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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十三章 お騒がせハイエルフ
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運転の仕方を覚えよう



「私の勝ちね!」


「いいえ、私の方が早かったわ!」


 レースを終えたビスチェとシュミーズがレーシングカートから降りて舌戦へと移行し、レースを見ていた者たちはほぼ僅差のゴールシーンにどっちが勝ったか決めきれず、戦うのなら別の場所でやってくれという視線を向ける。


「えっと、ほぼ同時にゴールでしたよ。次に乗りたい人は誰ですか?」


 ルビーのあっさりとした性格からか姉妹対決の決着よりもレーシングカートの楽しさを広めたいという思いからか、舌戦を繰り広げようとしていた二人の背中を押しながらコースから退場させ次の参加者を募る。


「乗りたいのだ! あと、クロから差し入れなのだ!」


「キュウキュウ~」


「うふふ、私が配りいたしますねぇ」


「手伝います」


 キャロットからビニール袋に入れられたジュースを受け取るメリリ。メルフェルンも手伝い皆にペットボトルのジュースを配る。キャロットはゼギンと共にルビーの講習を受けレーシングカートに乗り込む。乗り込むのだが大柄な両名にはコンパクトな作りのレーシングカートは小さく体育座りのような姿になりハンドルを持つのもギリギリといった感じである。特にキャロットは大きな胸と太い尻尾があり一度乗り込んだらハンドルを持つ事も出来ずルビーへウルウルとした瞳を向ける。


「えっと、師匠に相談してもう少し大きいレーシングカートを作りますからキャロットさんとゼギンさんはそれからという事で……ロザリアさんとシャロンくんが乗りましょうか」


 素早く視線をロザリアとシャロンへ向けたルビー。ゼギンは頭を掻きながらカートを降り、キャロットは「乗りたかったのだ~」と叫びながらカートを降りようとするがぴったりと嵌り、自身の力では抜け出すことができずミシミシと音を立てるレーシングカート。


「うおっ!? 待て待て、俺も手伝うから無理やり力を込めるな!」


 ミシミシという音にゼギンが反応し降車を手伝い、ルビーも慌てて駆け寄ると腕を抑えて「ゆっくりです! ゆっくりと慎重にです!」と声を掛け脱出を手伝う。


「メリリも乗るのを遠慮した方が良さそうですね。その大きな胸とお尻で降りられなくなりますよ」


「うふふ、その時は魔化すれば大丈夫かと、それよりもメルフェルンの胸や太ももはどうでしょうか? うふっ、うふふふ」


 ジュースを配り終えた二人の視線がバチバチとぶつかり合う。


「我とシャロンは問題なく吸われそうじゃな」


「そうですね。ですが、このカートという乗り物はこんなにも小さく作る理由があるのでしょうか?」


「恐らくじゃが走り出してからゴールするまでの時間を競うものなのじゃろう。レースに参加するのは二名だとしても走り終えるまでの時間さえ計れば一人で走っても楽しめるし、このコース最速と戦う事もできるじゃろ」


 この世界にも競馬に似たものがありそのレースを主催するエルカジールは感心したように頷き口を開く。


「ロザリアは素晴らしいね! 私も同じことを思っていたよ。風の抵抗を少なくするために小さく低くするのはカニラスのレースと一緒だね。素早く走るカニラスは風の抵抗を考えてか、それとも感じて取ってか、身を低くして走るからね。大きいカニラスよりも小さく力のあるカニラスの方が速く走る事はよくあるからね~」


 カニラスとはカニの魔物であり移動手段として用いられる陸カニの一種である。馬車を引くほどの力があり大きなものは五メートルを超え、走る速さは馬よりも早いとされている。このカニラスの背に乗り四百メートルの直線を走るレースや、障害物のあるコースを走るレースなどが行われている。


「風の抵抗……空を飛ぶ時も前傾姿勢にした方が早く飛べますね」


「うむ、そうじゃな。何事にも理由があるのじゃろう」


 エルカジールも雑談に混じりキャロットが降車するまでの時間を潰し、やっとレーシングカートから降りることができたキャロットはコースから出ると蹲り「怖かったのだ……降りられなくなるかと思ったのだ……」とブルブル震え、白亜が震えるキャロットに抱きつき優し気な鳴き声を上げ慰める。


「キャロットさんとゼギンさんには普通の乗用車を用意した方が良いかもしれませんね」


「ジープとかにした方が良いかもしれないぜ~上が開いているような車なら開放感があって出れなくなるという感じもしないからね~」


 エルフェリーンもコースに現れルビーの横に並び声を掛ける。若干頬を染めているがいつものエルフェリーンだろう。


「ではお二人にレーシングカートの説明をしますね」


 シャロンとロザリアがルビーの説明を聞きアクセルとブレーキとハンドル操作などの講習を受け、エルフェリーンはエルカジールへ視線を向ける。


「どうやらクロと仲は戻ったようだね」


「ああ、寧ろ進展したぜ~クロは今頃呆けているだろうね~」


 その言葉に頭を傾けるエルカジール。シャロンはクロの話題が出たことで耳を傾けルビーから注意を受ける。


「シャロンくんもちゃんと聞いて下さい! クロ先輩の話題を聞きたいのは理解できますが今は操作説明をちゃんと聞いて下さい! 事故を起こしてからでは取り返しがつかないです! 怪我はポーションで治っても魔道具を直すのは大変なのです!」


 シャロンよりもレーシングカートを心配するルビー。怪我はポーションやアイリーンのエクスヒールでどうにでもなるが、魔道具として作られたレーシングカートは高価な魔石に大ムカデの甲殻を使いエルフェリーンとルビーの腕とクロが生み出した雑誌からの知恵で作られている。

 何度も試作を繰り返し作った魔道駆動と名付けられた装置はギアそのものを回転させエンジンを必要としない車を誕生させたのである。後輪を繋ぐシャフトに組み込まれた術式はゴーレムの技術を応用し、前進と後進に停止が可能になり異世界にレーシングカートを誕生させた。


「はい……すみません……」


 ルビーに向き直り謝罪するシャロン。その様子を上から見守るアイリーンは鼻息を荒くしつつ、こっそりと運転方法に耳を傾ける。


 あのレーシングカートも基本的には操作方法は同じですね。起動させる為にスターターに魔力を送り込む必要がある以外は一緒ですね……乗用車にするにはライトとウインカーにナンバープレートさえあれば地球でも乗れそうですね~

私的にはゴッツイ昭和のセダンタイプが好きなのですが、可愛い軽自動車やスポーツタイプも乗ってみたいですね~


「うむ、こっちを踏むと進み、こっちでスピードが落ちるのじゃな」


「右に回せば右に、左へ回せば左へですね」


「はじめの一周は操作感覚を覚える為にゆっくり走って見て下さい。そしたらスタート位置に付いて下さい」


 ルビーの説明を聞きレーシングカートに乗り込んだ二人は操作の感覚を掴むために走り出す。それを心配そうな瞳を向けるキュアーゼ。自身の弟であるシャロンに危険がないよう常に見つめ心配してきた事もありキュアーゼは魔化すると蝙蝠のような翼を羽ばたかせ空へ舞い後を追う。


 その気配に気が付いたシャロンは一瞬振り向くがすぐに前を向きレーシングカートの操作方法を体感しながら覚え、コーナーの入り方も外側から入り内側を走り外側に抜ける。


「凄いわ! 私のシャロンはやっぱり何をやってもすぐにマスターするわ!」


 そらから感激し声を上げるキュアーゼの声が耳に入り、シャロンは身内が褒め称える恥ずかしさを感じながらスタート位置に付くのだった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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