田植えに必要な肥料と無駄に光って登場する神
「うむ、こんなにも体の調子がいい日は何百年ぶりか、腰も痛まないし肩も軽い。エルフェリーンさま、それにルビーよ。感謝します」
翌日、エルフェリーンとルビーの前で深々と頭を下げるドラン。原因はビリビリ椅子であり血行が促進され老化現象からくる痛みから解放されたドランは、張り艶の良い肌をし清々しい目覚めだったらしい。
「それは良かったじゃないか!」
「はい、最強出力にしたつもりだったのですが……」
ドラゴニュートの中でも屈指の実力を持つドランの前ではビリビリ椅子もマッサージチェアほどの効果しかなく、ルビーは顔を引き攣らせ、エルフェリーンは素直に喜びそのビリビリ椅子をプレゼントする。
「ドランさん、その椅子は危険です。ドラゴニュート以外は絶対に使用しないことをお勧めします。最悪、命の危険もありますから……」
そう口にしたのはアイリーンである。昨日、試作運転のテストパイロットを体験し痛い目に遭った発案者でもある。
「そ、そうか……わかった。気を付けよう……キャロライナも最近は膝が痛いと言っておったから進めてやろうとは思っていたが、ゴブリンたちには厳しいか……」
種族の違いによって肉体や魔力量が異なり、ドランが体験した威力では死のマッサージチェアへと変貌するだろう。
「それがいいと思いますよ。間違ってもゴブリンの子供たちが興味を持ってとかの事故は絶対に注意ですからね!」
詰め寄るように話すアイリーンにドランも「相分かった」と深く頷く。
「ドラゴニュートは人型であってもドラゴン特有の能力を一部だが受け継いでいると聞いたがあったが本当だったのじゃな……」
ロザリアは昨日屋敷に帰って来てからは影に潜みひとりで行動し、ドッキリの流れを聞いておらずビリビリ椅子に座り寛ぐキャロットを見て驚愕しながらも分析をしていた。
「うむ、そうじゃのう。斬撃には対応できぬが打撃や高温などには強いからのう。生まれ持った資質というやつだな」
「ドラゴニュートが最強と呼ばれる理由が分かる気がします……」
アイリーンの言葉に腕を組み静かに頭を縦に振るロザリア。
「そうはいうが我はエルフェリーンさまに勝った事は一度もないのう。ラルフやカリフェルは勝負ごとには強いからエルフェリーンさまに勝っておったが、我は一度もないのう……」
昔を思い出すように口にするドラン。ラルフという祖父が会話に出てきた事もありロザリアは期待した瞳をエルフェリーンへと向ける。
「あったね~そんな事も……ドランは頭が固いから勝負事には向いてないんだよ~それに最近は薄くなったし……」
予想外の言葉にドランは頭を両手で押さえエルフェリーンはケラケラと笑い、他の者たちは笑うに笑えない状況となり、クロは一人お茶を入れにキッチンへと逃げ後を追うメリリとメルフェルン。
「うふふ、ドランさま相手に頭の薄さを指摘できるのはエルフェリーンさまぐらいですね」
「はぁ……笑いを堪える人の気持ちになってほしいものです……」
「やっぱり昔パーティーを組み旅した仲間だから弄れるのでしょうね。緑茶でいいですすかね?」
クロがアイテムボックスから茶筒を取り出すと二人は頷きカップを用意する二人。朝食後という事もありお茶請けはなしで準備を進め、お茶を入れるとメリリとメルフェルンに任せクロは魔力創造で雑誌を創造しページを捲る。
「おや、その雑誌は初めてみますね~農業関連の雑誌とか……ああ、田植えの事を学んでいるのですね~」
アイリーンの指摘に頷くクロ。すると、その話を耳にしたドランがお茶を持ち立ち上がりキッチンカウンターへと移動する。
「これはまた見事な絵だのう。我も少し見てみたいのう」
目を細めクロの持つ雑誌に興味が湧いたのか声を掛けるドラン。手にしていた雑誌を渡すクロ。
「これは違う国の言語で書かれていますので簡単に説明しますね」
そう口にし二人で雑誌を見ながら、クロが読み上げドランが目で田植えに必要な事を頭に入れる。
「若い先生に教わるお爺ちゃんの構図ですね……これはこれで新しいBLなのでは……」
ひとり呟くアイリーンの相手をする者はおらずクロの声に耳を傾ける一同。キャロットだけはビリビリしているが静かな時間が流れる。
「そうなると肥料の用意が必要だのう」
「そうですね。油粕や米ぬかに灰や腐葉土、魚粉や骨粉などですかね」
「それでしたら暖炉から出た灰を裏に溜めてあります。ビスチェさまが菜園などに使うそうですが……」
「灰を畑に撒くと野菜や薬草の育ちがいいのよね。たっぷりあるけど……」
「灰や魚粉なら魔力創造で創れるな。油粕とかは雑誌に作り方が書いてあればできるだろうけど……米ぬかも行けるかも」
雑誌の隅に書いてある自分で有機肥料を作ろうというコンテンツを目にしたクロは一人キッチンから外へ出ると魔力創造を使う。魔法陣が浮かび上がり雑誌に載っていた物と同じ物が出現しホッと胸を撫で下ろす。
それを家の中から見ていたドランは大きく頷き、アイリーンやメリリにメルフェルンなどは拍手を送る。
「やっぱり作り方をちゃんと知っていれば作ることができるな……あれは?」
視線に入った女性の背中には神々しい光が見え、思わずその眩しさに目を細めるクロ。その光は次第に大きくなり三つの光の光源が現れ、クロは女神シールドを発動する。すると光が治まり視界が回復したクロの前にはしゃがみ有機肥料を見つめ、ああだこうだと話す葉が髪で覆われた女性と、肩に鍬を担ぐヒゲのおじさんと、ローブを身に纏い見知ったひと柱の顔があり、クロはやっぱり神さま案件だと理解する。
「あの、ケイルさまですよね?」
ダンジョン農耕神と名乗っている見知った神のケイルに話し掛けるクロ。対して顔を上げ立ち上がったケイルは申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「これはクロ殿、その、どうしても確認せねばならぬと思い勝手ながら降臨させていただきました」
「こちらの肥料を確認させていただきたいのです」
「こりゃ色々と入っているな……どんなものが入っているか教えてはもらえないだろうか?」
立ち上がったケイルはクロに対して深く頭を上げ、隣にいる二柱もしゃがんだままだがクロに向かい口を開き魔力創造した有機肥料の情報を求める。
「えっと、これは――――」
クロが神たちに説明していると屋敷から口をあんぐりと開け見つめるドラン。ロザリアやメリリにメルフェルンはまた神たちに絡まれていると口にはしないが呆れた表情を浮かべ、ビスチェも何気なく視線を向けた先に見覚えのある神がいる事に気が付き固まる。
「ありゃ? あれってケイルと世界樹の女神シソリンヌだぜ~態々アルーにメッセージを送ったのに地上へ降りて来てるぜ~ダンジョン農耕神のケイルと農耕神クワイエットもいるぜ~」
エルフェリーンの言葉に三柱の名と役職が分かりながらも成り行きを見守る一同。ただ、ビスチェだけは成樹祭に参加しなかった事もあり挨拶せねばと屋敷を飛び出す。
「世界樹の女神さま!」
大きな声を掛け走り寄ったビスチェの登場に、クロは助かったと思いながらもアイテムボックスから紙とペンを取り出し有機肥料に必要な物を書き出すのであった。
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