クロ歴史 3
「こちらがクロさまの冒険者カードになります。再発行は金貨一枚掛かりますので紛失しないようお気を付けください」
うさ耳の受付嬢から説明を受け冒険者カードを受け取るクロ。路地から場所を移しエルフェリーンからの勧めでターベスト王国で冒険者ギルドに登録しカードを新たに作ったのだ。
「ありがとうございます」
「いえいえ、エルフェリーンさまのお弟子さまならきっと優秀でしょうし、優秀な冒険者が増えるのは冒険者ギルドとしては大歓迎です。ただ、エルフェリーンさまとビスチェさまはやり過ぎる事が多々あるので歯止めになっていただければと……」
後半はぐいっとカウンターから身を乗りだし小声で話すうさ耳の受付嬢にクロは顔を引き攣らせる。
「はい……できるだけ善処します……」
「そうして頂けると助かります」
うさ耳の受付嬢の笑顔にどんな事をしたのか聞き出せずカウンターを後にするクロは、空いているギルド内のソファーに座り饅頭を食べて待っている二人と合流する。
「泥団子に見えたけど甘くて美味しいわね!」
「うんうん、ついつい次を食べちゃうよ~でも次はしょっぱいものが食べたいね~」
そんな二人と冒険者ギルドを出ると街の出口へと向かい、ダンジョンの転移が原因の不法入国という身分である事を思い出し視界に入った警備兵に顔色を青くする。
「あの、俺、拙くないですか?」
「ん? お饅頭は美味しいわよ?」
「そうじゃなくて……不法入国とか……」
「ああ、そんな事を心配しているのかい。それならさっき作った冒険者カードを見せれば大丈夫だよ。その為に作ったようなものだからね~」
エルフェリーンの言葉にホッと胸を撫で下ろすクロ。いつの間にかエルフェリーンと共に行動を共にし、冒険者ギルドでは弟子として呼ばれた事もあり幼く見えた少女が今では頼もしく見えていた。ビスチェの存在も最初は口が悪く感じたがビニールが剥がせず涙目を浮かべる姿や饅頭を食べ表情を蕩けさせた表情の変化に、感情を表に出すタイプだとわかると不思議と親しみが湧いていた。
「エルフェリーンさま! 採取は上手く行きましたか?」
警備兵からの言葉に笑顔で「うん」と応えるエルフェリーン。ビスチェはドヤ顔で仁王立ちし、クロは若干震えているが冒険者カードを両手で持ちいつで見せられる格好をしている。
「ん、Fランクとは新人だな! 辛い時もあるだろうが頑張れよ!」
予想外の励ましの言葉に辛かった死者のダンジョンと王都のダンジョンからの帰還を思い出し涙が溢れ出し、声を掛けた警備の男は驚くがエルフェリーンが口を開く。
「クロは頑張って冒険者になったからね。これからは僕の弟子としてもっともっと頑張るからね~応援してくれよ」
「おお、それは楽しみです! クロ、泣いてばかりじゃなくエルフェリーンさまの弟子としても頑張れよ! 俺たち警備兵はクロの事を応援するし期待しているからな!」
「あ、ありがとうございます」
目を擦りながら頭を下げるクロにビスチェがアイテムボックスから布を取り出して渡し、それで涙を拭うクロ。
「うんうん、僕の弟子はどの子も優秀だからね~クロも立派な錬金術師に育ててみせるよ! 帰ったらポーションの作り方と流行り病の薬作りだからね~」
「は、はい……頑張ります……」
いつの間にかエルフェリーンの弟子になり立派な錬金術師になる事になったクロ。この時は疑問に思わず立派な錬金術師になろうと心に決めるのであった。
転移魔法で錬金工房『草原の若葉』へと辿り着いたクロはその趣のあるボロい佇まいに不安を感じたが、入ってみると屋敷の中は想像以上に散らかっており顔を引き攣らせるクロ。
「ちょっと散らかっているけど気にしないでね」
「ちょっと………………」
「コツとしては歩くときにゴミを足でずらすと歩きやすいからね~」
ゴミ屋敷の中をすいすい進む二人にクロは思う。大変な所に弟子入りしてしまったと……
「あの、これは片づけても?」
その言葉に二人が振り返りキラキラとした瞳を向ける。
「クロが凄い事言ったわ! これを一人で片付ける心算なのね!」
「いや~クロは本当にご立派な錬金術師になれるよ! 僕は今、確信したぜ~」
ああ、この人たちは自分たちで汚したのに手伝わないのか……
そんな事を思いながらもクロは気合を入れ落ちているゴミを拾いアイテムボックスに回収する。二人はと言えば自室に入り出てくる気配がなくクロは次々に回収し、リビングとキッチンに客室のゴミを回収し、はたきを使い埃を落とし箒で掃き、魔力創造したモップを使い丁寧に床を磨く。
気が付けば日が傾きオレンジに染まる空。昼食を抜いて掃除をしていた事もありお腹が悲鳴を上げ、キッチンへと向かうとレンガ造りの立派な竈を前に腕を組む。
「竈とか使った事ないが……魔力創造してコンビニ弁当にするか、お湯だけでも沸かせたら三分ラーメンが作れるが……」
魔力創造でヤカンとペットボトルの水を創造し水をヤカンへ入れ、ライターとBBQ用の炭に着火剤を魔力創造すると竈に火を入れる。
「家の中なのにキャンプ感があっていいな」
日が落ち始め部屋の中が暗くなるが竈の明かりと、ゆらゆらと赤く燃える炭に癒されながらヤカンを竈に設置し、魔力創造で数種類のインスタント麺を作り出す。
「やっぱりカレー味だよな~師匠たちも食べるかな? 師匠……師匠になるんだよな……」
エルフェリーンの幼さの残る顔を思い出し、師匠というよりは少女だよなと笑みを浮かべるクロ。
こっちの世界に飛ばされてから色々あったけど何とか無事に生きては行けそうだな……死者のダンジョンでは酷い目にあったが魔力創造とシールドのお陰で助かったし、怖い冒険者からも師匠のお陰で助かったな……はぁ……
これからは錬金術師の弟子として色々作って生計を立てられれば……ああ、そういやあの禍々しい武器とかが売れれば一気にお金持ちに……いや、お金が魔力創造できればすぐにお金持ちだな。よし!
魔力創造でこちらの金銭である銀貨を創造するが上手く行かず、代わりに一万円札を作り出すクロ。結果としては成功するのだが、通し番号がどれも0という偽札が出来上がりガックリと肩を落とす。
「そりゃそうだよな……帰ったら大金持ちとか思ったが、これじゃ犯罪者になるよ」
魔力創造で創り上げた一万円札を竈に入れ、燃え上がるそれを見つめているとヤカンから叫びが上がり急いで竈から降ろすクロ。すると、ドアの開く音が聞こえ立ち上がり音のした方を見つめるが、室内は暗く懐中電灯が魔力創造できればと考えたが、死者のダンジョンでそれは既に実験済みで失敗に終わっている。
「もうこんなにも暗くなっていたのね。光よ」
ビスチェの声が聞こえ、次の瞬間にはバスケットボール大の玉が数ヵ所浮かび上がりリビングを上から照らす。
「ふわぁ~少し頑張り過ぎたかな~ん? ふわぁ~ゴミだらけだったリビングが綺麗になったね! 僕の弟子はやっぱり優秀だよ!」
二階からゆっくりと降りてくるビスチェと綺麗になったリビングに歓喜の声を上げるエルフェリーン。
「あの、夕食は何味にしますか?」
「何味?」
聞きなれない質問に首を傾げるビスチェ。エルフェリーンはクロへと走りキッチンテーブルに置かれた三分ラーメンを見て目を輝かせる。
「これが異世界の食なのかい?」
「はい、お湯を入れて三分待つと出来上がる簡単なものですけど」
「お湯を入れるだけでできるとは凄いね!」
「でも、美味しいのかしら?」
「食べてみた方が早いと思いますよ。これは醤油味で味噌とカレーにシーフードです。好きな物を言ってもらえればお湯を入れますから選んで下さい」
クロは自身のカレー味を開封し、エルフェリーンはシーフードを選び、ビスチェは醤油味を選ぶのだった。
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