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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十二章 七味たちと成樹祭
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ゴブリンの村へ



 昼食代わりの和菓子を食べ終えた一同はエルフェリーンの転移魔法でゴブリンたちの村へと向かい様変わりした景色に驚いていた。


「こんなにも田園を作るとは驚きだよ~」


「あの辺りは森でしたよね……」


「クロ先輩、日本の田舎の風景を見ているようですね」


 クロたちの目の前には十反ほどの田んぼが広がり既に水が引かれている。女神ベステルが田んぼを造った際には二反ほどなので、ドランとゴブリンたちで森を切り開き耕し一冬で造ったのだろう。


「ああ、テレビで見た事のある風景になったな……これほど開墾するのは大変だったでしょう」


「がはははは、大変だったが遣り甲斐はあったぞ。我が魔化し木々や岩を移動させゴブリンたちは細かな石や草などを排除したな。耕すのは我が腕を魔化し素手でやったが中々に骨が終われわい」


 そんな話をしているうちにゴブリンたちに囲まれる一同。特にクロのまわりには子供のゴブリンたちが集まり「アメちょうだぁ~い」とせがまれ、アイテムボックスから飴の袋を取り出しリーダーだろう年長者の子供に手渡す。


「ありがとうございます」


「ああ、みんなで仲良く分けろよ。足りなかったらまた出すからさ」


 ゴブリンの子供たちからお礼を言われたクロは笑顔で走り出す子供たちと別れ、代わりに現れたキャロットの祖母であるキャロライナへ視線を向ける。


「あの、つまらない物ですが……」


 先ほどの和菓子騒動の際に魔力創造で創り出した最中をアイテムボックスから取り出し手渡すとキャロライナは眉間に皺を寄せる。


「ん? 詰まらない物?」


「ああ、すみません。これは異世界で贈り物をする時の定番のフレーズみたいなもので、取り合いになるぐらいには好評だった甘味です」


 その言葉にクロからエルフェリーンへと視線を向けるキャロライナ。するとエルフェリーンはうんうんと頷き、ドランも「最中は緑茶を一緒に食べると最高に美味かったのう」と感想を述べる。


「それなら最初からそう言えばいいでしょうに、ふふ、ありがとうね」


 微笑みを浮かべるキャロライナにホッとするクロ。ドラゴニュートは最強種としてのプライドが高くへりくだる事はほぼほぼせず、寧ろ自分を大きく見せる事を良しとしている。ドランはあまりそういった事はしないのはエルフェリーンと旅をして自身の強さの程度を知ったからであり、口は禍の元を何度も身をもって経験したからだろう。


「婆さまなのだ!」


「キュウキュウ~」


 キャロットと白亜がキャロライナに抱き着き、キャロライナも孫娘と白い小竜を抱き締め、ドランは我も抱きしめたいのだがという表情を浮かべ手をもぞもぞとさせクロへと視線を向ける。


「あのこれ、良かったら皆さんで食べて下さい。最中と呼ばれるお菓子です」


「おお、これは有難く頂戴しますぞ。クロ殿のおかげでこの地で米が食べられるようになり新たな酒も……どれほど感謝しても感謝しきれないというのに……」


 やってきたゴブリンの長老に菓子折りを渡すクロ。ドランはなんとも言えない表情を浮かべながら抱き着く二人と一匹に視線を戻す。


「お米の件は女神ベステルさまの采配ですから自分はそれほど……そうそう、豊穣神さまから聞いたのですが、女神ベステルさまが作った田んぼには百年ぐらい肥料が無くても豊作が確定しているそうですよ。それとこれが水田用の肥料です」


 そう言いながら魔力創造で創った肥料の袋を地面に置くクロ。長老やまわりのゴブリンたちは豊作が確定している事や豊穣神からその話を聞いた事に驚きフリーズしている。


「本来はもっと早い時期に撒くそうなのですそうなのですが、間に合わない事もないと思うのでみんなで撒きましょうか。あの、聞いてます?」


「あ、ああ、聞いているが驚き過ぎて頭に入ってこなかったわい……豊穣神さまからのご助言に感謝しているから、ちょっと待ってくれ……」


 長老が言葉を絞り出して目をぱちぱちとさせ頭を回転させようとし、その間にもゴブリンの主婦方はお礼を口にすると肥料を手にして動き出す。


「やっぱり主婦は強いですね~お正月のセールとかで見た主婦は戦闘民族かと思う時がありましたし……」


「何事にも女は強いからのう……」


 アイリーンが見たのは正月の福袋を競い合って買う主婦たちの事だろう。そしてドランはキャロライナを見て口を開いた。


「そうかもしれませんね。って、そんな事よりも肥料を入れたら水田を撹拌してから田植えです。アイリーンたちは汚れてもいい服装に着替えないとだぞ」


 そう口にするクロだったが、アイリーンが浄化魔法をその場でクロにかけ光に覆われる。


「ああ、これなら問題ないな。魔法の無駄遣いな気もするが……」


「無駄じゃないですよ~浄化魔法は私の特技です!」


 こんなやり取りをしている間にもゴブリン主婦たちは肥料を撒き始め、男たちも正気に戻り作業を手伝う。


「クロ、クロ、さぁ、あれを出してくれるかい。皆にお披露目だぜ~」


 光が治まったクロの裾を引いて声を掛けるエルフェリーン。その横にはルビーもおりワクワクと体を上下に揺らしている。


「すぐに出しますね。えっと、これだな」


 アイテムボックスからエルフェリーンに頼まれた物を取り出すと真っ黒なボディーの猪型ゴーレムが登場する。牙の部分は取り外しが可能で草刈り型や耕し型などに変更ができ、今装着しているのは円柱状の外枠があり中には螺旋状の刃がついている耕すことに特化したバージョンである。


「これの試作もしたいからね~」


「帝国のゴーレムとは違い大ムカデの甲殻を使い軽量化に成功しました! 簡単な命令なら口で伝えれば実行できますし、複雑な命令も魔石を使い学習することが可能です! 更に臭覚の機能を付ければキノコ探しなどもできる高性能型ですよ!」


 250ccほどのバイクの大きさで真っ黒なボディーの猪化型ゴーレムの登場に子供たちはキラキラとした瞳を向け、アイリーンも興味深げに見つめる。


「前の軽トラの時も驚きましたが、やっぱりロボは良いですね! ロマンがあります! そうそう、クロ先輩! ロボもいいのですがそろそろ七味たちを出してあげて下さいね」


 ゴブリンたちを驚かせないようアイリーンから頼まれ女神の小部屋に入れて連れてきた七味たち。小雪も中で七味たちと一緒に待っている。


「ああ、それはいいがまわりに一声掛けてくれ」


「みなすわぁ~ん、これから蜘蛛の魔物が登場しますけど~私たちの仲間なので怖がらないで下さいね~」


 大声をあげまわりに注意喚起するアイリーン。大声を聞いたゴブリンたちの視線も集まりクロは女神の小部屋の入り口を発動させ飛び出してくる小雪。その後ろからはぞろぞろと七味たちが続き、村長は再度フリーズする。猪型のゴーレムを見ていた子供たちも驚き悲鳴はなかったが近くにいたビスチェやメリリなどの傍に集まり身を震わせる。


「やっぱり怖がるよな……」


「大丈夫です! こっちには掴みのダンスがありますから!」


 自信満々に仁王立ちで腰に手を当てるアイリーンは大きく息を吸い込むと大声を上げる。


「これから七味たちと踊りますから見ててくださいね~」


 叫び終わるとアイリーンを中心に円になる七味たち。アイリーンが片手を上げポーズを取ると同じようなポーズを取る七味たち。そこからは同じ動きで踊り出す一人と七匹。乱れのないダンスに子供たちの視線は恐怖から興味に変わり、大人たちも初めて見るダンスの動きに合わせ顔を上下させリズムに乗り、クロは王都の祭りで話題になった事を思い出しながらそのダンスを見つめるのであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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