クロ歴史
エルフェリーンにキスされたクロは呆けながらも色々と考えていた。
王都のダンジョンでチンピラ冒険者に絡まれていたところを助けられたのが師匠との出会いだったっけ……あの時は三人組の冒険者に話し掛けられ襲われて、シールドを発生させたが後ろに隠れていたもう一人に頭を殴られて地面に倒れて、今みたいにぼんやりとする頭と視界で絡まれていた理由を考えていたら師匠が現れて……
それは五年前、クロが死者のダンジョンの最下層を女神シールドのゴリ押しで突破を果たし、帰還か別のダンジョンへの攻略かと書かれた転移陣に間違えて別のダンジョン攻略の転移陣に乗り込んだ後の事である。
王都のダンジョンはフィールド型の階層が多くクロが転移した先は夕焼けが美しい草原であった。
後に知るのだがこの夕焼けの草原は十六階層のフレイムフォックスだけが出現する危険地帯。フレイムフォックスはオレンジ色の体毛と細く吊り上がった目が特徴的で、ゆらゆらと揺れる尻尾には魔力が多く宿り幻術の効果がある。
ある冒険者は亡くした仲間の姿を見て罠に嵌り、ある冒険者は地上で待っているはずの恋人の姿を見て罠に嵌り、ある冒険者は山積みになった金貨を発見し命を落とした。
すべてはフレイムフォックスの幻影に嵌りあるはずのない幻に翻弄され命を落としたのである。
クロがここを突破できたのは運が良かったという他ない。当時は戦闘能力という意味では一般の兵士より下と言わざる負えない成長ぶりで、シールドと魔力創造は使えたが武器は既に失っており死者のダンジョンでは女神シールドだけで生き抜いてきたのだ。
アイテムボックスには死者のダンジョンで手に入れた回復アイテムと複数の戦利品と武具があったのだが、どう見ても呪われている感がある物ばかりで赤い鞘にドクロが浮かび上がるロングソードや、黒い霧に覆われた槍に、鳴き声が聞こえる籠手、血の涙を流す盾など……
回収するのを躊躇うものばかりであったが、聖王国ならそういった武具も浄化をして使えるようにできるのではと考え、相応の価値があるかもしれないという期待を持ち恐る恐るアイテムボックスに回収したのだ。
そんな武具を使う訳にもいかず転移して早々に出会ったフレイムフォックスの群れを見て「無理だろ……」と言葉を漏らしたクロは女神の小部屋(当時はただの小部屋)に避難する。急に姿を消した人間に戸惑うフレイムフォックスは暫くその場で待機するがリーダーが興味をなくすとその場を後にし、クロはというと女神の小部屋にコンビニ弁当と布団を魔力創造して食べて寝て体力の回復をしていたのだ。
時計などがなく体感で一日ほど魔力創造をした漫画やゲームの設定資料集などを眺め異世界でひとり暮らしする方法を考え、創作物でよく登場するエクスカリバーやデュランダルに拳銃などを魔力創造できないかと試し失敗する。
「アイテムボックスとシールドに小部屋……一切戦闘向きじゃないなこれ……アンデットにはシールドに描いた女神さまが効果的だったけど、尻尾が燃えている狐とか何を描けばいいんだよ! ………………消火栓とか書いたら逃げるかな?」
苦悩していた……
そんなクロもこのままではいけないと思い女神の小部屋の入り口から顔を出し安全確認をすると辺りにファイヤーフォックスの気配はなく、今がチャンスだと思い魔力創造した望遠鏡を使い辺りを見渡す。すると、夕日に照らされた平坦な草原に違和感を覚えズームさせてよく確認する。
「何で草原の端に階段が?」
望遠鏡が捉えたのは明らかに草原だと思われる場所にぽかりと穴が開き石造りの階段が夕日に照らされているのだ。
あれは階段だよな……まるで壁に階段のある入口でも書いて……
クロが探索していた死者のダンジョンは完全な石造りの迷路型でありフィールド型のダンジョンは初めて体験している。
もしかして、ここはヨシムナがいっていた別のダンジョンなのか?
クロが異世界で初めて作った友人の名はヨシムナであり、「俺は聖騎士見習いになる前は他のダンジョンにも潜った事があるだぜ」と自慢していた事を思い出し、あそこまで行けば外に出られるかも、と注意深く足を進める。
結果としてダンジョンからの脱出はできなかったが、上へと続く階段が見えホッとため息を吐くクロ。
階段を進むと新たなフィールドが見えその入り口には異世界の文字と数字が書かれており苦笑いを浮かべる。当時は自身の名前ぐらいしか読めなかったのである。
「右がウニウニとした文字で、左が尖った文字………………怖いがアンデットが出ますように」
その場で手を合わせ拝み、ウニウニとした文字の方へと足を踏み入れる。
その後はアンデットが出るような事はなく、魔物に何度も襲われそうになりシールドと女神の小部屋に避難するという手でダンジョンの入り口に到達するクロ。
ダンジョンの入り口では朝日が差し込みリアルの時間を久しぶりに体験し涙が出そうになるが、多くの冒険者がダンジョンへ向かう時間と重なりクロはそのゴタゴタのなかを進み門番に咎められることなく王都近郊へたどり着くのだった。
だが、それに目を付けた者がいたのだ。三人組の冒険者は屈強な体に武骨な斧や大楯を持ち、明らかに仲間というよりも下っ端な痩せた男がダンジョン入り口から離れた大通りでクロに声を掛ける。
「なあ、あんたは今戻って来たのか?」
急に話し掛けられ警戒するが、死者のダンジョンと王都近郊のダンジョンを約ひと月ほどさ迷い歩き久しぶりの人との会話にジンとするクロ。
「あ、ああ、やっと出られたよ……」
「そりゃ良かったな。どうだい儲かったかい?」
下っ端の男はクロの身なりでそれなりの騎士なのだろうと推測し、手に何も荷物を持たない事に違和感を覚えつつもアイテムボックスのスキルを持つレアかもしれないと踏みリーダーの男に命令され声を掛けたのである。この時のクロは聖騎士見習いの軽鎧を装備しており丈夫な皮に鉄製のプレートを施し、冒険者というよりは騎士に近い姿に見えたのだろう。
「儲かった……どうだろうな……売れるかは微妙だがそれなりだな……」
「売るのに困るような物? 魔石じゃなく宝でも手に入れたのか?」
クロの言葉に興味を持ったのか下っ端の男は手に入れた物という発言と、それを手にしていない姿にアイテムボックスというスキルを確信し手を後ろに回し合図を送る。
「宝というよりっ!?」
クロが話していると後頭部に衝撃を受け吹き飛ばされ路地へと転がる。暗い路地へ吹き飛ばされた事と頭部への打撃で酷い痛みと視界が揺れ暗く、立ち上がろうにも力が入らず地面で蹲る。
早く小部屋に入らないと……
緊急避難すべく女神の小部屋の入り口を出現させようとした時だった。
「あれ~冒険者同士の喧嘩かな? ダメだぜ~冒険者同士は助け合わないと~」
随分と呑気な声が耳に入り揺れる視界にはひとりの少女の姿が目に入り、クロは慌てて武器になるようなものを魔力創造するのだった。
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