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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十二章 七味たちと成樹祭
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天使とマーマンと旅する者たち



 隣で寝息を立てるシャロンを起こさないよう静かにテントを出ると、朝靄の中でオレンジに輝く日を浴びて伸びをするクロ。


「ふわぁ~~~ん? 鳥? 白い翼だよな……」


 クロの視線の先には遠くでキラキラと輝く白い翼が動き回っているように見え、頭を傾げながらある事を思い出す。


「もしかして酒造りに協力してくれた天使たちか?」


 酒の神イストールから命を受けゴブリンの村に現れた天使たちを思い出したクロは冷える朝靄の中を走り出す。昨日の稲刈りで多少筋肉痛になっているが普段から体を動かしビスチェたちとの戦闘訓練にも参加している事もあり、ランニング程度の速度で田んぼへと向かう。


「はぁ……この村は田植えの運がないのかね……」


 田んぼに辿り着いたクロは天使たちがキャッキャしながら田植えをしている姿を目撃している。子供に翼が生えた天使のビジュアルなのだが、その翼を動かし田んぼに足を付けず宙に浮いたまま田植えをする様子はなんとも違和感があり、顔を引き攣らせながら九割田植えを終えている現状に言葉を漏らす。


「これはクロ殿! 村の者たちが起きる前に終わらせ驚かせようとしたのですが間に合いませんでしたか」


 天使のリーダー格が目の前に現れクロに向け口を開き、クロは慌てて声を掛ける。


「それは有難いのですが、できればゴブリンさんやドランさんたちの分も残しておいて欲しいのですが……」


 田植えを楽しみにしていたのに昨日は稲刈りを行った皆の気持ちを代弁するクロに、天使たちの手が止まり一斉にこちらへと振り返る。


「た、楽しみにしていたのですか? 足の取られる泥の中に入り中腰の姿勢が続く作業は肉体へのダメージが大きいからと気を利かせた心算だったのですが……そうですか……楽しみに……」


「はい、その、作業は大変なのですが自分たちで米を一から作るという意味では田植えは重要かなと……」


「確かにそれはあるかもしれないな……では、残りをゴブリンたちに任せましょう。余計な事をして申し訳なかったな」


 浮ながら頭を下げる天使。それに続き多くの天使たちも頭を下げ、クロは「いえ、助かって入るのですから頭を上げて下さい」と声に出し、アイテムボックスから某有名なお菓子の棒が大量に詰まった袋と酒の神からの遣いだろうからと白ワインと赤ワインにウイスキーの瓶に日本酒を取り出しバスケットに入れる。


「少ないですがもし良かったらご賞味ください。それと酒の神さまにこちらのお酒をどうぞ」


「おおお、これはご丁寧に味わって飲ませてもらいます。もしなにかあればホーリーナイトのヴァルに伝えて頂ければすぐにでも参上致しますのでお呼び下さい」


 バスケットごと受け取った天使に見た目との言葉遣いに違和感を覚えつつも、光の柱へと変わり天界へと帰還し、目の前のオレンジに輝く九割田植えを終えた田んぼを見つめため息を吐くのだった。








「マ~マ~ンさーーーーーん!」


 大きな声で叫ぶアイリーンが手を振り海岸近くは大きく様変わりしていた。

以前はただの海岸と岩礁地帯だったがドランとキャロライナがマーマンの子供たちや老人の為に整備し、岩礁地帯の内部にブレスを浴びせ溶けた所を魔化したドランが素手で溶岩と化したそれを運びスペースを作り、更にブレスを使い海と繋げプールのような施設を造ったのだ。空からの攻撃に備えまわりには木々を植え日陰を作りワイバーンなどからも発見しづらくした場所はマーマンたちの楽園へと変わり、ゴブリンたちが塩を作る場所とも近い事もあり最近ではゴブリンたちと貿易をするまでになっている。

 ゴブリンたちが自分たちで作っている野菜や狩った肉などを届け、マーマンたちは魚や貝などと交換して食生活が変わりつつあるのだ。


「アイリーン! アイリーンが来たぞ!」


「クロは? クロはいる?」


「クロはアメ! クロはアメ!」


 アイリーンの大声に反応しマーマンたちが手を振り、子供たちはクロが来たと思いアメの味を思い出す。


「ここでもクロ先輩は子供に大人気ですねぇ」


 隣を歩くクロへ視線を向けるアイリーンに対してクロは「子供はアメが好きだからな~」と口にしアイテムボックスから飴を数袋取り出す。


「あら、クロの作る飴なら精霊たちも好きなはずよ。三つ頂戴」


 ビスチェのお願いに応えるべく一袋渡すとビスチェは封を開けひとつを手に取ると手の平に乗せる。次の瞬間、手の平に乗っていた飴は姿を消し目を見開く一同。チカチカとした光がビスチェのまわりを飛びクロのまわりも数回飛ぶと光は消え、それはあと二回ほど行われた。


「風と水と土の精霊が喜んでいたわね。クロの魔力創造は純粋に魔力で作られているから精霊も食べられるのよ」


 ドヤ顔を浮かべるビスチェ。そこへマーマンの男や子供たちが現れ挨拶を交わし合いアイリーンが七味を紹介すると子供たちは逃げ出し、マーマンの男は何を勘違いしたのかお祝いの言葉をアイリーンに向ける。


「この度はおめでとうございます」


「ん? おめでとう?」


 首を傾げるアイリーン。


「お子さん方ではないのですか?」


 マーマンの男の言葉にアイリーンの顔が真っ赤になり首を横に振り、クロたちは肩を震わせる。


「七味たちはアイリーンの親戚の子かな。怖い蜘蛛ではないので安心して下さい」


 肩を震わせながら七味たちの安全性を口にするクロ。


「それなら良かったです……この辺りには蜘蛛の魔物はあまり出ないので子供たちが怯えていますが、すぐに慣れるでしょう」


「そこは任せて下さい! 私たちのダンスですぐに仲良しですよ~」


 若干の赤みが残るアイリーンの言葉にマーマンの男は首を傾げるが、七味たちはダンスが踊れると理解し両手を上げてお尻を振り喜びを示す。


「おお、これがダンスですね! これなら子供たちも喜ぶと思います!」


 何やらテンションを上げるマーマンの男。離れて様子を見ていた子供たちも七味たちの珍しい動きに目を奪われ、母親だろうマーマンの女性たちも興味深げにその光景を見つめ、これなら安心だなとクロもホッと胸を撫で下ろす。


「どうぞ、我らの村にお越し下さい。ドランさま方のお陰で安全な場所が手に入り、我ら一同感謝しております」


 そう口にしながらやって来たのはマーマンの村長であり、精悍な魚顔をした男に招かれクロたちは足を進めるのであった。




「アメ甘~い」


「アメ美味しいわね」


「クロのアメ~~~」


 クロから受け取った飴を子供と主婦たちに配り終えると、そこかしこからそんな声が響き笑みを浮かべる一同。アイリーンと七味のダンスも行われ子供たちは大興奮で見つめ、ダンスが終わると真似をして踊り出す。なかには成人のマーマンの男が踊り出し笑いを誘い和やかな空気が流れるのであった。






「もうずっと歩きっぱなしだけど、まだ着かないのかい?」


「もう少しだと思……しっ! 魔物の気配!」


「俺が迎え撃つ!」


「おうおう、頼もしいね~私は戦闘能力がないから助かるよ~」


「待って、この気配は……グリフォン?」


「グリフォンとかこの辺りには生息していないだろ? そうなると逸れか、飼われていた個体か……どちらにしても強敵だな」


「飼い主が近くにいればいいけど……」


 凶悪な魔物の住む森を抜けるべく行動する三人は水辺近くで普段は目にしない魔物の気配に注意を向けるのであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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