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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十三章 お騒がせハイエルフ
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クロ歴史 4



 クロが錬金工房『草原の若葉』で生活するようになり一週間が経過した。


「だから、訓練なのに本気で突いてくるなよ!!」


「訓練だから本気なのよっ!」


 鋭い突きが右肩を捉えあまりの痛みに顔を歪めるクロ。ビスチェは表情を変えずに追撃しナイフを持つ手を突き痛みからナイフを離す。


 クロは空いた時間を使い自身の弱点である攻撃を学んでいた。シールド魔法がそれなりに使えるクロは武器を使った戦闘方法をビスチェから学んでいるのだが、超実践的な訓練に連日ポーションを飲み骨折や裂傷を治療する日々である。


「くっ……また痣になってるぞ!」


「鞘に入れてあるだけありがたいと思いなさい。これが訓練ではなく実践だったら肩は貫かれて手も地面に落ちているわよ。それに、ロングナイフを二本持って戦うのは無理じゃないかしら? そもそも一本をまともに扱えるようになってから二本目を使うべきよ」


 ビスチェの指摘に思い付きと若干の厨二病でロングナイフを二本使って戦うという選択肢を選んだクロは傷む肩と右手に顔を歪める。


「これならビスチェの素早いレイピアの一撃をナイフで弾きながら戦えると思ったんだよ! ああ、痛てぇなー」


 ジンジンと痛む右手でロングナイフを拾い構えるクロにビスチェは笑みを浮かべる。


 訓練を言い出した時はふざけているのかと思ったけど、良い面構えになったわね。構えも動きも素人同然だったけど少しはマシになったかな? 足の運びはまだまだね。私が前に出るとすぐに腰を落として受ける気になっているわ。だから簡単なフェイントに引っ掛かる。


 ビスチェは素早く間合いを詰め鞘に入れたままのレイピアで横薙ぎに一閃し、クロは待ってましたとナイフをクロスさせ受け…………受けようとしたが一閃させたはずの一撃がクロスさせたナイフに当たる事はなく、代わりに半円を描きクロの頭部へと着地し鈍い音を立て前のめりに倒れるクロ。


 ほら、まともに喰らったわ……はぁ……クロにはナイフの、いえ、剣術の才能がないわね……


 ビスチェはすぐに使うだろうとポケットに入れたポーションを出すと封を開け昏倒しているクロの頭に振りかける。


「ほら、これで痛みも消えたでしょ。次やるわよ!」


「………………絶対に一本取ってやる!」


 手足に力を入れクラウチングスタートでビスチェに斬りかかるクロ。その瞳はビスチェを確りと捉え闘志に燃えていた。が、長い年月を生きるビスチェとの技術の差は圧倒的で、左手に持つロングナイフをすぐさま落とされ痛みに顔を歪めるが、すぐさま右手に持ったナイフを振り下ろす。


「甘いわね」


 左手に突きを放ち避けられないだろうと踏んでいたクロだが、突きを出したレイピアを持つ右手を引き一歩前に出ながら左手の甲でナイフを持ち振り下ろした右手首を掴み捻る。


 結果としてクロは手にしていたナイフを手放し大地に転がり、ビスチェはクロの額に足を乗せドヤ顔である。


「まだまだね。私に一本入れるには後百年は覚悟しなさい」


「そんなに寿命がねぇってのっ!」


 痛む左手でビスチェの足を振り払うクロは苦痛に顔を歪め、ビスチェはポケットから出したポーションの封を開けクロの頭に振りかける。


「なあ、そのポーションを毎回振り掛けるのをやめてくれないか。凄くムカつく……」


「あら、敗者らしくていいじゃない。悔しさは強さに繋がるのよ」


 微笑みを浮かべるビスチェは絶対にSだと思うクロなのであった。





 昼食を取り終わりクロはビスチェの指示に従いながらすり鉢に洗浄したヒカリゴケを入れゴリゴリとすり潰していた。


「すべてが液体になるまですり潰すのよ。少しでも潰れていないと薬効成分が抽出できなくてもったいないわ。それと無駄な魔力を込めない様にね。ここでは潰すだけ、潰したものを錬金釜に入れてから魔力を通すの。その時に不順な魔力が混ざると錬成事故に繋がるわ。下手したら大爆発よ」


 その言葉に身を震わせるクロ。


「大爆発って大丈夫なのかよ……」


「そうならない為に魔力を込めない様にするのよ。クロはまだまだ魔力に関して未熟だから問題はないと思うけど、意思を込めて魔力を扱おうとは思わなければ大丈夫よ。ああ、剣術も未熟だったわね」


 笑いながら口にするビスチェにカチンとくるが、毎日の訓練でコテンパンにやられているクロはふぅと息を吐いて怒りを鎮めると、すりこ木棒を持ち足ですり鉢を支えてゴリゴリと潰して行く。


「あら、すり潰すのは得意なのね。これなら早く終わるかもしれないわね」


 微笑みを浮かべるビスチェの表情にドキリとするが視線をすり鉢に戻し手を動かす。フードプロセッサーがあれば楽なのにと思いながらも、無心でゴリゴリとヒカリゴケを潰すクロ。

 潰しているヒカリゴケは夏に流行る感染症の特効薬であり、エルフェリーンをはじめとした錬金術師が毎年忙しくなる時期でもある。王都近郊のダンジョンにヒカリゴケを採取しにきていたエルフェリーンに助けられたクロも後にヒカリゴケの採取に向かいルビーと出会い、そのルビーもエルフェリーンの弟子として今では活躍中である。


「ん? 最初の頃よりも光っているか?」


 潰す前はうすぼんやりと光っていたヒカリゴケが潰すに連れその光量が増えているような気がしたクロが声に出すと、ビスチェは笑みを浮かべて口を開く。


「ええ、そうね。ヒカリゴケは魔力と防衛の為に光ると言われているわ。潰し終える頃にはもっと光るからね。昔はその潰したヒカリゴケを明かりに夜を過ごしたと言われているわ」


 電気製品のない異世界らしい生活を聞き今では違うのかと思うクロ。


「師匠やビスチェは光の玉を浮かべる魔法を使うだろ? 魔法が使えない人は夜とかどうするんだ?」


「早く寝るわね。後はオイルランプや焚火を前に勉強するわよ。魔導書とかは昼間に読むのを進めるわ」


 早く寝るという言葉に理にかなっていると思うクロ。魔導書というかこの世界の文字がほぼ読めないクロは縁がない話だなと思いながらも同じ作業をするビスチェに視線を向ける。


「なあ、ビスチェは文字が読めて書けるか?」


「もちろんよ。何なら教えてあげましょうか?」


 目を細めるビスチェのサドッ気のある表情に悩むクロ。


「薬草を潰しながらでも文字を教えるぐらいできるわよ。外で椅子に座りながら足で地面に文字を書けば覚えられるわ。足でできて手で出来ないことはないのよ」


 ビスチェの言葉に揶揄われているのか、それとも本気で言っているのか解らないクロだったが「それなら頼む、教えてくれ」と口にする。


「ええ、教えるわ。私が小さい時も同じように薬草を潰しながらパパに文字を教わったのよ。足が自在に動かせるようになれば足の運びも上手くなるわね。今日見せた腰を低くした足の運びには驚いたけどアレはダメよ」


「ダメなのか? 不意ぐらい突けたと思ったが……」


「ダメね。最初から早く動けるかもしれないけど、先手を取られたらカウンターをまともに喰らうわね。それに避けられないでしょ」


 ゴリゴリと潰しながら、確かにビスチェの突きで左手にカウンターで打たれたし、右手首を捻られ投げられたな……


「クロには戦う才能はほぼないわね。だからクロはゴリゴリ係として努力なさい。エルフェリーンさまの姉弟子の私が色々と教えてあげるわ!」


 ドヤ顔を浮かべるビスチェにクロはゴリゴリ係って、と思いながらもゴリゴリとヒカリゴケを潰すのであった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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