表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十二章 七味たちと成樹祭
399/669

三柱と菓子折りと猛獣乙女



「あら、貴女はキュロットの娘のビスチェね。前に会った時よりも大人っぽくなったかしら」


 屋敷から走って現れたビスチェの姿に世界樹の女神が優しく微笑み、ビスチェはその場に膝を付いて頭を下げる。


「世界樹の女神さま、私の名を憶えて……うぐ……あ、ありがとうございます……」


 エルフたちが神と崇める世界樹の女神シソリンヌに名を覚えられていた事を知り涙が溢れるビスチェ。そんなビスチェに近寄り優しく頭を撫でる世界樹の女神。他の二柱はクロが有機肥料の作り方や原材料を翻訳して書いたノートを見つめ話し合い、クロは成樹祭に参加しなかったビスチェだが世界樹の女神を敬っているのだなと思いその光景を見守る。


「覚えているわ。前に参加した時はもっと幼く見えたもの。それに、キュロットの娘ということで多くの男たちから言い寄られて。ふふ、風の精霊にお願いして吹き飛ばしたものね」


 笑いながら話す世界樹の女神の言葉にクロは口元を押さえ肩を揺らす。


「あ、あれは男たちがしつこくて……ですが、手を上げていません……」


 手を上げていなくても風の精霊にお願いして吹き飛ばしたのなら一緒だろうと思うクロ。


「ふふ、そうですね。吹き飛ばされた男たちも木々が受け止め大事には至りませんでした。それも優しさですね」


 世界樹の女神の言葉にそうだろうか? と頭なのかで多くのクエスチョンマークが浮かび首を傾げるが、それと同時に発生させた女神シールドの変化に今更ながら気が付き顔を引き攣らせるクロ。

女神シールドには目を吊り上げた女神ベステルの姿があり、吹き出しには『農業の二柱と世界樹には罰を与えるわ!』とお怒りのご様子である。


「あ、あの、女神ベステルさまがお怒りですけど……」


 メモと雑誌に夢中なダンジョン農耕神と農耕神、ビスチェの頭を優しく撫でていた世界樹の女神がクロへと振り返り、女神シールで目を吊り上げる女神ベステルを見た途端に真っ青に変わる顔色。


「クロよ、礼を言う。礼を言うが……どうしたものか……」


「ど、どうしましょう! 女神ベステルさまが……クロさん! 女神ベステルさまの怒りが収まる様な食べ物を知りませんか!! 私のような新米の神が地上に降りることは許されません! 下手したら存在そのものが消される可能性も!!!」


「わ、私も先日の成樹祭で地上へ降りたばかりなのに……クロさま、どうか、どうか、女神ベステルがお喜びになる物を奉納して下さいませ……」


 クロにすがるように願うダンジョン農耕神とビスチェの隣で膝を付いて頭を下げる世界樹の女神。その姿に困りながらも魔力創造でシガールと呼ばれる葉巻の形をした洋菓子と某有名な最中を創造する。これは以前テレビで特集していた社会人が失敗した時に持って行く菓子折りランキングなる物を思い出し魔力創造したのだ。


「神さまに通じるかわかりませんが自分の住んでいた世界で謝罪の時に持って行く菓子折りです。これをどうぞ」


 包装された二つの箱を受け取った二柱は立ち上がり頭を下げ、もうひと柱の農耕神は「水田に肥料は無用だ。あれは創造神ベステルさまが創造されたもの。百年は豊作だろう。世話になったな」そう口にすると片手を上げながら光を発し消え、頭を下げていた二柱も発光しその姿が消え失せる。


「肥料目当てに降臨するとか、神としてどうなんだろうな」


「私は世界樹の女神さまに会えただけでも嬉しいからいいけど……女神ベステルさまは怒っていたわね……」


 目を赤くしながら話すビスチェは立ち上がり、アイテムボックスから取り出したおしぼりをクロから貰うと涙を拭う。


「罰を与えるとか書いてあったな……大丈夫だといいが……」


「ねえねえ、神さまに渡していたお菓子は美味しいのかしら?」


「ん? ああ、あれは俺も好きだったが贈答品にするぐらい高価なものだな」


「へぇ~それは楽しみね!」


 まだ赤い目をしながらも満面の笑みを浮かべるビスチェにクロは同じく魔力創造をするのであった。








「ほう、これを持たせて女神ベステルさまに謝罪に向かわれるとはのう……あむあむ……香りの良い菓子だのう……」


 屋敷に戻りビスチェが菓子折りを開けシガールを口にする一同。ドランはシガールを口にして感想を言い、新たに手に取るとお茶を飲み封を開ける。


「これは美味しいわね! 私はこれを持って謝罪に来たら許しちゃうわね!」


「うんうん、これはサクサクとしながらも鼻に抜けるバターの香りが堪らないぜ~緑茶との相性も良くて僕は好きだぜ~」


「うふふ、本当にクロさまの世界のお菓子は美味しいですね。ドライフルーツを喜んでいた自分が嘘のようです」


「メリリは少し控えないとまたダイエットコース行よ。シャロンさまは遠慮せずお食べ下さい」


「うん、ありがとう。僕はさっき朝食を食べたばかりでお腹がいっぱいだから……七味たちにあげるよ」


 シャロンの言葉に七味たちは両手を上げてお尻を振り喜びを表現する。が、七味は七匹おり喜びの舞いから威嚇へと瞬時に移行し七匹で輪になり「ギギギ」と威嚇するような鳴きを上げる。


「こらこら、喧嘩するなよ。ほら、あと六本追加するから仲良くな」


 クロがシガールを開封して渡すと威嚇は瞬時に治まりひと列に並び受け取って行く。


「キュウキュウ~」


「あむあむ……白亜さまもおかわりなのだ!」


 クロの隣に座りシガールを食べ尻尾を揺らしていた白亜は裾をクイクイと振り甘えた鳴き声を上げ、その声を訳すキャロットは両手に持ってモグモグとシガールを口にする。


「もう一つの箱は開けないのじゃ?」


 シガールを食べ終えたロザリアは期待した瞳をクロへと向け、まわりの女性たちはよく言ったという気持ちでクロへ視線を向ける。


「さっき朝食を食べたばかりだろ。メリリさんの事もあるし、これは明日にすべきかなと……」


 クロの言葉にメリリの咀嚼そしゃくが停止し、絶望へと叩き落されたかのような表情を浮かべ、まわりの女性たちはメリリへ強い視線を向ける。


「思いましたが、昼食を抜いて夕食は軽めなものにしましょうか」


 クロのフォローによりまわりの女性たちは大らかな表情へと変わりメリリも笑顔を取り戻す。


「うむ、そちらも楽しみなのじゃ」


「これは最中といって大豆の粉を固め、中に甘い餡を入れたものですね」


 包装を剥がして箱を開けるクロ。中には綺麗に最中が並び目を輝かせる女性たち。ドランも

甘党なのか真っ先に手を出すと外装を剥がし口にする。


「これはこれは……甘い菓子だが気品を感じるのう……作り上げるまでに長い年月をかけているのだろう……実に美味いのう……」


「あむあむ……これは緑茶との相性もばっちりだぜ~ドランが言うように気品があるね。甘いけどくどさがないよ~」


「手にするとずっしりとした重みを感じますが、すぐに食べ終えてしまいますね……」


「和菓子らしい感じが懐かしいです~たまにはおはぎや大福とかも食べたくなりますね~」


 最中を食べ感想を言い合っているとアイリーンが餡子を使った和菓子の話を口にし、まわりの乙女たちの視線がクロへと集まる。

 それはまるで獲物を見つけた時のライオンのような捕食者の瞳を浮かべており、クロの足元で寛いでいた小雪は「くぅ~ん」と情けない声を上げアイリーンの元へと逃げ、隣に座っていた白亜は殺気の籠った多くの瞳の前に安全だろうシャロンの胸に飛び込み震え、七味たちはいっせいに天井へと糸を飛ばし退避するほどであった。


「あ、あの、皆さん、和菓子は大量の砂糖を使っていますし、洋菓子はそれに加えバターが多くカロリーが……はい、用意しますね……」


 クロが途中で説得を諦め有無を言わせない視線を送る乙女たち。後日、数名の女性が体重計を前に悲鳴を上げることになるのだが、それはまた別のお話……








 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ