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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十三章 お騒がせハイエルフ
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メリリの過去と飲んだら乗るな



 メリリの住んでいた砂と金の国サマムーンは砂漠に囲まれたオアシスでありオークの国の東連合の更に東に位置している。広大な砂漠は人類や他種族を引き寄せない地であったのだが、金を採掘していた地下道がサキュバニア帝国へと繋がりサキュバスや人類との交流を持つようになり、とあるハイエルフの活躍もあり他種族との貿易をするようになった。

 サマムーン王国という名よりも砂と金の国という名が広まったのには理由があり、サキュバニア帝国と繋がった地下道に作られた多くのギャンブル施設は人種を問わず夢と希望と遊びを伝え、一生働いても手に入らない金が動く地として有名である。


 あそこへ行けばすべてが手に入る。敗者は砂を噛み、勝者は金を手にするだろう。


 そんな言葉が広がり砂と金の国と呼ばれるようになったサマムーン王国の殆どはラミア種であり、赤い髪に銀の瞳を持ち、魔化すれば赤い鱗が美しい下半身を持つ。しかし、メリリは特異体質として産まれ、その目は赤く魔化した蛇の半身は白い。


 白蛇は国を亡ぼす………………


 そう言い伝えられてきたサマムーン王国ではメリリを離宮で育てながらも国王は決断を下す。


 まだ四歳であったメイリーリン・フォン・サマムーンは死亡として発表し、この国から追放したのだ。


 その訃報はサマムーン王国の国民たちは大いに悲しみ、メリリはとある貴族に引き取られ他国へ向かい成長を遂げるのである。が、メリリの性格もあってか剣に興味を持ち貴族の屋敷から抜け出し冒険者へと転身し『双月』という二つ名を持つほどにまで成長し現在に至っている。


「そんな事があったのですね……」


「私は止めたんだ! メリメリを追放するのなら私の所に寄こすようにも言ったんだ! それなのにあの髭モジャが……でも、チラホラ聞こえる噂を耳にするのは嬉しかったな。きっとメリメリだろうって思っていたよ~」


 キッチンの隅で涙しながら今までの事を話すメリリに横から抱き付き笑みを浮かべるエルカジール。その目から薄っすらと涙が零れ落ちる。


「グス……メリリにそんな過去があったなんて知らなかったよ~わぁ~ん」


 話を聞いていたのかエルフェリーンがクロの足に抱きつきながら涙し、他の皆も目を赤くしながらキッチンに集まっていた。その事に気が付かなかったメリリは顔を上げ涙する一同を前にして無理に微笑み、青のりの付いた前歯でセンチメンタルな気分を台無しにするのであった。








「サマムーン王家はダメだね~メリメリという優秀な人材を放棄した事もそうだけど跡継ぎ争いで躍起になって、もううんざりだよ……」


 そう口にするエルカジールはサマムーン王国では『金貨の番人』として有名であり賭け事をこよなく愛するハイエルフである。自身が経営するカジノでは過去の勇者が広めたとランプやルーレットなどで巨万の富を得ると同時に娯楽を提供している。


「どの国も国王になるのは一人だからね~こっちの国でも色々あったから僕は懲らしめてきたぜ~」


 以前にあったダリル王子の事やハミル王女の呪いの件を口にするエルフェリーン。クロもそれを思い出して「大変でしたよね……はぁ……」とやつれたハミル王女の顔が浮かび、ビスチェはマヨ好きが高じてパンパンに膨れた顔を思い出す。


「その噂は僕の所にも流れてきているよ~国を潰したそうじゃないか」


「カイザール帝国の事かい? あれは潰したというよりも国王が瘴気に飲まれていたから仕方なくだぜ~邪神像の破壊は母さんからも頼まれていた事だし、ねぇ~クロ~」


「破壊ではなく捕獲でしたが女神ベステルさまから頼まれましたね」


 メリリも加えリビングでお酒を飲みながら近況を話し合うハイエルフの二人。エルフェリーンは甘えた声でクロへカイザール帝国を潰した言い訳を求め、クロは軽く捕捉して説明し、目を見開くゼギンとシュミーズ。エルカジールはケラケラと笑い白ワインを口にし、メリリは先ほどまでのシリアスさは皆無でレモンハイを飲みながらカラアゲを口にする。


「カイザール帝国の事なら私も聞いたわ。ママが引退したのに今まで以上に忙しくなったと手紙が来たけど……」


 カイザール帝国からエルカイ国へと変わり行政を手伝っているカリフェルが心配なのかブランデーを入れたグラスを口にしながらクロへとジト目を向けるキュアーゼ。


「それは悪いことをしたね。でも、カリフェルは若返ったように見えたぜ~バリバリと忙しく働くカリフェルは昔のような生気に満ちた表情をしていて格好良かったぜ~」


「あのグータラママが格好良く? 戦闘訓練と式典だけはそう見えたけど……」


 キュアーゼの母親であるカリフェルの姿を思い浮かべ、真っ先に出てくるのはソファーに横になり果物を口に入れる様子であった。シャロンも同じなのか苦笑いを浮かべる。


「それよりもさっき乗っていたアレに私は乗りたいよ! デザインも武骨ながら洗練されていて、乗ればきっと風を切って走ることができるはず! 私はアレに今乗りたい!」


「風を切りたいのなら馬に乗れば同じだろう。魔術で飛んでもいいしさ~」


「それができないからお願いしているのっ! 私は魔術が不得意なのっ! アレを売ってくれよ~」


 縋りつくようにエルフェリーンの膝に抱きつくエルカジール。


「あれはレーシングカートという乗り物さ。僕とルビーの傑作だからね~簡単に売る気はないし、試走が終わったから今度はコースを作ってレースを楽しむんだぜ~」


「ぷはっ、試走は問題なさそうでしたから明日にもコースを作りましょう!」


 ウイスキーを飲み干して明日の予定を口にするルビー。その言葉にキラキラした瞳を向けるエルカジール。


「それは楽しみだね! 完成したら私も運転してみたい! というか、今運転してみたい!」


 窓の外はすっかり日が落ち暗く、とてもレースができるようには思えないのだがレーシングカートに乗りたいと叫ぶエルカジール。


「光源を浮かべる魔法を使えば可能だけど、」


「ダメですよ。お酒を乗って車に乗るのは絶対にダメですよ。飲酒運転は通常時のような判断ができなくて事故を起こす可能性が高くなりますからね。乗るにしても明日にしましょう」


 エルフェリーンが光球を浮かべ暗い庭を照らそうとするが、クロが待ったの声を掛け驚く一同。


「うむ? 珍しくクロがエルフェリーンさまの言葉を遮って止めておるのじゃ」


「ああなるとクロは絶対に許可しないわね~強引にやろうとすればクロは怒って料理を作らなくなるわ。前は二日間も断食したから私も明日にすべきだと思うわ」 


 ロザリアが首を傾けビスチェが説明すると納得したのかはわからないが赤ワインを口にして事の成り行きを見守る。


「クロが言うならダメだね~」


「そんなぁ~私は今乗りたいのにぃ~」


「ダメですよ。飲んだら乗るな、乗るなら飲むなです! エルフェリーンさまの御姉妹なら絶対にダメです! それよりも白ワインがお好きなようなので、白ワインを使ったお酒は如何ですか?」


 話を逸らすべく違う話題に話を振るクロ。エルカジールはその言葉に食いついたのか「白ワインはお酒だよ?」と言葉を返す。


「白ワインに炭酸水を入れ果実を入れたカクテルです。名は確かスプリッツァーだったかな? 今すぐ作りますね」


 キッチンへ戻り白ワインと炭酸水にレモンを魔力創造し、半分のレモンを絞り、飾り用のレモンを薄く切り切り込みを入れるクロ。クロが移動したのと同時にエルカジールとエルフェリーンはキッチンカウンターに移りカクテル作りを見つめ、エルカジールはある事に気が付く。


「今のって……神が使うとされる……創造の魔術……」


 目を見開きぽつりと漏らした言葉にエルフェリーンは片手で顔を覆い、クロには聞こえなかったのかカクテルを作り終えエルカジールの前に置くのだった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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