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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十二章 七味たちと成樹祭
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成樹祭 4



 クランにお手軽ポン酢の作り方を教わったエルフたちはそれを量産し、湯を沸かしキノコに昆布で出汁を取った鍋に火を入れると長老たちがしゃぶしゃぶと肉を泳がせタレに付けて口に運ぶ。


「おおおおお、これはなんとも言えない美味さがある!」


「長く生きてきたが初めて食べる味だ!」


「これがダンジョンで味わえるとは……」


「シュミーズ以外の冒険者になった者たちに話を聞いてみたいものだな……」


 長老たちも新しくなったダンジョンの宝に興味が湧いたのか、しゃぶしゃぶしながら白ワインを飲み話が弾む。


「この黒いショウユだっけ? それもダンジョンの宝箱から出るのならエルフの冒険者に依頼するか、新たにエルフで冒険者パーティーを村から出してダンジョンの宝を取りに行くのもいいかもしれないね~あむあむ……」


 しゃぶしゃぶが気に入ったエルカジールの言葉に眉間に皺を寄せる長老たち。だが、キュロットは笑みを浮かべる。


「それは良い提案ね! シュミーズたちに依頼するにしてもエルフは金貨をあまり使わないから自分たちで取りに行けば問題が起こらないわ。どうせならペプチの里で鍛えたエルフを数名送り込もうかしら」


 キュロットがそう口にしながら腕を組み人選をしていると、他の長老たちもああだこうだと話し合い自身の治める村からダンジョンへ探索に行かせる人選を決めるべく若いエルフたちを集める。


「ふぅ……やっと落ち着いたな……」


 若いエルフたちが集められた事もあり屋台で作業をしていたフランは一息つき、焼うどんの屋台で同じように作業をしていた者たちと差し入れられた白ワインを口にする。


「焼うどんとから揚げが人気なのはわかるが、あっちのしゃぶしゃぶも大人気だったわね」


「ああ、しゃぶしゃぶは食べた事あるけど、あれはあれで美味しいからな。んぐんぐぷはぁ~どの料理もクロが教えてくれたけど大人気だな」


 白ワインを飲みながら休憩するフラン。クランも屋台で休憩しながらもから揚げを作り屋台で頑張った者たちへ振舞い白ワインを口に入れる。


「ん……やっぱり美味しい……から揚げにも合って……最高……」


「から揚げは本当に美味しいですね。つい手が伸びてしまいます」


「焼うどんだって美味しいだろ。本当は焼きそばを出したかったけど、あの麺とソースが再現できなかったからな……」


 フランが悔しそうな顔をするが、それでも自分たちで打ったうどんに似た麺は腰があり塩味と数種のスパイスを使って作った焼うどんは好評でから揚げを担当していたエルフは口にして表情を溶かす。


「ん……から揚げもタルタルを添えたかった……」


 クランも拘りがあるのか無表情で口にする。


「へぇ~から揚げと焼うどんはこんなにも美味しいのに完璧じゃないのか~凄いものだね~」


 先ほどまでしゃぶしゃぶを食していたエルカジールが会話に加わりから揚げを口にする。


「完璧といえば違いかもしれない……でも、ペプチの森で手に入りやすい食材を使って調理したから……こうやって再現もできてクロも美味しいと言ってくれたから……」


「ん……から揚げもそう……卵を大量に入手するのは不可能……タルタル……」


 フランが悔しそうな表情を浮かべ、クランはタルタル作りに必要な大量の玉子の入手方法がなく泣く泣くタルタル製作を諦めたのだ。


「そうなると完璧なものが食べたくなるね~っと、そうじゃなかった。君たちにはお願いがあるんだ!」


「お願い?」


「ん……から揚げ?」


 エルカジールの言葉にフランは首を傾げクランはから揚げの皿を差し出す。


「世界樹の森の外には多くの冒険者がいてね、ここへパーティーのエルフや町で暮らすエルフの護衛をしてくれた人族が多くいるんだよ。その者たちに料理を振舞いたいのさ。白ワインは量がないから振舞えないけど、僕の手持ちのワインを出すから料理をお願いできないかな?」


 ゼギンとの約束を思い出して口にするカジールの言葉にフランとクランは互いに視線を合わせて頷く。


「ああ、お任せください!」


「ん……仲間の為……労うのは必要……」


 手伝っていたエルフたちも同じ意見なようで再開する屋台。フランが茹でておいた麺を炒めて解し肉と野菜を加え、クランは下味を付けた肉に小麦粉と片栗粉を混ぜた粉を付け揚げて行く。

オーガの村での修行で確実に成長している二人は鉄板の温度やから揚げの揚がるタイミングを体で覚え、それに加え一度にどれだけ大量に作れるかも熟知しており、もう立派な屋台の店主としての動きをマスターしている。


「これは見ているだけでも楽しいね~鉄板を使って炒めるのか~から揚げは熱した油を使ってカリカリに仕上げていたんだね~」


 背伸びをして屋台の中を覗き込むエルカジールの姿に二人は張り切るが、丁寧に料理を量産し手伝うエルフが木皿に入れ、それをアイテムボックスのスキルを使い収納するエルカジール。

 各村で集まりダンジョンで醤油を獲得すべく会議しながらもしゃぶしゃぶを楽しむ若いエルフたち。中には選ばれた若いエルフが喜び、逆に落胆し大地に四つん這いになるエルフが出るなか、白ワインを消費し泥酔者も現れ始めた頃には百人前の料理が完成しホクホク顔のエルカジール。


「本当にありがとう! 私は熱々を届けたいから行ってくるね~」


 お礼を口にして走り出すエルカジールに慌てて同行を申し出て走り出す数名のエルフとシュミーズ。エルカジールは戦闘面ではあまり優れておらず冒険者『千寿の誓い』に護衛され世界樹の森にやってきたのだ。


「エルカジール様! 私の護衛なしで森を抜けようとしないで下さい!」


「我々もお供いたします!」


「ああ、助かるぜ~でも、急がないと料理が冷めちゃうからね~」


 走りながらお礼を口にするハイエルフのエルカジール。エルフたちが崇める世界樹と同等の存在を守る事もエルフからしたら尊い行為であり、数名のエルフは走りながら歓喜する。


「お~い、ゼギ~ン、持って来たよ~」


 森の外に到着したエルカジールが叫ぶとゼギンは立ち上がり手を振り、他の冒険者たちも何かあるのかと思い立ち上がり集まる。


「差し入れを持って来たぜ~他の冒険者たちにも声を掛けて配ってくれ!」


 そう言いながらアイテムボックスのスキルを使い料理を出し、大きな酒の樽が登場すると冒険者たちは歓喜の声を上げる。


「おおお、酒まで持って来てくれたのか!」


「ああ、私の飲みなれた酒で申し訳ないけど楽しんでくれたら嬉しいよ。こっちの料理は焼うどんとから揚げだ! 初めて食べる味に感動するがいい!」


 笑みを浮かべて酒と料理を紹介するエルカジール。エルフと冒険者たちは料理を配り始め、シュミーズは酒樽の上面にナイフを差し入れて蓋を取ると柄杓を手にして木製のカップに注ぎ入れ配り始める。


「この香りは砂漠のワインだな! あそこのワインは濃厚で香り高い高級ワインだぞ!」


「砂と金の国のワインだと! このひと樽で金貨数十枚はするぞ!」


「そんなワインが飲み放題かよ! 仲間にエルフがいて良かったぜ!」


「あははは、喜んでくれたのなら良かったよ! さぁ、お酒と料理を楽しんでくれ! そして、私の娘たちを連れてきてくれてありがとう!」


 ハイエルフであるエルカジールからしたらすべてのエルフは自身の子であるという認識であり、エルフの為にならどんな手を使ってでも手を差し伸べ助ける。親心といえばそうかもしれないが、その言葉を耳にしたエルフたちは薄っすら涙を浮かべる。


「エルカジールさま……」


 例に漏れずシュミーズも涙を浮かべており、涙がワインに落ちない様冒険者の女性が柄杓を受け取るとワインを注ぐ係を代わる。


「あ、ありがとう……ごめんなさいね……」


「いえ、『千寿の誓い』は私たちの目標だもの……あの方はエルフの中でも特別なハイエルフなのよね?」


「ええ、世界に七人いると言われているハイエルフの御一人……私たちの大いなる母であり、神に等しいハイエルフであるエルカジールさまよ」


 涙を拭いながら話すシュミーズに冒険者の女は幼く見えるエルカジールの姿を目に焼き付け、その話を耳にした冒険者の男たちは目を見開き驚きながらもワインを口にして声を上げる。


「ハイエルフ様に感謝を! エルフたちにも感謝だ!」


「美味い酒に感謝を! 美味い料理に感謝を!」


 冒険者の言葉に笑みを浮かべたエルカジールは自身でも持って来たワインを口にするのであった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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