忘れていた事と似たもの姉妹
「リスの双子みたいですね~」
アイリーンがぽろっと漏らした言葉にクロは吹き出しそうになりながらもお茶を飲み込み、目の前のエルフェリーンとエルカジールを見つめる。少女姿の二人は服装以外そっくりで、小さな手でお菓子を持ちモグモグと食べるその姿はリスがドングリを食べるように見える。
「確かにそう見えるがタイミングを考えろよ……」
危うく溺れそうになったクロはアイリーン時にと目を向け、アイリーンはあはははと笑って誤魔化す。
「それにしてもこの時間からこんなにもお菓子を食べて夕食はどうしようか。少し軽めなものにして……」
クロが腕組みをしながら夕食のメニューをひとり考えていると、お菓子を食べていたシュミーズが立ち上がり微笑みを浮かべたままクロの前まで移動する。
「私は完璧な焼うどんとから揚げが食べたいわ! アレはアレで美味しかったけどフランとクランが言っていたもの……本物はもっと美味しいってね! それに白ワインを言い値で買うわ!」
言いたい事だけ言って腰にしていたポーチから革製の袋を取り出すとクロの前にドンと置く。置いた衝撃でお茶の水面が揺れ眉間に皺を寄せるゼギンとビスチェ。
「おいおい、それはパーティーの資金だろ。白ワインを買うなら自分の……」
ゼギンが途中で言葉を止めたのには理由がある。シュミーズが目を吊り上げ鬼の様な形相でゼギンを睨みつけたのだ。その表情に白亜はブルリと体を揺らしクロの背に隠れ、ビスチェは余計な事をいってと言わんばかりの表情を浮かべながらも、チョコでコーティングされたスティックをポリポリとする。
「言い値と言われても……今ある分でよければ……」
アイテムボックスから白ワインをニ十本取り出しテーブルに置くクロ。すると一本を手にして抱き締めるシュミーズ。リスと化していたエルカジールも目を輝かせクロにダイブする。
「うおっ!? え、エルカジールさま!!」
「へへへ~私からもお願いだ! 半分を売って欲しい! 一本につき金貨三枚は出すよ!」
椅子に座りながらもエルカジールのタックルに耐えたクロはキラキラな瞳を向けて来る少女のお願いに困りながらも師であるエルフェリーンに視線を向ける。するとそこには目を数回パチパチとさせ何かに気が付いたのか大きな声を上げる。
「大変だ! 忘れてた! ドッキリしようと思ったのに!!!」
エルフェリーンの叫びに、そういえばそんな事も相談していたなと思う『草原の若葉』たち。ただ一人アイリーンだけは「ビリビリ怖いビリビリ怖い」とトラウマが刺激され座っていた椅子から降りて身を隠す。
「ドッキリ? それは何だい?」
「えっと、ドッキリとは――――」
簡単にドッキリの内容とエルフェリーンが仕掛けようとしていた白ワインの事を説明するクロ。途中から笑い出すエルカジールとシュミーズ。ゼギンはお菓子に満足したのか壁に張り付く七味たちを見つめている。
「あははははは、エルフェリーンは忘れっぽいからね~私の様に聡明なら今頃ドッキリの餌食だったね~」
「ぐぬぬぬぬぬ、エルカジールだって忘れる事ぐらいあるだろ! 僕だって忘れたくて忘れている訳じゃ……というか、みんなも忘れていたろ」
エルフェリーンがテーブルに付く皆に視線を送るがお菓子を口にして話を聞かない一同。クロだけはエルフェリーンがレーシングカートに乗り連れてきた事を思い出し、ドッキリという雰囲気じゃなかったなぁと心の中で口にする。
「あの、ドッキリの事はいいとして、エルカジールさま方はお泊りになりますか? 客室用の部屋も空いていますし、キュアーゼさんもお部屋をご用意しますよ」
「いいのかいっ! なら泊まるよ! いや~クロはいい奴だなぁ~」
「私はシャロンの部屋でいいわ!」
「うぇぇぇぇぇ!? ダメだよ! 姉さんの部屋もお願いします」
背中に抱き着くキュアーゼではなくシャロンが客室をお願いし、クロはその用意をしようと立ち上がる。が、立ち上がったクロの上着の裾をクイクイと引っ張るシュミーズ。
「宿泊に関してはそれで構わないけど、料理の方もお願いね!」
「えっと、完璧な焼きそばとから揚げですよね?」
「ん? 焼うどんとから揚げじゃないの?」
「ああ、フランとクランには代用品でも作れる料理を教えたので、完璧というなら元の料理を作るべきかと思い、焼きそばと言い直しました」
フランに教えた塩焼きうどんは異世界という事もあり再現しやすく塩味にして香辛料を極力使わない味付けと小麦粉から打った麺を使用している。ダンジョンからも焼きそばに使うソースが出る事はなく、仕方なく塩焼きうどんという形でフランに教えたのだ。
「それならそれが食べ得たいわ! やった、クランが自慢していた料理が食べられるわ!」
目の前で小さく跳ねて微笑みを浮かべるシュミーズにビスチェは口を尖らせ、エルカジールは手にしている白ワインを開け瓶のまま口にし、エルフェリーンは自慢するチャンスが来たとアイテムボックスからウイスキーを取り出す。
「ぷはぁ~やっぱり白ワインは美味しいねぇ~」
「ふっふっふ、白ワインも美味しいけどねぇ~僕はこっちのお酒の方が美味しいと思うぜ~」
アイテムボックスから取り出したウイスキーの瓶を開け注ぎ入れ、ガラスのグラスを軽く揺らして琥珀色したそれを口にするエルフェリーン。
「なっ!? 何だいそれは!!」
身を乗り出してウイスキーの瓶を見つめるエルカジール。シュミーズもアイテムバックに白ワインを収納する手を止め見つめ、ゼギンも興味があるのか目を細める。
「これはウイスキーと呼ばれるお酒さ、アルコール度が高いからお子様には飲めないお酒だぜ~」
そもそもお子様にお酒はダメだろと思うクロ。
「へぇ~アルコールはお酒の事だよね。そうなるとあまり美味しくはなさそうだね」
「それが違うのさ! このウイスキーというお酒はトロリとした口当たりに芳醇な香りが合わさり最高の味だぜ~作るのにも手間が掛かっていて何年も寝かせるらしいぜ~ごくごく、ぷはぁ~」
見せつけるようにウイスキーを飲むエルフェリーン。ダンと白ワインをテーブルに置いたエルカジールは声を上げる。
「本当に美味しいのか私に飲ませてよ!」
「そうだねぇ~どうしようかなぁ~」
勿体ぶるエルフェリーンにエルカジールがプルプルと震え、それを見たクロはアイテムボックスからウイスキーの瓶を取り出しガラスのグラスに注ぎ入れる。
「あの、良かったら」
クロの言葉に振り返ったエルカジールが目を輝かせ素早く移動しグラスを手にし、エルフェリーンは口を大きく開ける。
「クロ! 君は誰の弟子だいっ! 僕の許可なくエルカジールにウイスキーをっ! むむむ……」
身を乗り出して怒るエルフェリーン。シュミーズとゼギンにも注いだウイスキーを渡したクロは申し訳なさそうに口を開く。
「いえ、自分の知っている師匠は皆に優しく尊敬される素晴らしい御方です。自分はエルフェリーンさまの弟子と名乗れるように日々精進し、師であるエルフェリーンさまのように皆さんに優しくありたいと思っています」
視線を固定して話すクロ。対して見つめられ褒められたエルフェリーンは頬を軽く染める。
「そ、そうだね。僕はみんなに優しいからね。妹にもウイスキーを分けようじゃないか」
声を荒げていたのが嘘のようにしおらしくなり、自然と微笑みを浮かべウイスキーを口にするエルカジールの前にひと瓶置き笑みを浮かべる。
「ぷはぁ~これは美味しいね! ガツンとくるけど鼻に抜ける香りが素晴らしいよ!」
「ああ、こんなに美味い酒を飲んだのは初めてだ……」
「白ワインもいいけどウイスキーも素晴らしいわ! ビスチェはいつもこんなにも美味しいお酒を飲んでいるのね~」
ゼギンは素直にウイスキーを褒め、シュミーズはビスチェへジト目を向け、ビスチェはいつの間にか白ワインを開けて口にしておりその視線には気が付かないふりをしながら外で戯れるグリフォンたちを見つめるのであった。
あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
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