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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十三章 お騒がせハイエルフ
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クロ歴史 6 多少グロテスクな表現が含まれます

 多少ですがグロテスクな表現が含まれます。解体や血抜きに関する表現です。苦手な人は飛ばして下さい。


 尻もちを付いたクロの視線がビスチェの強烈な一閃を捉え、ドサリと音を立てて落ちるアーマードボアの頭部。吹き出す血のビジュアルとその臭いに胃から上がって来るものを感じながらも強引に手で口を押えるクロ。


「さあ、血抜きするぜ~」


 杖を掲げるエルフェリーン。それに反応し足に絡まっていた土が動き出し巨体を高い位置へと押し上げ簡単な坂道を作り出す。


「ある程度血が流れたら水魔法で残りの血も出るよう血管に水を流すぜ~って、クロが真っ青だよ!! 大丈夫かいっ!?」


「す、すみません……この光景は……ちょっと……ダメかも……」


 エルフェリーンに心配され言葉を返したクロは視線を真逆へ移し、木々を見て生々しい光景を忘れようと視線を動かし鼻を摘み深呼吸する。


「まったく情けないわね! 狩りをしたら血抜きをして解体するのは当然の事じゃない! それなのに血を見て気分を悪くするとか……はぁ……クロはもっと気合を入れて鍛えないとダメね!」


 後ろからビスチェの声が耳に入るが言い返すことはせず、気持ちが落ち着くまで自分は石になろうと、じっとしながら風に揺れる木々や見た事のないキノコや野草を見つめる。


「血抜きはこれでいいからアイテムボックスに入れて~血は土魔法で埋めて……よし、次の狩りだ! 次は僕が狩るからね~クリスタルディア―でもいないかな~」


 自身のアイテムボックスに大型のアーマードボアを収納したエルフェリーンは血で黒く染まった地面に魔法を使い天地を返すと血の匂いが薄れ、それを確認すると杖を振り回しながら森を進む。クロはと言えばまだ顔色はあまり良くなっていないが立ち上がり先を行くエルフェリーンの後に続こうと足を進め、ビスチェは風の精霊に血の臭いを飛ばすようお願いし突風が空へと抜ける。


「むっ! あれはブラックウルフ……あまり美味しくはないけど僕が狩ろうじゃないか!」


 森が途切れ広場のようになった場所には十数匹の黒い狼が見え杖を掲げるエルフェリーン。クロは遠目に見える黒い集団に狼かどうかなどわからず、ビスチェが肩をトントンと軽く叩き口を開く。


「魔力を目に集めなさい。視力を強化できるわ。これは身体強化の応用だけどクロならできるわよ」


 小声で話すビスチェにクロは頷き目に魔力を込める。すると望遠鏡の様に視界が進み大きく欠伸をするブラックウルフが見え並んだ牙の鋭さに顔を引き攣らせる。


「込める魔力を抑えれば視点が合うはずよ」


「ああ、今あった……何匹もいるが……」


「ブラックウルフは基本的に集団で行動するわ。群れるのは弱いからよ。グレートウフルなら群れずひと家族ごとに生活するわね。見てなさい、師匠ならあっという間に片付けるわよ」


 先を歩くエルフェリーンを後ろから見つめるクロ。ビスチェは辺りを警戒しながらエルフェリーンを見つめる。


「弟子の前だから手加減抜きでやっちゃうぜ~風の刃よ、僕と一緒に舞い踊れ~~~」


 地面を滑るように移動するエルフェリーン。それはまるで地に足が付いてないのか走る動作ではなく、右足を前に出し左足は後ろにしたまま素早く進み、ブラックウフルが気が付き威嚇し叫ぶが止まる事はない。

 数頭が大きく口を開け噛み付こうと迫るが杖を一振りするとその首が飛び落ちる。


「うっ……」


「まずは血に慣れることから始めないとかしら……」


 吐き気を催すクロにビスチェはどう指導しようか悩み、クロは目の前の惨劇に顔を歪め両手で口を押える。


 杖を振り回し地面を滑るエルフェリーンが停止すると血だまりの上には頭部のないブラックウフルが地面に横たわっていた。


 クロは思う。


 あれこそが冒険者ギルドの受付が言っていた、やり過ぎるだろうと……


「いや~いい運動になったよ~これは血抜きせずに毛皮だけ剥いで魔石の回収かな。牙が御守りになるから頭部だけ残すかい?」


「頭部は廃棄でいいわよ。どうせ高く売れないし、これだけの牙を持ち込んだら値崩れするもの。若い冒険者たちにはこういった牙を売るのも大事な収入源だわ」


 エルフェリーンが倒したブラックウルフの数は三十頭もおり、転がる血まみれの頭部は回収せずに土に埋める事に決まり杖を掲げ大きな穴を掘るエルフェリーン。


「クロは休憩しててね~すぐに終わらせるぜ~」


「一匹は後でクロにしてもらうから私のアイテムボックスに入れておきますね」


「ああ、うん……でも大丈夫かな? クロは凄く顔色が悪いけど……」


「それでもできた方がいい事だわ。自分で狩った魔物を解体するのは冒険者として当然だもの! それができないのなら冒険者失格だし、食べる権利もないわ! いきものから命を頂いている自覚はすべきよ!」


「まあ、そうだろうけどね……」


 ビスチェの言葉は正論であり冒険者が魔石と肉を持ち帰り収入源にする。遠征では魔物の肉を自分たちで解体し焼いて食べるのである。

 魔物とはいえ生きている存在から命を奪うのならそれを食すべき。これはエルフや人族の多くに言い伝えられており、命を粗末にするなという意味や、今食べている肉は命ある存在から頂いたものであるという道徳的な意味が込められている。


「うん、疲れた……この解体はナナイ達に任せてそのままプレゼントしよう!」


 三匹ほど毛皮を剥がしたエルフェリーンの言葉にビスチェは頷き、残りをアイテムボックスへと収納する二人。ナナイとは近くに住むオーガの集落の族長であり、流行り病の薬を取りに来る時期が近い事もあってか面倒な皮の剥ぎ取りを任せることにしたようである。


「オーガの村なら毛皮を鞣してコートや絨毯にするわね」


 ビスチェも賛成なようで水球を浮かべ血で汚れた手を洗い風の精霊にお願いして血の臭いを上空へと逃がす。


「帰ったらアーマードボアを解体して肉を熟成させないとね~どんな料理になるか楽しみだよ~」


「料理はクロが作ってよ! 今日は良いとこなしだったからね!」


 離れて蹲っていたクロへと声を上げるビスチェ。クロは片手を上げて了解し家路に付くのだった。








その日の夜はクロが野菜を中心に料理を作り、コロッケにポテトグラタンやポテトサラダが並び、缶ビールや缶の焼酎を用意する。多くの血を見たクロは肉を見たくなかったし、それに酒を飲んで忘れたかったのである。


「美味しいわね! 全部芋なのが気になるけど……」


「うん、この伸びるヤツは美味しいね! ゴクゴクぷはぁ~ビールという苦い飲み物も美味しいよ! 近いお酒を飲んだ事があったけど何て名称だったかな? ゴクゴク」


缶ビールと缶の焼酎に文句は出なかったが、ビスチェだけは料理が芋で作られている事に気が付くが文句を口にすることはなくポテトサラダを口にして表情を崩す。


「あれだけ血を見るとな……はぁ……食欲が一切湧かないな……」


ビールを開け口にし、その苦みに表情が更に曇るクロなのであった。







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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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