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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十二章 七味たちと成樹祭
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稲刈り後と男二人のキャンプ



 干してある米は一週間ほど乾燥させ、脱穀し籾摺もみすりを行い玄米にし、更に精米して白米へと至る。前回は稲刈り後の乾燥をビスチェの精霊が行い簡略化させたが今年は自分たちで乾燥させ精米すると意気込んでおり、女神ベステルが神力で育てた米もゆっくりと乾燥させ自分たちで精米に挑むという。


「クロ先輩、田植えをしに来たのに稲刈りをして日が落ちましたねぇ」


「ああ、異世界らしいかといえば違うが、日本ではありえない光景だったな……」


「うふふ、それでも皆さんの笑顔を見るのはいいですね。手伝った甲斐があります」


「私も頑張った心算でしたが、やはりメリリの腕前には届きそうもありませんね……」


 『双月』と名高い冒険者であったメリリは無駄な動きがなく駆け抜けながら鎌を振るい稲刈りを行い、メルフェルンも無駄のない動きなのだが刈残しなどがありその差は歴然であった。


「俺からしたらどっちも神業だよ」


「メルも十分に早かったからね。僕とクロさんは話をしながら稲刈りをしていたけど、集中してやってもそんな速度は出せそうにないよ」


 クロとシャロンのフォローに俯いていたメルフェルンは顔を上げニヤけるのを我慢しピクピクと頬が崩れるのを両手で押さえる。


「うふふ、私はアイリーンさまの剣の腕前に驚きましたが、あれは特殊な足の運びなのか神速と呼ぶに相応しい斬撃でしたね。もし、アイリーンさまと本気でお手合わせするような事になれば……」


 ギラリと瞳を向けるメリリに対してアイリーンは微笑みを浮かべる。


「木剣ならお相手しますが、白薔薇の庭園を使ってとかは嫌ですよ~私は平和主義ですからね~」


「その割に師匠を剣で超えるとか言っていた気がするが?」


「あれはその場の雰囲気というか強くはなりたいですからね。でも、それで命のやり取りをとか言われても正直怖いですよ」


 アイリーンの言葉にクロは頷き、メリリはそんなアイリーンを後ろから抱きつき口を開く。


「うふふ、意地悪なことを言って申し訳ありません。私もアイリーンさまとは剣を交えたくはありませんからご安心ください」


 その言葉にアイリーンは微笑むが次第に無表情へと変わる。


「それはいいのですが……なんでしょう。背中に当たるこのたわわに実った大きな膨らみは……女として圧倒的に負けているようで……」


 スレンダーな体型のアイリーンに比べ、豊満という単語を体現するメリリ。アイリーンが無表情になるのも仕方のない事だろう。


「おお、クロ殿、ここにいましたか。妻たちが夕食を作ったから皆で食べてくれ」


 そう声を掛けたのは村長の息子のゴブリンであり、ドランの右腕として動き回っている男である。


「ありがとうございます。何か手伝えたら良かったのですが」


「いやいや、クロ殿には米の作り方から酒の作り方まで教わった恩人。それなのに田植えまで手伝いに来て下さった……感謝しきれない御方です」


 片膝でも付きそうな勢いで話す村長の息子。


「いえいえ、自分たちもゴブリンさんたちが作った酒を頂いて感謝していますから。それに神さま方も喜んでおられましたよ」


「本当ですか!?」


「はい、その証拠に今年は五回も稲刈りをしたじゃないですか。酒を作る量を増やせとでも言いたいのかもしれませんね」


 クロの言葉に涙を滲ませる村長の息子。ただ、それ以上に涙を流し叫ぶドラン。


「うおおおおおおおおおお、我の、いや、我らのやって来た事は無駄ではなかったのだな! 多くの田んぼを造り、川から水路を引き、池まで造った甲斐があるというものだ! 今年は去年の倍は酒を作ろうぞ!」


 涙する村長の息子の肩を抱くドランの叫びに近くにいたゴブリンたちも叫び声を上げ喜び合い、料理が冷めると声を上げ眉を吊り上げるゴブリンの主婦たちが登場するまでそれは続くのであった。










「こうして焚火を見ながら夜を過ごすのは久しぶりです」


 そう口にしたシャロンは隣に座るクロを見つめ微笑む。微笑まれたクロは軽く頷き焚火に薪を入れる。夕食を食べ終えた一同はこのままゴブリンたちの村に泊まる事となりキャロットと白亜はドランが住む家に宿泊し、他の女性たちはクロのスキルである女神の小部屋に布団を敷いて宿泊し、男二人は広場にテントを張って夜を過ごす事となった。

 ビスチェやメルフェルンからは同じ部屋でいいと言われたが、シャロンが女性恐怖症という事もありクロも一緒にテントで宿泊する事にし、悔しそうな表情を浮かべるメルフェルン。


「俺も焚火をしながらキャンプするのは久しぶりだな。ああ、キャンプっていうのはこうしてテントを張って外で寝ることだな」


「あちらの世界のテントは凄いですね。一瞬で開いたと思ったら人が入れるサイズに膨らんで驚きました」


「あれは凄いよな。あっちにいた時はキャンプしたりとかはなかったけど、あのテントを初めて見た時は画期的だと思って色々調べたよ。お陰でこうして魔力創造できたな」


 袋から取り出し手を放すだけでテントの形に広がる便利さに驚くシャロン。クロはそんな驚いたシャロンに声を掛けペグと呼ばれる地面に固定する釘を一緒に打ちテントを完成させたのだ。


「世界が違うだけで色々と違う事があるのですね」


「そうだな……食事はもちろんだが移動手段や服装に常識とかも違うからな~初めてこっちに来た時は色々と驚いたよ」


「聖王国で召喚されたのですよね」


「ああ、勇者四人に巻き込まれてな……あの時が一番驚いたが今となっては良い思い出かもな。俺が勇者かもとか思ったが、巻き込まれただけだと聖女が神託を受け謝罪してさ。特別な力はあるにはあったがシールドだけだったからな」


 焚火を見ながら思い出すように口にするクロ。その話をオレンジの光を左頬に受け聞くシャロン。


「魔力創造は死者のダンジョンの奥底で発現したらさ、あの場で持っていたのか解らんが……後で女神さまに聞いてみようかな……そんな感じでただのお荷物の俺は勇者たちの訓練とは別で聖騎士たちに剣の振り方や盾の使い方に世界の常識とかを教わったよ。言葉はわかるのに文字が書けないのもそこで分かって教わったしな……もっと身を入れて文字を教わっていたら死者のダンジョンを突破した際に転移しなくて済んだのにな……」


 ダンジョンを突破した先には二つの転移門があり、片方は地上へと戻り、もう片方は違うダンジョンへと向かう門が設置されている。当時のクロは多少の単語を知っている程度で違うダンジョンへと転移する門に入り、その先のダンジョンで命からがら逃げ出し地上へと逃れたのだ。

その後、エルフェリーンに拾われるのだが、アンデット以外の敵に対して攻撃手段が乏しいクロは苦戦を強いられたのである。


「でも凄いですよね。一人で死者のダンジョンを攻略したのは歴史上クロさんだけですよ」


「相性の問題だけどな……アンデットに対してなら負ける気がしないが、七味たちが相手なら多分負けるかもな」


「ギギギギギ」


「うわっ!? いたのかよ……脅かすなよ……」


 焚火から数メートル離れれば暗闇であり、黒い体の七味たちを見つけるのは困難だろう。その七味たちが急に現れ、闇夜に浮かぶ赤い瞳を向け鳴き声を上げればほぼほぼの人類は驚きの声を上げるだろう。


「ぼ、僕も驚きました……す、すみません抱き着いちゃって……」


 頬を染めクロに抱き着くシャロン。その光景に鼻息を荒くし見つめる腐女子が一匹いるのだが、今は高鳴る心音とシャロンに抱きつかれ発見できずシャロンが転ばないよう手を貸してバランスを取るクロ。


「ギギギ」


『驚かす違う。呼ばれた?』


 頭の中に念話が響きクロは確かに七味たちの名前を出したのは俺だなと反省し口を開く。


「ああ、そうだったな。驚いて悪かった。七味たちが守ってくれていると思えば心強いな」


 そう言葉を添えると七味たちは両手を上げてお尻を振り闇に溶け込むように後退し姿を消し、クロに抱き着いていたシャロンは安心したのか、いつの間にか寝落ちしておりクロは困った顔をしながらもシャロンをテントへと運ぶのだった。








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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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