表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十三章 お騒がせハイエルフ
416/669

クロ歴史 2



「へぇ~面白い魔法を使うね……いや、スキルかな?」


 魔力創造を初めて見た少女の言葉を耳に、クロはこんな事に首を突っ込まずに早く逃げろと思いながら手にしたバールを杖代わりにして立ち上がる。プルプルと震えながら立ち上がるクロに少女からは拍手が巻き起こり、対してクロを襲ったチンピラ冒険者はガクガクと震えている。


「こ、こんな事に巻き込まれる前に早く逃げ、逃げてくれ」


 クロの視線が少女へと向きキョトンとする少女。このチャンスを逃すものかと逃げ出す三人組の冒険者。


「ん? 僕は大丈夫だよ。強いからね~」


 それは一瞬の事だった。裏路地に風が駆け抜けバランスを崩しそうになるがバールに掴まりなんとか堪えると、目の前には空中でグルグルと回転するチンピラ冒険者三名。少女が手にしていた杖が光り輝き笑顔でウインクをする。


「ほらね。僕は強いから大丈夫だぜ~ふふ、それに僕を守ろうとして立ち上がった君も中々の強さだぜ~心が強い子は大好きだよ」


 どさりと音を立てて落ちる三名の冒険者は目をまわし、更に追加で杖を掲げ魔術を使う少女。土が剥き出しの裏路地の地面が隆起し、土がロープのように巻き付き三名を拘束する。


「これで拘束できたかな~」


 満足気に微笑む少女はクロへと向き直ると、バールを杖代わりにしていたがその場に倒れ安堵の表情を浮かべる。


「だ、大丈夫かいっ!? すぐにポーションを使うといいよ!」


 慌てて駆け寄りアイテムボックスからポーションを取り出すと乱暴にクロの後頭部に振りかける少女。魔力反応の光に覆われ痛みがスッと引くのを感じたクロはお礼を口にする。


「わ、悪いな……助かったよ……」


 頭の痛みがなくなり視界も回復したクロは改めて少女を視界に入れる。美しい金髪に緑色した瞳はエメラルドを彷彿とさせ、尖った耳はエルフの特徴があり、何よりも若く成人女性よりも低い身長に「自分は年下の女の子に助けられたのか……」と呟くクロ。


「ふふ、僕はこう見えてもこの王国の誰よりも年上だぜ~見た目で騙されるのは三流だぜ~それよりも、君の武器は変わっているね! 武器というよりも工具? それとも杖?」


 自身が咄嗟に魔力創造したバールをキラキラした瞳を向ける少女。クロは緊急時だった事もあり思いついたバールに苦笑いを浮かべ口を開く。


「これはバールという工具ですね。咄嗟の事でニュースに出てきた事を思い出して……」


「アイテムボックスとは違うよね! 魔術かな? それともスキルかな?」


 ぴょこぴょことクロが手にしているバールをあらゆる角度から観察する少女。クロは魔力創造というスキルを教えてよいものか悩みながらも、命の恩人だと自分に言い聞かせ口を開く。


「これは魔力創造というスキルで、今解っている事は自分がいた世界の物しか創り出せないという事ぐらいですね」


 その言葉に口をポカンと開け呆ける少女。クロはいっている意味が通じていないのだろうと思い説明を捕捉しながらペットボトルに入った水を創造する。


「魔力創造は自分の魔力を使って物質を作り出すスキルです。このお陰で死者のダンジョンでは飢えることなく助かりましたし、この世界で生きる事も出来そ」


「凄いよ! このスキルはとんでもないね! 魔力創造だっけ? このスキルは神と等しい力を持った素晴らしいスキルだよ!」


 クロの言葉を遮り興奮気味に再起動した少女は目を輝かせ魔力創造のスキルを褒め、クロは急なハイテンションに驚きながらも褒められた事を素直に久しぶりの微笑みを浮かべる。


「こんなに褒められたのはいつ以来かな……死者のダンジョンから抜け出せたのもひと月振りぐらいだろうし……」


「死者のダンジョン? それって聖王国にあるダンジョンだろ?」


 首を傾げる少女にクロは眉間に皺が寄り疑問を口にする。


「自分は死者のダンジョンの最下層から……そっか、やっぱりダンジョンの質が変わったのは……ヨシムナがいっていた他のダンジョンに飛ばされたのか……」


「どういう事だい? 他のダンジョンに飛ばされた?」


「えっと、実は――――」


 聖王国にある死者のダンジョンで転移の罠に引っ掛かりひとり別で地上を目指していたクロは最下層に辿り着き他のダンジョンへと飛ばされ、現在はターベスト王国にある王都のダンジョンへと飛ばされた事を知る。その話をしている最中に警備兵が到着し拘束されていたチンピラを改めて縄で拘束し護送して行きクロはホッと息を漏らし、少女が警備兵から敬礼されるほどの人物だと知る。


「エルフェリーンさま、ご協力感謝します」


「あはは、気にしなくてもいいぜ~僕は正しいと思った事をしただけだからね~」


「素行の悪い連中でしたので助かりました。少年も大丈夫そうなので自分たちは失礼します」


 屈強な警備兵が様を付け頭を下げて退去した事にクロは驚きながらも、あの卓越した魔法を使うのなら敬われるかとひとり納得する。


「いや~色々と驚いたよ。これからはどうするのかな? 聖王国に戻るのなら僕が送るぜ~夏が過ぎた頃には手が空くからその時にでも聖王国に送るけど、どうする?」


 色々とクロの話を聞いたエルフェリーンからの申し出にクロは顎に手を当て考えていると、大きな声を上げて現れるもう一人のエルフの存在が視界に入る。


「師匠! 勝手に走り出しちゃダメよ! この辺りは治安が悪いわ! それに私にだけ受付させてダンジョンから出て行くとか! 酷い! ん? 誰? ボケッとしているそこの人族は誰?」


 見た目が美しいエルフだが口が悪く目を細めてクロを睨むように見つめる。


「えっと、自分は黒崎……クロです。クロと言います」


「そう、悪いけど師匠をナンパしないでもらえるかしら」


 身を乗り出し殺気を向けてきたのはビスチェであり、路地にエルフェリーンを連れ込んだと思われていたのだ。酷い誤解を受けているクロだがエルフェリーンが急に笑い出し、殺気を向けていたビスチェは勘違いだと気が付き何とも緩い空気に変わる路地。


「あはははは、僕をナンパするとか、あはははは」


「いや、だって、師匠を誑かして善からぬ事を…………えっと、クロだったかしら? 貴方は何者かしら?」


 多少緊迫感は減ったがそれでも訝し気な瞳を向けて来るビスチェにクロは後頭部を掻きながら「異世界人?」と口にし、ビスチェはその言葉にまだ笑っているエルフェリーンへと視線を向ける。


「ああ、そうさ。クロは異世界人だぜ~死者のダンジョンから王都のダンジョンへと転移したらしいし、僕が初めて見るスキルも見せてもらえたぜ~」


 笑っていたエルフェリーンが肯定し捕捉してクロの事を教えると、ビスチェが小さく口を開き言葉を漏らす。


「師匠が初めて見るスキル……」


「こんな感じです」


 そう言って魔力創造でコンビニレジの横によく置いてある饅頭を創造するクロ。エルフェリーンは魔力創造自体に目を輝かせ、ビスチェは「泥?」と言葉を漏らす。


「泥って……これはお饅頭という和菓子で、まあ食べてみてくれ。まわりの透明なシートは食べられないから剥いてな」


 クロの言葉を受け饅頭を手にする二人。ビニールを剥がすのに苦戦するエルフェリーンを見たクロは新たに魔力創造し剥いた物を手渡すと小さい口を大きく開けて口にし満面の笑みを浮かべ、ビスチェはビニールが剥がせずグチャグチャになった饅頭をクロへ突き返すのであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ