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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十二章 七味たちと成樹祭
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アイリーンの交渉



 誕生祭という事もあり冒険者ギルドは閑古鳥が鳴いていたが一人の少女が現れるとそれは一変する。


「あの~冒険者ギルド前でちょっとした大道芸をしてもいいですか?」


 そう言いながら冒険者ギルドのドアを開けたのはアイリーン。アイリーンと共にぞろぞろと入ってくる七味たちとリードに繋がれ仲良く歩く小雪。それを見た受付嬢の二人は悲鳴を上げそうになるが自身で口を押えて如何にか押し留まる。


「この子たちは魔獣登録もしてありますし、無暗に人を襲ったりもしません。ダメですか?」


 その言葉に困った顔をするうさ耳の受付嬢。もう一人の猫耳の受付嬢は「上に確認をしてきます」と言葉を残し奥へと走り七味を代表して一味が念話を送る。


『我ら七匹で七味。人族との共存を、望む、蜘蛛である』


 突然頭に流れた念話にキョロキョロと視線を走らせるうさ耳の受付嬢だったが、一味が手を上げフリフリと両手を動かす姿に視線が固定される。


『念話、手を振る、私、です』


 流暢ではない念話を受けて顔を引き攣らせながらも同僚が言っていた話を思い出す。それは今の様に蜘蛛の魔物をテイムした冒険者の話で『草原の若葉』のアイリーンと呼ばれる少女が七匹の蜘蛛を連れて魔獣登録をしたという。しかも、その中の一匹が念話を使い話し踊り出したというのだ。


「あの、もしかしたらアイリーンさまと七味さま方でしょうか?」


 若干顔色が悪くなっているうさ耳の受付嬢の言葉に頷くアイリーンは冒険者ギルド証を提示する。そこにはアイリーンが所属する錬金工房『草原の若葉』と七匹のテイムした蜘蛛の魔物の名が記載され、以前に卸した魔物の討伐部位と魔物の核に更に顔色を悪くするうさ耳の受付嬢。


「クリスタルディア―の皮にギガアリゲーターの皮や骨に牙……フラワーマンティスの外殻もっ!?」


「フラワーマンティスはエルフェリーンさまが狩ったものですが、後は私が倒しましたよ! 最近だと巨大なムカデも討伐しましたから、それの甲殻とかも少しなら卸せますけど買い取りますか?」


 ギルドのロビーに突然現れた黒く艶やかな壁を思わせる巨大ムカデの背中部分の甲殻に引きつった顔が限界を迎えたのか、ガクリと頭だけ下がり気を失ううさ耳の受付嬢。


「あちゃ~これを出したのは失敗でしたね……」


 そう口にしながらも手に触れエクスヒールを唱えるアイリーン。魔力反応の光に覆われ気を失ったうさ耳の受付嬢が意識を取り戻すと「お祭りの日に働くとかないわぁ~」と寝ぼけながら口にして目を擦る。


「大丈夫ですか? 勝手に回復魔術を使いましたが……」


「えっ? あれ? ベッドの中じゃ………………」


 いつもの様に朝目を覚ましたと勘違いしているうさ耳の受付嬢の姿にアイリーンは思わず笑いそうになるが、後ろから現れた初老のロマンスグレーの髪の毛を見つめ会釈をする。


「やあ、話は聞いたが大道芸だって?」


 現れた冒険者ギルドマスターニコール。蜘蛛たちが片手を上げて振る挨拶の姿に優しい笑みを浮かべながらも、心の中ではアイリーンの後ろに聳える艶やかな黒い甲殻はいったいどんな素材なのかと頭の中で思案する。


「小銭稼ぎという訳ではありませんが、この子たちのダンスを見て怖い魔物じゃないと宣伝したいと思いまして……ダメですか?」


 両手を胸の前で会わせあざとくお願いポーズをするアイリーン。それに対して冒険者ギルド長は口を開く。


「魔物は恐ろしいものだという認識は必要だが、アイリーンがテイムしている蜘蛛の魔物は念話が使え意思の疎通が可能だ。それに加えて愛嬌のある蜘蛛たちの話は私も聞いている。冒険者ギルドとして許可を出そう」


 その言葉に蜘蛛たちは両手を上げてお尻を振り喜びの舞いを踊り、アイリーンはその場で飛び跳ねて「やったー」と叫ぶ。


「但し、子供が近寄ってきたら少しでいいから威嚇すること! 他で蜘蛛の魔物を見た時に気安く近づくような事があっては危険だからな! それが守れるのなら許可しよう!」


 ギルドマスターの言葉にアイリーンは「それは考えていませんでした……確かに子供たちが他で出会った蜘蛛の魔物にホイホイ近づいて噛まれては大変ですね……どの程度威嚇しましょうか……」


 ひとり呟くアイリーン。七味たちは円陣を組みひそひそと話し合い横一列に並ぶと、一美が両手を前にクロスして「ダメ!」とでも言っているポーズを取り、二美が「ダメダメ!」とでも言っているような両手を前に出してギギギと威嚇声を上げ、三美がそのポーズに縦揺れを加え、四美は更に牙が見えるようなポーズを足し、五美はまだ考え中なようで頭を抱え、六美はボクサーのようなシャドーをシュシュシュとし、七美は仰向けになり死んだふりをする。

 そんな姿に恐怖していた受付嬢二人は笑い出しギルドマスターも肩を揺らす。


「う~ん、一美を採用します! ですが、それでも手を出してくるような子供や大人には三美のポーズを皆でしましょう!」


 アイリーンの決定に一美と三美が立ち上がり両手を上げてお尻を振る喜びのポーズを取り、採用されなかった五匹はその場に蹲り悔しいポーズを取る。中でも考え付かなかった五美はまだ考え中なようで頭を揺らしている。


「本当に愛嬌のある蜘蛛たちですね」


「あれだけ怖く見えたのに、今では可愛らしく見えますよ」


 受付嬢の言葉に口角を上げるアイリーンは「でしょでしょ! 一味たちは個性もあってみんな可愛いんです!」と声を大にして話す。


「ああ、ウルフ系の魔物並みに頭もよく言葉を理解しているな。それはそうと後ろにある壁というか甲殻はいったい……」


 気になっていた背景について尋ねるギルドマスター。


「ああ、これは少し前にこの子たちの住む大地の亀裂に現れた大きなムカデの甲殻の一部です。エルフェリーンさまはこの甲殻を使って馬の必要がないゴーレム馬車を作りましたが、買取できますか?」


「大きなムカデ……これほどの甲殻を持つムカデは大きなというよりも巨大すぎでは?」


「どれほど大きいか想像が付きにくいですね……」


 目を見開き驚く受付嬢。ギルドマスターは近寄り手で触れながらそれを確認しながら口を開く。


「これ程巨大なムカデの甲殻を見たのは初めてだ………………それにしても色つやが美しいな……これならオークションに出した方が……」


「オークション!? それってみんなで値段を釣り上げるアレですか?」


「ああ、王都では月に一度、王家主催で行われている。一時期はエルフェリーンさまがよく魔物の素材を降ろしてくれ近隣の貴族も足を運ぶ事もあるぞ。最近では醤油や味噌などの調味料やダンジョンの宝がオークションに出る事があるが下火でな。これほどの一品なら貴族連中が大金を落とすだろう」


 王家主催のオークションは二百年前の財政難を乗り越えるべく開催され、それは月に一度のイベントに変わり今も続いている。中にはエルフェリーンが提供する掘り出し物や貴族たちがいかにも欲しがりそうな宝石や絵画などが売りに出され人気を博していたが、今ではエルフェリーンが提供する事もなくなり下火になっている。

 最近ではダンジョン産の調味料などが出展されることがあるがそれでも銀貨数枚という落札価格で目玉商品がなく冒険者ギルドにも何かしら出品して欲しいと話がよく舞い込んでくるのである。


「それならお願いします! 私もニヒルな感じに手を上げて落札したいです!」


「出品ではなく参加希望なのか。よし、わかった。それなら参加できるように取り計ろう。エルフェリーンさまには何かいらない物でも出品してくれないかと話してくれ」


「それだったら私が討伐したいらない物もありますし、クロ先輩方にも声を掛けますね~って、それよりも外でダンスを披露しますから皆さんも見て下さいね!」


「ギギギ~」


「わふっ」


 本来の目的を伝えると外へと走り出すアイリーン。七味たちも手を振り冒険者ギルドの外へと向かいダンスを披露するのであった。








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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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