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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十三章 お騒がせハイエルフ
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キャベツと土煙


 

 初夏の日差しを浴びて青々と育つ野菜や薬草を見ながら上機嫌に草むしりをするビスチェ。クロも芽を出す雑草を引き抜き額から汗を流し畑の管理を手伝っている。


「クロから貰った野菜のタネも芽を出したわ!」


「ああ、立派な芽ネギになったな。これなら芽ネギの握りや薬味にも使えるな。あっちのスナップエンドウやニンジンも育っているし、キャベツとかは歩いて……歩いているな……」


 視線を向けた先には多くの野菜が青々とした葉を付けているのだが、その中でも旬が終わりそうなキャベツが茎から離れ移動しているのだ。キャベツの下からは緑色した足と思われる葉が動き移動しクロはビスチェへと視線を向け、視線を向けられたビスチェは複雑そうな表情を浮かべ口を開く。


「歩いているわね……もしかしたら花を咲かせる場所を探しているのかしら?」


 二人で立ち上がりキャベツを追うと畑の隅まで進み、足だった葉が萎れ大地に腰を下ろす。その姿に二人は無言で頷き近づくと重なっていた葉が開き中から多くの蕾を付けた茎が伸びる。


「キャベツの花を初めて見たよ……」


「クロの世界のキャベツは歩いて花を咲かせる場所を選ぶのね……」


「いや、歩かないはず……俺が魔力創造で創った種だから歩いたのか、それともこっちの世界に適用して歩いたのか……わからんな……」


「歩く植物はあるにはあるけど、自身の葉を使って歩く植物は見た事がないわね。地中から根を出して歩くはずよ」


 数分ほど二人でキャベツを観察しながら話していると小さな蕾が開き黄色い花を咲かせるキャベツ。


「咲いたな……」


「咲いたわね……」


 目の前で開花したキャベツの花を見てどこか嬉しげな表情を浮かべる二人。


「もしかしたら日当たりが悪くて移動したのかもな。ほら、さっきまでキャベツがあった場所の近くには支柱を立ててスナップエンドウが育っていたろ」


「それはあるかもしれないわね」


 二人でキャベツを育てていた場所へ視線を送り隣で青々と茂るスナップエンドウの蔓を確認する。


「ふふ、またキャベツが移動してくるわよ」


 先ほどと同じようにキャベツの葉が足の役割をしながら立ち上がり、こちらへとヨチヨチ向かってくる。こちらで育てたキャベツから種が取れればと収穫せずに残していたキャベツは二玉あり、その両方が歩き移動する姿に異世界だなぁ~と思うクロ。


 花を咲かせたキャベツの横に並び同じように巻いていた葉を開かせ蕾の付いた茎を伸ばし開花する姿に、ビスチェは興味深く見つめ口を開く。


「もしかしたら他の野菜も歩くかもしれないわね!」


「それはそれで面倒だから背の高くなる野菜の場所を考えた方が良さそうだな」


「あら、私は面白いと思うわよ」


「面白いかもしれないが薬草畑に侵入するかもしれないぞ」


 菜園の隣にある薬草畑へ視線を向けるクロ。菜園とは三十センチほどしか離れておらずキャベツの機嫌次第ではその可能性もあったのではと考えたのだ。


「その時は見つけグリフォンの餌ね! キャベツならクロの魔力創造でいくらでも出せるもの」


 拳を握り締め話すビスチェ。ブルリと身を振るわせるキャベツ。クロは顔を引き攣らせながらも薬草を大切に育てている事を知っているからかそれ以上口にせず、キャベツたちがこれから花を咲かせ種を付けるだろうと思いジョウロを取りに戻ると水を撒く。


「ふふ、喜んでいるわね」


 キャベツの気持ちを代弁するビスチェの微笑みに一瞬見惚れるクロ。だが、次の瞬間にズザザザザザという聞きなれない音に視線を変える。見れば鍛冶場近くには見慣れない二台の小さな車がスリップした音なのだろうと推測ができるが、いったいいつ造ったのだろうという疑問が湧き上がり首を傾げるクロ。


「クロ! 何あれ! クロ! 何あれ!」


 歩き開花したキャベツから小さな車に興味を持ったビスチェがクロの肩を揺さぶりジョウロを地面に落とすが、そんな事お構いなしに肩を揺さぶり続けるビスチェ。


「あれはレーシングカート用の車だと思うが、タイヤを改造しているのかでかいな」


「レーシングカート用? よくわからないけど絶対に面白いはずよ! 私は乗りたいわ!」


 テンションを上げクロの肩から手を放したビスチェはエルフェリーンとルビーが乗る車に向かい飛び立ち、クロも慌てて後を追うのだった。






 屋敷の前に到着したクロは果樹園よりも遠くに離れて行くレーシングカートが上げる土煙とその傍を飛ぶビスチェを視界に入れつつ、屋敷から出てきたシャロンやメルフェルンにメリリやロザリアにアイリーンと合流する。キャロットと白亜はお昼寝中なのか姿はなく、七味たちは屋敷の屋根や壁からレーシングカートを見つめ、小雪は尻尾を振り今にも走り出しそうな所をアイリーンに抱き上げられ頭を撫でられている。


「クロさん、あれはいったい何ですか? 前に作ったゴーレム馬車とは違ってエルフェリーンさまやルビーさんが乗って操作しているような」


「手で握っている丸い物を握っていますが、アレで方向を決めているのでしょうか?」


 シャロンとメルフェルンの言葉に初めて見るのに理解できて凄いなぁと思うクロ。


「あれはレーシングカートと呼ばれる車ですね。手で握っているのがハンドルで右に向ければ右に進み左に向ければ左に進みます。他にも右足でペダルを踏むと前に進み、左足でペダルを踏むとスピードが落ちて停止します。あっちの世界の競技のひとつなのですが本当なら専用のコースを作って平らな場所を走るのですが……」


「デコボコだらけの荒野を走っていますね~ゴーカートとか遊園地で乗った事がありますが楽しいですよね~私も乗りたいなぁ」


 アイリーンの言葉にロザリアがクロの袖を引っ張り口を開く。


「我も乗ってみたいのじゃ」


「僕も乗りたいです!」


「うふふ、私も乗ってみたいですね~聞いた感じでは操作も簡単そうですし……」


「メリリは少し体重を落としてからにしませんと重みで壊れる可能性があるのでは?」


 メルフェルンの言葉に目を吊り上げるメリリ。メルフェルンは素早くクロの後ろに隠れ、顔を引き攣らせるクロ。


「ぐぬぬぬぬ、クロさまの後ろに隠れるのはズルイと思いますよ。サキュバニア帝国のメイドはそのように隠れてシャロンさまを御守りするのですか?」


「くっ! シャロンさまは命を懸けて私が御守り致します! その気持ちは今も変わりませんが、クロさまのシールドの前では『双月』といえど剣を収めるほかありませんから」


 メリリに指摘されながらも勝利を確信するメルフェルン。そこへ妖精たちが現れクロの頭のまわりを飛び交い一匹が前に現れると荒野を指差しテンション高く声を上げる。


「クロ! クロ! あれ何! あれ何!」


「あれはレーシングカードだな。車という乗り物は前に見たと思うが、それを小さくした乗り物だな」


 前に作ったキャタピラ付きゴーレム馬車を見て同じように歓声を上げていた妖精たち。タイヤを採用したレーシングカートを見ても興味があるようで興奮しながらクロのまわりを飛び交い声を上げる。


「すげー俺たちが飛ぶよりも早い!」


「猪みたいに煙を上げて走ってる!」


「カーブした! 煙を上げながらカーブしたよ!」


 皆の視線を集め荒野を走り回り、時折ドリフト走行をしながら華麗にターンし煙を上げる二台のレーシングカート。


「我も早く乗りたいのじゃ!」


「僕も乗ってみたいです!」


「私も乗りたいです! イニシャル的に峠を攻めたいです!」


 ロザリアとシャロンとアイリーンからせがまれたクロは二台が早く戻って来るように祈るのであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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