来訪者は例のあの人たち
エルフェリーンとルビーは予定していたレーシングカートのテスト走行を行い、スピードの上がり方やブレーキの掛かり方に車体の揺れやドリフトの安定性など二台で並走しながら確かめていた。
錬金工房『草原の若葉』のある森はエルフェリーンの魔術の練習などである程度荒野が広がりその先が森になっている。そんな荒野を二人で走った感想は、すごく楽しいというものであった。
「すごく楽しいです! これは新しい遊びとして世界に広まる可能性を秘めています!」
レーシングカートをエルフェリーンの横に付けたルビーは興奮気味に話し、エルフェリーンも目を輝かせながら口を開く。
「そうだね! ゴーレム馬車とは違って自分で操作するから楽しいね! ただ、揺れが凄いのと顔に当たる風が強いから改造だ! そうだな……やっぱりクロの雑誌に載っていたようにコースを作った方がいいかもしれないね……」
顎に手を当てながらどんなコースにしようかその場で考えるエルフェリーン。
「ドリフトができるコースがいいです! 後輪を滑らせて曲がった時の景色が流れる感じが面白いです! 自分が風になった気持ちになれました!」
「僕もドリフトが楽しかったぜ~クロの雑誌に書いてあったけど、あれでカーブを曲がる方がスピードを落とすことなく曲がれるからね~それに視界が流れて面白かったね! 大きなカーブのあるコースを作らないとだね!」
「はい! 絶対にカーブは入れるべきです!」
二人が楽しげにコースに付いて話していると森からガサガサとした音が耳に入り、夢中で話し合っていたエルフェリーンはアイテムボックスから天魔の杖を取り出しながら辺りの気配を探り、ルビーは慌ててギアをバックに入れる。
「聞きなれない音がしたけど魔物じゃないわよ!」
女性の声が聞こえたかと思うと森からヌッと顔を出すグリフォンとそれに騎乗する金髪ツインテールのサキュバス。続いて顔を出したのは冒険者と思われる厳つい顔の男とエルフの女性に…………
「エルカジール!?」
エルフェリーンの叫びにビクリと体を震わせるルビーだったが、アラクネであるアルーから世界樹の女神の神託を受けエルカジールと呼ばれるハイエルフが錬金工房にやってくるという神託を受けていた事もあり、心を落ち着かせバックに入れたギアを戻すがみんなに知らせた方がいいかな? と頭を働かせ「みんなに知らせてきますね!」と言葉を残し方向転換すると屋敷に向け走り出す。
「馬で引かずに走り出したぞ」
「私も初めて見るわ……」
「エルフェリーン! それは何なのさ! ゴーレム馬車とも違うよね! 何々!! それはいったい何なのさ!」
エルフェリーンはドヤ顔をしながらレーシングカートのまわりを興味深くピョコピョコと飛び跳ねながら声を上げ観察するエルカジールの姿を楽しみ、グリフォンに騎乗する女性と冒険者の二人は顔を見合わせこの状況をどうしようかと目で訴え合うのだった。
「私はエルカジール! エルフェリーンのお姉さんだね!」
「むっ! 僕の方が絶対にお姉さんだぜ~エルカジールが羨むようなレーシングカートを作れるからね~」
「ぐぬぬぬぬ……」
屋敷ではやって来たエルカジールと冒険者『千寿の誓い』にサキュバニア帝国を抜け出してきたキュアーゼ・フォン・サキュバニアの自己紹介を聞き、シャロンは姉であるキュアーゼに背中から抱き締められ助けての視線をクロへと送る。が、クロは久しぶりに会う身内と数少ない女性恐怖症を発症しないという理由からかお客様への対応を優先しお茶を入れにキッチンへと向かっている。
「俺はゼギン。『千寿の誓い』という冒険者だ」
「私もね。名はシュミーズ、ビスチェの姉よ」
ゼギンは短い自己紹介をし、シュミーズはここでお世話になっているビスチェの姉だと口にする。そんな妹のビスチェは口を尖らせながら窓の外で再会を喜ぶグリフォン三匹とブラッシングするメルフェルンへ視線を向けている。
「『千寿の誓い』とはSランク冒険者チームなのじゃな。名を耳にした事があるのじゃ」
ロザリアの言葉に笑みを浮かべるゼギンとシュミーズ。
「私も『豊穣のスプーン』の名を耳にしたわ。闇ギルドを潰してまわるおじ様と少女がいるってね」
「うむ、それは我の事じゃな。爺さまはエルカイ国で頑張っておるのじゃ」
「あの爺さんとは若い時に何度か稽古をつけて貰ったが、今でも勝てる気がしないな……って、あの娘はキャロットだよな……」
カイザール帝国で自身をボコボコにされながらも引き分けたキャロットのソファーで眠る姿に顔を引き攣らせる。
「うむ、キャロットはドラン殿の娘なのじゃ」
「や、やっぱりそうか……カイザール帝国で冒険者をしていたがあれほど強い奴は中々な……」
「ゼギンは彼女にボコボコにされていたわね!」
笑いながら話すシュミーズにムッとした表情を浮かべ口を開くゼギン。
「仲間がボコボコにされている時にお前はクロを探していたよな」
ゼギンが眉間に深い皺を作りながら話し、丁度お茶を持って来たクロへシュミーズが笑顔で話し掛ける。
「ええそうよ。あのワインの味を知れば誰だってクロを探すわ! 私は誰かさんから散々自慢されていたからね~」
「わ、私じゃないわよ! 私は姉さんに手紙で、この世で一番美味しいお酒を見つけたとしか伝えてないもの! 私じゃないわ!」
それでも伝えたうちに入るだろう思うクロ。
「ママが世界を変える可能性がある白ワインだと自慢していたわね。両方とも手紙で同時期に知ったからここじゃないかと思ったわ。それにフランとクランが自慢していたわよ。クロの料理は世界一だって」
紅茶を配っていたクロへ視線を向けるがその姿は既になくキッチンへと視線を向けるシュミーズ。するとクロはお茶請けを持ち再度リビングに現れたのだが、キッチンの奥でこちらの様子をこそこそと窺うメイド服が視線に入り首を傾げるシュミーズ。
「ならママとフランとクランが悪いわね!」
何故かドヤ顔を浮かべるビスチェ。クロは用意していたお茶請けを運びテーブルに置くと見慣れぬ菓子に目を細めるゼギンとシュミーズ。ロザリアやビスチェにアイリーンは封を開け柔らかなチョコクッキーを口にして表情を溶かし、その様子を見て同じように封を開けて口に入れる二人。シャロンは未だにキュアーゼに拘束されており耳元から聞こえるスンスンという吸い込む系の鼻息に顔を引き攣らせている。
「うまっ!? これは美味いな!」
「本当に……何よこれ……手が止まらなくなるわ……」
次々にカントリーなクッキーを口にする二人にクロは新たなお菓子がひるようだなとキッチンへ戻り、口喧嘩気味に話していたエルフェリーンとエルカジールはクッキーを口にして互いにモグモグと無言モードである。
「甘いのだけではあれかと思い、しょっぱい系も御出ししますね」
キッチンに戻ったクロはマイペースにアイテムボックスから取り出した硬く上げたポテチや海苔の付いた煎餅にチョコでコーティングされたスティック菓子を木皿に入れテーブルへと運び、その味を知る者たちは喜び、その声と匂いでキャロットと白亜が起き上がるとシンクロして首を振りクロへと飛びつく白亜。キャロットは「エルフェリーンが増えたのだ!」と叫ぶが興味があったのは一瞬だけでテーブルに広げられたお菓子に目を輝かせる。
「お菓子がいっぱいなのだ!」
ゼギンの真向かいに座りポテチを口に入れるキャロット。ゼギンは自身をボコボコにしたキャロットが真向かいに座った事に顔を引き攣らせる。が、キャロットにとってはお菓子>ゼギンというか、ほぼ忘れているのだろう。お菓子を口に入れ微笑みを浮かべ、クロに抱かれている白亜もクロからチョコでコーティングされた菓子を貰い尻尾を揺らすのであった。
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