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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第二章 預かりモノと復讐者
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閑話 マヨのある風景


 

 王女ハミルは機嫌が良かった。朝からマヨネーズを使った料理が朝食に並んでいるのである。


「マヨマヨマヨマヨマヨ~マヨ」


 やや不気味な鼻歌を奏でるハミル王女に眉を潜めるダリル王子。二人は兄妹ということもあり一緒に朝食を取る事が多い。国王と王妃たちは既に朝食を済ませ職務を全うしており一緒に食事をする事はあまりない。二人は一緒にテーブルに付き運ばれてくる料理を堪能するのだが、末っ子のアリル王女が席に付いていないのだ。


「アリルが来るまであの鼻歌を聞かなくてはならないのか……悪いが見てきてくれないか?」


 そう口にするダリル王子に専属メイドは頭を下げ了解し、アリル王女の私室へと向かうべく動き出す。


 王族用の食堂を抜け出したメイドは早足で廊下を進むと、手を繋ぎこちらへ向かって来るアリル王女とその専属メイドが目に入りホッと息を吐きながらも会釈すると、二人は足を進めながらも会釈を返す。


「ダリル王子さまがお待ちです。王女ハミルさまが例の歌を口ずさんでおりますので、お早めにお願い致します」


「マヨの歌ですね! 私はあの歌が大好きです!」


 まだ五歳と幼いアリル王女にはキャッチーな歌詞とリズムに笑顔を浮かべ喜ぶが、成人したダリル王子には雑音に聞こえ、ここ最近の頭痛の種である。


「ふふふ、ハミルさまは将来音楽家でも成功しそうですね」


「マヨマヨマヨマヨマヨ~マヨ」


 小さな口を開き歌いはじめるアリル王女が食堂へ到着すると、自然と二人の歌声が一致しハーモニーを奏でるのだがダリル王子は眉間を押さえる。


「頼むから食事の前に歌うのはやめてくれ……食後に一緒に歌うといい……」


 ダリル王子の言葉に二人は口を閉じアリル王女は椅子へ腰を降ろす。


「お兄さま、お姉さま、おはようございます」


「ああ、おはよう」


「アリル、おはよう。昨日はよく眠れたようね」


「はい! いっぱい寝て、早くクロさまが来るのを待ちます!」


 元気に答えるアリル王女はいっぱい寝ればクロたちが遊びに来てくれる日が早く来ると言い聞かされており、それを信じているのである。確かに体感的には早くなるだろうが、次に王都に来るのはダンジョンで目的の物を採取した後である。


「そうか、偉いな」


「アリルは偉いですね。それではいただきましょうか」


「はい! 好き嫌いも頑張ってなくしてみせます! あむあむ」


 野菜スティックの人参を手にしたアリルはマヨネーズをつけると大きな口を開け噛り付き咀嚼する。


「マヨは美味しいです!」


「マヨをつければすべてが美味しくなる魔法のソースです。茹でた芋すらもご馳走に変えるのですから、最早最強! そう最強のソースなのです!」


「ある意味、料理人泣かせなソースだな。料理長がマヨネーズを前に崩れ落ちたあの日を思い出すと、僕は今でも複雑だよ……」


「マヨの前にすべては無力なのです……それに料理長も今ではマヨを使ったアレンジレシピを開発して下さいました。見て下さい、この茹でた玉子を刻みパンにつけるソースへとアレンジされたのですよ。これは異業だと私は思います。

 クロさまにタマゴサンドという似た料理を振る舞って頂き食しましたが、それに限りなく近づいています。ジャムと同じでパンにつけるという発想までで止まっていますが、挟めばタマゴサンドです!」


「ハミル……ここの声はキッチンに聞こえているのだぞ……今頃は調理長が泣き崩れているかもしれんな……」


「わ、私は褒めたのです! タマゴサンドはある意味究極のマヨ料理です! その深淵を自身の発想と努力で覗く事ができたのです! 褒めるのは当然です!」


「その褒め方に問題があるのだ……はぁ……パンに塗って食べるか。どれ……美味しいね。ただ、こぼれやすいのが問題な訳か……ああ、だからタマゴサンド……初めから挟んであれば落とす確率が減るのだな……あむあむ」


「パンにつけて食べると白身の所が落ちやすいのです。それでもこの一歩は大きな一歩になるはずです! タマゴサンドはタルタルソースへと進化し、それはチキン南蛮へと昇華されるのです! それ即ちマヨの道!」


「その、なんだ……少し落ち着いてくれ……食べている途中に拳を握り締め立ち上がるのは淑女として間違っているからな。アリルも真似するのはやめなさい」


 姉妹揃って立ち上がり拳を振り上げる姿にダリルは指摘し、傍に使えるメイドたちは笑いを堪える。


「はい……ですが、ハミルお姉さまが立ちあがったのは格好良かったです」


 キラキラした瞳でハミル王女を見つめるアリルは、いつか自分も同じ様に拳を振り上げカッコイイ台詞を口にすると心の中で思いながら、苦手だったブロッコリーに似た野菜を口に入れる。


「それでもしちゃダメな事はあるからね。健康になったのは良かったが、マヨネーズに取り憑かれたのは困ったものだな……呪いじゃないだけに呪いがえしや魔道具では対処が出来ない……はぁ……クロの兄貴……何とかして下さい……」


 ダリル王子はクロたちが向かったダンジョンのある東の空を見つめるのだった。




 

 次こそは三章開始です。十日の十一時から十五日までは予約投稿できました。


 

 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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