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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十二章 七味たちと成樹祭
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成樹祭 3



「うんうん、この焼うどんとから揚げは美味しいね! 小麦を伸ばして作っているのは面白いよ! から揚げはカリカリとした外側の食感が楽しくて中から肉汁が溢れて最高だよ! 白ワインともよく合って成樹祭に来て良かった~」


 少女の容姿と相まってエルカジールの喜ぶ姿に笑みを浮かべる長老たち。料理を作っているクランとクランは遠目に視界に入れながら胸を撫で下ろし、再度気合を入れて麺を炒めて唐揚げを揚げて行く。


「白ワインにも驚いたけどペプチの森ではこういった新しい料理が流行っているのかい?」


 料理を持って来たキュロットに視線を向けるエルカジール。キュロットは微笑みを浮かべたまま口を開く。


「はい、今は新しい焼うどんやから揚げに挑戦しております。具材を変えて作るとまた違った味わいになりますので当たりはずれが激しいですが、毎日のように新しい料理が生まれております。焼うどんは醤油ベースのスープにすれはまったく違った料理になり、唐揚げは肉以外でも美味しくいただけ、私は魚やキノコを使ったものの方が好みでした」


「へぇ~それは面白いね~僕も色々と食べてみたいよ~」


 感心したように頷き話を聞くエルカジール。


「ママが醤油の事を知っている何て驚いたわ。醤油や味噌は最近ダンジョンの宝箱から出てきたばかりなのに……」


 娘であるシュミーズが現物をアイテムバックから取り出すと食い入るように見つめるエルカジール。まわりのエルフたちも興味があるのか醤油と味噌を入れた瓶と木箱に視線が集まる。


「村にいては気が付けない変化だな……」


「ダンジョンで食材が出る事はあったが、このような珍しい物が得られるようになるとは……私が若い時は、」


 長老たちが昔話に移行しようとするがシュミーズが脱線せぬよう口を開く。


「ふふん、中にはレアな宝箱もあって、それは凄いわよ! 宝箱が鍋になってその場で料理が楽しめるのよ! 不思議と料理をして食べている時は魔物の気配がまわりから無くなって最後まで美味しく食べられるわね! 

 私はしゃぶしゃぶと呼ばれる鍋を食べたけどアレは画期的だったわ! 生のお肉を自分で湧いた湯に入れて泳がせるようにして煮るのよ! 色が変わったお肉を少し酸っぱいタレと濃厚なタレに付けて食べるの! あれは今日の料理よりも美味しかったわ! ゼギンなんておかわりはないかとレアな宝箱を何度も探しに走ったぐらいよ!」


 興奮気味に話すシュミーズの言葉に想像しながら話を聞くエルカジールは目を輝かせる。


「それは私も食べてみたいよ! 自分で茹でて食べるお肉はきっと熱々で柔らかいよね! それに少し酸っぱいタレや濃厚なタレがどんな味かは食べてみたいと解らないよね! ダンジョン攻略とか私には向いてないけどエルフェリーンに頼めば協力してくれるかもしれないね! よし! 私はダンジョン攻略をすることにする!」


 エルカジールの宣言にまわりのエルフたちからは歓声が上がり、炊きつけた本人はまずい事になったと思いながら口を開く。


「あ、あの、エルカジールさまは砂と金の国のでカジノを経営されているのですよね? ダンジョン攻略などをして、もしもの事があると……」


「おや? 私の心配をしてくれるのかな? それは嬉しいけど問題ないぜ~私にはよくできた妹がいるからね~ターベスト王国のダンジョンを最奥にまで潜った実力者だ! 『草原の若葉』の力を借りればどんなダンジョンだって攻略できるって! まあ、攻略しなくてもレアなしゃぶしゃぶの宝箱は見つかるだろうさ」


 自信満々に答えるエルカジールに今度はキュロットとランクスに世界樹の女神の表情が曇るが、まわりのエルフからは声が上がる。


「ダンジョンといえば死者のダンジョンが攻略されたと耳にしたわ」


「それは俺も聞いた。世界初の単独突破だとか……」


「俺は石碑を見たから知っているぞ! その名はクロだ! パーティーを組まずに単独突破した英雄だ!」


 冒険者たちと成樹祭に参加したエルフからの声に片手で顔を抑える世界樹の女神。キュロットとランクスはもうどうにでもなれといった諦めの表情を浮かべている。


「それは驚いたよ! 最近は人前に出ずに昔の書物を漁っていたけど新たな英雄が生まれていたなんて知らなかったよ! 誰か詳しい話を知らないかい? ねえ、シュミーズは冒険者だから知っているだろう?」


 瞳を輝かせ笑みを浮かべてシュミーズの裾を掴むエルカジール。


「えっと、その……あの……」


 言い淀むシュミーズは世界樹の女神から両手をクロスさせ言うなと圧力が掛かり、キュロットとランクスからは無表情で圧を受けて顔を引き攣らせる。立ち位置的に圧をかけてくるひと柱と二名のエルフが見えていないエルカジールは裾をクイクイとしながら発言を待ち引きつらせた頬がピクピクと痙攣し、どうしたものかと思案していると近くにいた冒険者のエルフが何やら用意を始め、あっという間に小さな竈が設置され湯が沸き薄くスライスされた肉が皿に並べられる。


「シュミーズ! しゃぶしゃぶとはこのような料理なのですか?」


 冒険者のエルフが助け船を出しそちらへ視線を移したシュミーズはアイコンタクトで意思疎通を図る。冒険者は助け合うのが常識でありエルフという閉鎖的な社会を抜け出した者同士分かり合える事があるのだろう。


「エルカジールさま、あちらにしゃぶしゃぶの用意ができたようです。まずはしゃぶしゃぶを堪能してからにしませんか?」


「しゃぶしゃぶだって!? さっき君が自慢していたダンジョンの料理だね! やった! 今日は嬉しいこと尽くめだよ!」


 湯気を上げる鍋と薄く切られた肉を見たエルカジールは子供の様に跳ねて喜び、鍋の前に立つとフォークを手にして肉を刺すと泳がせるように肉を動かし、色が変わったタイミングで声を掛けるシュミーズ。


「今です! このタレを付けてお召し上がり下さい」


 木製の小皿に醤油を入れ差し出すシュミーズに、エルカジールは「うん!」と返事をするとそれにつけて口に運ぶ。


「うん? お肉は柔らかいけど……あまり美味しくないね……不思議な風味のあるタレだけど塩辛さがあって……シュミーズが言っていた様な酸味や濃厚さも感じない……」


 表情を曇らせるエルカジールにシュミーズや鍋を用意した冒険者のエルフは視線を合わせ何か策はないかとアイコンタクトを取るがお互いに何もないらしく表情が固くなり、クイクイと袖を引かれ悲鳴を上げそうになるシュミーズ。


「これ、美味しくないよ……」


「ん……醤油だけじゃ美味しくない……」


 エルカジールの言葉に同意したのはクランであり、急ぎ抜け出したキュロットがクランの後ろ襟を掴み高速で運んできたのだ。その証拠に今もキュロットの右手で持たれプラプラしている。


「ん? 君はから揚げを作っていたクロンだったかな?」


「ん……クラン……タレは私が用意する……降ろして……」


 キュロットから降ろされたクランはナイフを手に取るとレモンに似た果実に切り込みを入れ絞り、醤油と少量の砂糖を入れてよくかき混ぜる。それと同時に近くにいた冒険者のエルフに指示を出し、鍋の火力を落としてキノコを入れクロに分けて貰った昆布を入れ豆腐をカットして入れるようアイテムバックから食材を取り出してお願いする。


「キノコはわかるけど、黒い板? 白いブロック?」


 初めて見る食材に頭を傾げるエルカジールと見学するエルフたち。


「黒い板は昆布……海の草……四角い石は豆腐……豆の塊……うん、これなら美味しい……はず……」


 簡単な説明をしながらたれを完成させるとエルカジールに渡し、再度しゃぶしゃぶと肉を泳がせ口に運ぶ。


「んっんんんんんんん~凄い! 凄いよ! さっきまでのとは別物だ! ちょっとクララが手を加えただけで酸味のあるタレに変わったよ! 肉が柔らかく熱々で香りの立った味に変わったよ! クララは凄いね! エルフ一の料理人だよ!」


「ん……クラン……」


 名前の間違いなど気にしていないのか新たな肉をしゃぶしゃぶして口に運ぶエルカジール。自然とあふれ出る笑みを浮かべるその姿に、長老やまわりのエルフたちもしゃぶしゃぶを口にしたいと声にするのだった。







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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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