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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十二章 七味たちと成樹祭
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田植え前の稲刈り



 一瞬にしてオーガたちの心を掴んだアイリーンと七味たち。それとは別に子供たちの心を掴んだ猪型の農作業ゴーレムがルビーの命令を受け田んぼへと発進する。ダンスを見終えた子供たちが歓声を上げゴブリンの大人たちもその様子を見つめ、猪の牙部分に付いた耕す用の刃が回転し泥水を巻き上げ前進する。


「こりゃ凄いな! これならあっという間に入れた肥料が混ざるぞ」


「ああ、俺たちもあのスピードで耕せたら仕事が楽になるのにな」


「うむ、エルフェリーンさまにお願いして村で購入したいものだな」


 ゴブリンの大人たちとドランが農作業用ゴーレムの有能性を感じ話し合っていると、ビスチェは何か閃いたのかクロの横に並び口を開く。


「水の中の土とさっき入れた肥料が混ざればいいのよね?」


「ん? ああ、そうだな。あまり深くまで肥料が入ると効果が遅くなるから軽く混ぜる感じかな? 本当は水を入れる前にやるらしいが効果は出るだろうかさ」


「それならこっちの田んぼは私がやってみるわね」


 そう自信満々な表情で口にしたビスチェは片手を上げて口にする。


「風の精霊よ。水の精霊よ。地の精霊よ。四角く覆われた地を混ぜ合わせなさい」


 キラキラとした光に覆われたビスチェは契約している三種の精霊に魔力を捧げ、目の前の田んぼに小さな竜巻と水柱に泥の波が発生する。その姿に多くのゴブリンたちは目を見開き見つめていたが、いつしか手を合わせて祈りを捧げる。所謂、精霊信仰である。


「精霊さま……いつまでもこの地をお守り下さい」


 ゴブリンたちが一番身近に感じ信仰しているのは精霊であり姿が見えなくてもその信仰心は高く、両手を合わせ奇跡のような光景を見つめる。


「なら、あっちの田んぼは僕が混ぜてあげるよ~」


 そう口にしたのはエルフェリーンであり天魔の杖を掲げると小さな魔石を田んぼに投げ魔術を唱える。


「クリエイトゴーレム!」


 投げ込まれた魔石にまわりの泥が集まり形作ったのは背ビレのある魚で、イルカに似た姿をしているが泥と魔石だけで形作られており可愛げがない。が、そのイルカが泳ぎ出すと田を撹拌する効率は高く、泳ぐというよりも回転しながら進みターンする姿にゴブリンたちの驚きはピークに達する。


「おら……こんなに驚いたのは……初めてだ……」


「ああ……蜘蛛が踊り、猪が動き、精霊が舞い、魚が跳ねて……」


「エルフェリーンさま方のやる事だから驚いたで済むが……凄過ぎるな……」


「今日一日でどれほど驚いたか……田植え前なのに疲れただ……」


 そんな声がチラホラ聞こえていると本日最大の奇跡が目の前に起きる。


「か、輝いているだ……」


「女神さまが御作りになられた田んぼが輝いているだ……」


「光の柱が……」


 ゴブリンたちの目が釘付けとなったのは女神ベステルが最初に作った二反の田んぼである。田んぼが輝きその光が一筋の光の柱へと変わり、数秒後には光が治まり田植えを終えた状態へと変化していたのである。


「これが女神さまの御力……」


「今年も女神さまから米を授かったぞ!」


「酒にして納めねば!」


 ゴブリンたちの叫びにクロは呟く。


「これって、またすぐに成長して稲刈りをすることになるのか?」


「そうかもしれませんね~今のうちに米を干す場所を作るべきかもしれませんね~」


 アイリーンの言葉にクロは近くにいたシャロンとメルフェルンとメリリを誘い魔力創造で創り出した脚立と物干し竿をロープで縛り収穫したコメを干す場所を作り、それに気が付いたドランたちもゴブリンたちと手分けして木を組み同じような干す場所を作り出す。


「去年は三回ほど収穫しましたが、これだけあれば大丈夫ですよね」


「うむ、女神ベステルさまの御力で何度も収穫させてもらったのう……これだけ用意すれば大丈夫なはずだ……これはもう、田植えは明日に延期し収穫を優先すべきかもしれん」


 干す場所を決めたクロたちが田んぼに戻ると既に光厳に輝いている稲穂。収穫時期なのか稲穂の重みで湾曲している。


「ははは、収穫ですね……」


「うむ、収穫だのう……」


 乾いた笑いを浮かべるクロ。ドランも頷きながら黄金に輝く田んぼへ足を進め、クロが魔力創造で創り出した鎌を受け取ったドランやシャロンにメルフェルン。キャロットやキャロライナにゴブリンたちにも鎌を配り稲刈りが開始される。


「なんだか不思議な光景ですね。あっちはまだ田植え前なのに、こっちでは収穫作業ですよ。異世界という感じがします」


「異世界でも珍しい光景だと思うぞ。女神ベステルさまの力なんだろうけどさ……」


 白薔薇の庭園を持ち根元を刈り取るアイリーン。その後ろでは七味たちが協力して稲穂をまとめ糸で縛り上げる。


「刈り取るのは楽しいのだ!」


「こら、キャロットは刃物を振り回さない! 白亜さまを見習いなさい!」


「はい、なのだ!」


「キュウキュウ~~~」


 白亜は自身の爪で稲を刈り取り、キャロットは鎌と稲穂を持ちポーズを決めていたが祖母であるキャロライナに叱られ元気に反省している。


「うふふ、これがお米になるのですね」


「小麦に似ていますが、小麦よりも実が大きいのか茎が湾曲していますね」


「こういった体験は初めてで楽しいです。サキュバニア帝国ではあまり農業に力を入れてきませんでしたが、米作りをするのもいいかもしれませんね」


「ああ、米は連作障害に強いからな。温かい場所なら育てることもできると思うが……」


 メリリとメルフェルンのメイド二人は話している内容と行動が伴っておらず、走り抜けるように稲の根元を刈り取って行き、そのスピードについて行けないシャロンとクロはサキュバニア帝国で米作りができるか話し合う。


「冬は雪が降りますが夏は暑いですね。試しに栽培する方がいいかもしれませんね」


「バケツでも育てられるから実験したらいいかもな」


「バケツとはあの小さな桶ですよね。それなら簡単に実験が行えそうです」


 微笑みを浮かべたシャロンは汗を拭いながら稲刈りを進め、クロも慣れない稲刈りを続ける。


「そろそろ私も本気になりましょう! いざ、てりゃぁー」


 腰を低くして構えたアイリーンが神速で駆け抜け、チンと鞘に白薔薇の庭園を収めるとバラバラとドミノの様に倒れる稲穂。


「ふぅ、面白みのある切り方をしてしまった……」


 なにやらポーズを決めて口にするアイリーンに誰もツッコミを入れはしないが、七味たちには好評なようで稲を集めていた稲を両手で掲げお尻を振っている。


「この様子ならすぐに刈り取りも終えられるな」


「アイリーンさんのスピードは凄かったですね。体がブレたかと思ったら遠くで剣を収納していました」


「あれは確かに凄いよな。もしアレで斬られたら、斬られた事に気が付かないかもな……」


 クロの言葉に顔を引き攣らせるシャロン。


 そんなこんなで稲刈りを終えると刈り取った稲から新たな新芽が現れグングンと成長し、多くのゴブリンたちも参戦し二回目の稲刈りが行われる。稲刈りと刈った稲を干す係に別れ作業を行い、肥料を入れ土に混ぜていたエルフェリーンとビスチェにルビーもそちらを終えて作業を手伝い、夕刻には五度目の収穫を終えるのであった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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