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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十三章 お騒がせハイエルフ
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朝食の用意と一美に固まるシュミーズ



 翌朝、クロはキッチンに立ち朝食の用意を始め、米を炊き味噌汁を作り玉子焼きに浅漬けを出したところでメルフェルンが二階から現れ「おはようございます。私も手伝います」と笑顔を向ける。


「それじゃあ、おにぎりをお願いしてもいいですか?」


「はい、具はこれですね」


 キッチンテーブルにはおにぎりの具にしやすいよう鮭と昆布に甘辛く炒めた肉に焼タラコが木皿に入れられている。


「作り方は大丈夫ですよね」


「はい、お任せ下さい。それにしてもこのラップという透明な紙は便利ですね」


「紙とは違いますが便利ですよね。水を通さず中身が見えますし、おにぎりを作る時には本当に便利だと思いますよ」


 慣れた手つきでおにぎりを優しく握ったメルフェルンは予め用意しておいたラップの上におにぎりを置き包み、最後に楊枝を使って数ヵ所穴を開ける。穴を開ける理由としては熱々の米を握っているのでどうしても水滴がラップと米との間にできてしまい、穴を開ける事でその水滴になる蒸気を逃がすことにある。


「うふふ、私も手伝わせて下さい」


 メリリも現れメルフェルンと一緒におにぎりを握りラップに包み量産して行き、クロはカツオと昆布で出汁を取りながらゴマを炒り魔力創造で山葵わさびを作り出す。


「その植物はいったい……」


「不思議な形をしていますね……」


 おにぎりを握りながら魔力創造した山葵を見つめる二人。


「これは山葵といってお刺身やお寿司に使う香辛料ですね」


 そう口にしたところで出汁が沸騰し始め慌てて鍋を持ち上げたクロは大きく息を吐きつつ鍋を降ろすと昆布を取り出しかつお節をこして出汁の味見をする。


「味はこのぐらいでいいかな。後はこれを収納して、自分もおにぎりの手伝いを……終わっているな……」


「おにぎりもこれだけあれば大丈夫でしょう」


「うふふ、エルカジールさまがお喜びになればいいですね~」


 大皿にはラップで包んだおにぎりが大量に量産されクロはそれをアイテムボックスに入れると片づけを始める。アイテムボックスのスキルで料理は暖かいまま保存され提供でき、使い終わったキッチンの後片付けだけである。


「使った鍋とフライパンはアイリーンが浄化してくれるだろうから端に寄せ」


「ギギギギ」


 七味たちの誰かの声だろうと辺りを見渡すと壁に張り付く一美の姿があり「おはよう」とでも言っているのか手を振っている。


「赤いリボンは一美だな」


『浄化する』


 頭の中に念話が流れ次の瞬間には使っていたフライパンに光が降り注ぎ、光が治まると油汚れは消え去っている。他にも米を炊いていた羽釜やかつお節をこしていた布にお玉や鍋に菜箸なども綺麗になり感嘆の声を上げるクロ。


「おおお、凄いな! いつの間に浄化魔法を覚えたんだよ!」


「ギギギギ」


 クロに褒められ両手を上げてお尻を振る一美。壁に張り付いているが六本の足で体を支えているのか落ちる事はなくリズムに乗ったお尻フリフリで喜びを表している。


「アイリーンさまの浄化魔法も凄いですが、一美が浄化魔法を……これって聖職者ということなのでしょうか?」


 アイリーンが使う浄化魔法は聖職者が得意とする魔法である。本来は神の力を借り不浄なるものを浄化する魔法であって、アンデット退治に使われたり大切な式典前に会場などを浄化したり呪物を浄化させる魔法である。それを魔物である一美が使った事に疑問を浮かべるメルフェルン。


「うふふ、一美ちゃんが優秀だということですね~本当に七味シスターズは優秀ですね~」


 壁に張り付いている一美に駆け寄り背中を優しく撫でるメリリ。撫でられている一美は気持ちがいいのか、お尻の揺れが収まり体を横に振らす。


「目の前の光景が私の常識を壊しているのだけれど……」


 一部始終を見ていたのか目を擦りながらキッチンへやってくるシュミーズ。恐らく一美が浄化魔法を使いメリリがその背を撫でている事に対しての言葉だろう。


「そうですか? グリフォンなども撫でたりすると喜びますよ」


「そ、そうね……それはあるかもしれないけど蜘蛛の魔物をテイムするとか……テイムしようと思った事を尊敬するわ……」


 エルフの生活は虫型の魔物との戦いの歴史と言っても過言ではない。森に住居を構え木々の上に家を作るエルフたちは虫型の魔物が嫌う臭いを発する香草や結界を使い生活し、水場などに狩りに向かえば必ずと言っていいほど遭遇し戦闘になる。

 なかでも恐ろしいのが蟷螂などの肉食型の魔物であり、蜘蛛はその筆頭である。蜘蛛型の魔物は多種多様で、巣に籠り待ち構えるものや、糸を巧みに使い上から攻撃するものに、素早く飛びついてくるものなど様々である。

 冒険者となったシュミーズは依頼で高ランクの魔物の討伐を依頼されることが多く、その生息地は山の奥やダンジョンの奥などで虫型の魔物との戦闘も多い。関わりたくはない存在なのだろう。


「七味たちはテイムというよりも蜘蛛の女王から料理や人間の生活を教えるように頼まれた存在ですね。アイリーンが世界初のアラクネ種として進化したから仲良くなれた……ああ、これは秘密にして下さいね。王都の冒険者ギルドではアイリーンがテイムした事になっていますから」


 クロの漏らした言葉に顔を引き攣らせるシュミーズ。


「蜘蛛の女王……」


「大きな蜘蛛でしたが優しそうな方でしたね。アイリーンが帰郷した時も快く迎えてくれましたよ」


 頬をピクピクとさせ絶句するシュミーズ。クロは暫くフリーズしたままだろうと思い湧いているお湯を使い緑茶を入れる。


「私も蜘蛛は苦手でしたが、今では可愛く見えるようになりました」


「うふふ、常識という単語は『草原の若葉』には通用しませんからねぇ。昨日見たあのレーシングカートという乗り物もそれに含まれますから」


 荒野を走っていたレーシングカートを思い出したクロは、お茶を入れながらどんなコースを作るのかと思案する。


 師匠のことだからヘアピンカーブとか作りそうだよな。魔力創造で大きなクッションとか……クラッシュパッドだったかな。あれを用意しておいた方がいいよな。ルビーとか絶対スピード狂だろうし……身体強化した状態なら怪我もしないだろうけどヘルメットとかもあった方がいいな。ゴーグルとかも必要だな……


 ぶつぶつと呟きながら緑茶を入れたクロは一美を撫でるメリリとメルフェルンに声を掛け、フリーズから回復したシュミーズにも声を掛けるとキッチンカウンターに緑茶を置く。


「薬草茶かしら?」


 ゆっくりとキッチンカウンターに腰を下ろしたシュミーズは湯気を上げる緑茶を見つめ、クロが簡単に説明すると息を噴き掛け冷ましながら口にする。


「昨日も飲んで思ったけど不思議とホッとする味ね……」


「うふふ、緑茶はリラックス効果があるそうですよ~」


「私もこの緑茶は飲みやすく適度な甘さがあって美味しいと思います。お菓子ともよく合って素晴らしいです」


 メリリとメルフェルンも緑茶が好みなようで、最近では紅茶や白茶などこの世界でよく飲まれているお茶よりも緑茶を多く入れている。


「お菓子といえば昨日食べたお菓子は美味しかったわね。サクサクしていながら柔らかい感じが癖になりそう。甘さもあって冒険者の携帯食として高く売れるわ」


「携帯食ならこういった物がありますが」


 アイテムボックスからお湯を入れて食べられるアルファ米を使った物や、某カロリー補給できるバーや、缶詰を取り出すクロ。


「お金は払うから食べてもいいかしら?」


 見た事のない物が並び目を輝かせるシュミーズ。メリリとメルフェルンも興味があるのか、それともただお腹が空いているだけなのか、手早く動き食器を用意する。


「味見程度にして下さいね」


 朝食の事も考えながら携帯食というか非常食を開封するのだった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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