ビリビリ椅子とお土産
「あばばばばあばばばばばばばばああああああばばばばばばばあばーーーーーーーーー!?」
リビングに奇妙な悲鳴が響き渡り慌てて一時期ダイエット用品として売り出していたゴムのチューブを力いっぱいに引くクロとキャロット。チューブに繋がれていたアイリーンが引っ張られノーバウンドでその体をキャッチし支えるメリリとメルフェルン。
「ちょっとだけ威力が強かったかな?」
「安全の為にも、もう少しだけ威力を落として試しましょうか」
エルフェリーンとルビーも多少なり反省をしているのか、二人に支えられぐったりとしているアイリーンに視線を向け話し合う。
「こ、これはドッキリというよりも死刑囚の気分では……エクスヒール……」
アイリーンの体が淡く輝き回復魔法を使いチリチリになった髪の毛がサラサラに戻り心配そうに見ていた七味たちは両手を上げてお尻を振る。
「回復魔法を使ったようだけど大丈夫か?」
「だ、大丈夫ですけど……思っていた五倍以上の威力です……あの衝撃は一生忘れないと思います……」
二人に支えられよろよろとその場に腰を下ろしたアイリーンは虚ろな視線をビリビリ椅子に向ける。
「次は私が試すのだ!」
怖いもの知らずのキャロットがゴムチューブを放しスキップしながらビリビリ椅子に腰を下ろす。ビリビリと音が鳴りオレンジ色したキャロットの髪が逆立ち放電されているのが見て取れるがキャロットは「ビリビリなのだ~」と嬉しそうに声を上げ、楽しそうなリアクションに目を見開き驚愕するアイリーン。
「キャロットはあんまり無理をするなよ。健康器具で電気を流す物もあるけど威力が強いからな」
「わかったのだ! 慣れてくると気持ちがいいのだ~」
強靭な肉体を持つドラゴニュートには心地の良いマッサージ椅子なようで、キャロットは痺れながらもリラックスした表情を浮かべる。
「うんうん、やっぱりドラゴニュート相手だと威力が足りないね!」
「魔石を追加して威力を上げるしかないですかね……」
先ほどとは真逆の事を話す二人。
「ドランさまは高齢ですからそのままぽっくりとかも……」
「驚くぐらいの威力にして下さいよ。間違って座って無くなるとかの事故は嫌ですからね」
メルフェルンがドランを心配しクロはうっかり事故を恐れて口を開き、威力を上げようと話し合っていた二人は事故の可能性を考慮していなかったのか顎に手を当て考え込み、見学していたビスチェは視線を窓へと変え口を開く。
「ドランが来たわ!」
ビスチェのまわりをキラキラと光の粒子が輝き精霊たちがドランの来訪を伝えたのだろう。
「爺さまが来たのだ! 迎えて行ってくるのだ!」
「キュウキュウ~」
「わふんっ!」
ビリビリ椅子から立ち上がり毛を逆立てたまま走り出すキャロット。ソファーで様子を見ていた白亜と小雪も走り出したキャロットを追い掛け玄関へと向かい、クロもドランを迎えるべく後を追う。
魔化した状態のドランは三階建ての家ほどの巨大さであり世間的にドラゴンは恐怖の対象である。恐怖の対象なのだがその手には大きな革製の袋を持ち、魔化を解除したドランは孫娘の出迎えに笑みを浮かべる。
「おお、キャロットよ。少し見ない間に大きくなりおって」
髪の毛が逆立っているだけである。
「よく来たのだ! 爺さまにプレゼントがあるのだ!」
「プレゼントとは嬉しいのう」
表情を溶かしたドランは自身よりも大きな皮袋を背に担ぐとキャロットに手を引かれ屋敷へと向かう。
「クロよ、田植えの準備が整った。手を貸してくれ」
「はい、それは構いませんが、その大きな荷物はどうされたのですか?」
背中に担ぐ大きな皮袋が気になっていたクロが口にするとドランは嬉しそうに口を開く。
「これは冬の間に我が作ったカゴである。他にもゴブリンたちに小物の作り方を教わり色々と作ったのだ。それと寝かせた米の酒を持って来たぞ」
「肉が良かったのだ……」
引いていた手を放しガッカリするキャロットだったが、ドランの次の言葉で顔を上げる。
「ふははは、安心しろ。ギガアリゲーターの肉の良い所を持って来た! マーマンたちに頼まれ我が討伐したのだ! アイリーンが倒したサイズよりは小さいが、それでも中々の大きさだったのう」
顎髭に手で触れ自慢するドランにキャロットは「肉なのだ!」と叫び、白亜と小雪も喜びの鳴き声を上げドランのまわりを走り回る。
「その喜び方だと俺が毎日肉を食べさせてないみたいだな……」
そう呟くクロ。ドランにはその小さな呟きが聞こえたのがガハハと笑う。
「クロが肉を料理していないとは思ってはいないぞ。我は白亜さまと孫娘の為に戦っただけだからのう。それにお世話になっている皆にも美味いものを送りたいと思っただけだし、肉の美味さを若いうちに知れば肉の為に強くあろうと頑張れるからのう」
ドラゴニュートが本気で戦う際はその肉体を魔化させドラゴン形態になり己の肉体と牙を使う野性的な戦い方である。もちろん魔術を使いものや工夫を凝らすものもいるが最後は噛みつき殴り合う。結局は強い肉体と強い精神が必要となる。その一つにでもなればとドランは口にしたのだ。
「なるほど……では、たまには自分たちで狩りをさせるのも必要ですかね?」
「ん? そうだな……」
屋敷へ歩きながら考え込むドラン。キャロットはやる気満々なようで「任せるのだ!」と叫び、小雪も尻尾を振りへっへへっへと息を荒げ、白亜だけはクロの胸に飛び込みウルウルとした瞳を向ける。
「白亜は七大竜王の娘だろ。頑張って強くなるよな?」
「キュ、キュウ……」
尻尾をだらりと下げクロの胸で首を横に振る姿は、とうの昔に野生を忘れた飼い犬のように見え先が心配になるクロ。優しくその背を撫でながら屋敷へと入る。
「やぁ、ドラン! よく来たね!」
「おお、エルフェリーンさま、久しぶりというほどではありませんがお元気なようで安心しましたぞ」
「あはははは、僕は元気だぜ~ドランの方が若いけどもうお爺ちゃんだからね~心配だよ~」
にこやかに話す二人。他の者たちもドランと挨拶を交わし持参したお土産を広げる。大きな革製のそれを開くと中には色々と入っており、ドランが作ったという大きな背負うタイプのカゴには竹で作られたカップや箸に竹で編まれたコースターなどを取り出す。中には木彫りの熊や魚などもありアイリーンが手に取り懐かしむような視線を向ける。
「どうか受け取ってくれ。殆どがゴブリンたちに教わり我の作った物である」
ドヤ顔をするドラン。道の駅の片隅のコーナーのようなラインナップを珍しそうに見つめる一同。
「クロ先輩、こちらの世界にも木彫りの熊とかあるのですね……」
「ああ、それで手に取ったのか。ドランさんが掘った熊の方が強そうだよな」
「はい……私の家には昔ながらの鮭を咥えた木彫りの熊があって、なんだか懐かしいです……」
不思議と地方の祖父母の家に多く飾られていた木彫りの熊を思い出したアイリーン。それを受けクロは魔力創造を使い同じような鮭を咥えた木彫りの熊を創ると「そうです! これですこれ!」とテンションを上げ声に出し皆の注目を集める。
「へぇ~これがアイリーンの家にあったのか~あっちの世界でも同じようなものがあるんだね~」
「世界は違っても木材を使って動物を作ったりカゴを編んだりはしますね。ドランさんのこの魚の木彫りは見事です」
大きなイワナのような魚が飛び跳ねている姿の木彫りを手にしたクロはそう口にするとドランは「うむ、これは我が釣り上げた実物大の魚でのう」から始まり延々と長話を聞かされるクロ。皆は途中から離れ小声でドランが思っていたよりも早く来てドッキリはどうしようかと話し合い、クロは話しを振ってしまった手間逃げることができず、小一時間ほど長い話に付き合うのであった。
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