってもらうべきかもしれないわね。戦闘訓練は続けて、狩りは私と師匠ですればいいわ」


「あははは、そうだね~でも、クロの魔力創造で出すお肉も美味しいからね~僕はたまに狩りができればいいかな~」


「ふふ、そうね! 前に食べたワギューは美味しかったもの! 蕩けるお肉がこの世にあるとは思わなかったわ!」


「うんうん、お肉が口の中で解れるような感じだったね~クロの出してくれたビールというお酒も美味しいし、最高のおつまみだったよ~」


「白いワインを初めて見たけどあれは凄いわ! 味も香りも一級品だし、渋みが全くないの! ワインとは別のお酒かもしれないわ!」


 いつしか話題がお酒の事へと変わりテンションを上げて話し合う二人。そんな二人の鼻腔をくすぐる香りに気が付き会話が止まると、二人は頷きこっそりキッチンのドアへと向かい覗き見る。そこにはフライパンを振るクロの姿があり複雑で香ばしい匂いが立ち込め鼻をスンスンとする二人。


「あれは心臓かな? それとは肝臓かな?」


「わからないけど良い香りだわ。醤油に似ている香りだけど薬草の香りもするわ。どんな味がするのかしら……ゴクリ……」


 期待した瞳を向けるエルフェリーン。ビスチェは生唾を飲み込み料理に期待する。

 

 クロがフライパンから皿へ盛り付けるとアイテムボックスに入れ、次の料理に取り掛かる。ニンニクにショウガと醤油に日本酒を入れ漬け込んだ心臓ハツに片栗粉をまぶし油で揚げて行く。


「違う料理をはじめたよ。どんな料理かな?」


「油の音かしら? とんかつは前に食べて美味しかったけど、同じように揚げているのならきっと美味しいわね!」


 そんな会話を耳にしながら微笑みを浮かべるクロ。普段よりも遅くなった朝食に待ちきれず覗きに来たのだろうと思いながら心臓ハツのカラアゲを完成させる。


「クロ! 僕は味見がしたいよ!」


「あっ!? 師匠がするなら私もしたいわ!」


 ドアを勢い良く開けたエルフェリーンが叫びビスチェも後に続けと叫ぶ。そんな二人に試食させようと楊枝を刺してカラアゲの皿を向けるクロ。


「いいのかい! やった!」


「熱いから注意して下さいね」


「私も食べるわ! はふはふ」


 楊枝に刺さったカラアゲを口に入れハフハフと熱い息を漏らすビスチェ。エルフェリーンはふうふうと自身で冷まし口に入れる。


「まわりがサクサクで肉はコリコリして美味しいよ! これは心臓だね!」


「熱っ!? でも美味しいわね! 臭みもないし歯触りがいいわ。ふふ、やっぱりクロに料理してもらって正解だったわね!」


「うんうん、僕やビスチェじゃこんなに美味しい料理には絶対に作れないからね~はふはふ」


 新たなカラアゲを口にするエルフェリーンとビスチェに「ありがとうございます」と感謝を口にし、今回の事は血が苦手な俺の為に色々と考えてくれたのだろうと思案しカラアゲの乗った皿を持つとリビングへと移動し、二人もその後に続く。


「朝食にしましょうか」


 アイテムボックスから先ほど握っていたおにぎりと大根と油揚げのお味噌汁に浅漬けとレンコンを使ったキンピラに昨晩残ったポテトサラダを置き、最後にレバニラ炒めを置くと二人はすぐに席に付き目を輝かせる。


肝臓レバーを使った料理です。レバニラ炒めですね」


「うんうん、美味しそうだね!」


「この香りは癖になるわ!」


 三人で「いただきます」と声を合わせ料理を口にして表情を溶かすのであった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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