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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十二章 七味たちと成樹祭
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成樹祭 2



「ふぅ……やっと到着したわね……」


「いや~ご苦労さま。助かったよ」


「エルフじゃない俺には関係ないが大切な祭りだろ?」


「十年に一度の祭りだからね~祭りを楽しみにしているエルフは多いね~それに若いエルフたちの婚活の場でもあるからね~」


「私は結婚する気はないわ! それよりも今年は故郷が主催すると耳にしたのよ。きっと白ワインが祭りで振舞われるはずよ!」


 世界樹が遠くに見える森の入り口に到着し馬から降りた二人は冒険者『千寿の誓い』であり、シュミーズと共に馬に乗っていた少女を抱き上げ馬から降ろし、相方であるゼギンは馬から降りてまわりの冒険者たちに手を上げて声を上げる。


「うお~い、久しぶりだな!」


「『千寿の誓い』だぞ! Sランク冒険者がいるのなら安全も確保できるな!」


「ゼギンさんたちがいるのなら、そりゃ安全だろうよ」


 『千寿の誓い』以外にも多くの冒険者がパーティーメンバーであるエルフを送りに来たのか数十個のテントが張られパーティーごとに分かれ焚火をし、中には酒を飲み肉を焼いている者たちもおり和やかなキャンプ場に見えなくもない。


「いや~みんなには感謝だよ。私の子供たちをここまで送ってくれてありがとう」


 大きな声で冒険者たちにお礼を叫ぶ少女。その言葉に首を傾げる冒険者たち。


「エルカジールさま御言葉に冒険者たちは感銘を受け呆けているようです」


「うん? そうは見えなよ。私はどこかのハイエルフとは違って空気を読めて物事を理解している心算だよ。それに感謝の気持ちも本物さ。後でみんなには酒と料理を運ぶようエルフたちにお願いするからね~」


 前半はシュミーズに話し、後半は冒険者たちに向け声を張り上げ、それを聞いた冒険者たちからは歓声が上がる。


「ハイエルフさまは気難しいとか耳にするが、エルカジールさまは偉ぶらず助かるぜ」


「あはははは、中にはそういったハイエルフもいるけどね~私は信仰されるよりもみんなと仲良くしたいだけだよ」


 そう笑顔で口にするエルカジール。横ではシュミーズが体を上下に振らしソワソワとしながら世界樹にチラチラと視線を送る。


「シュミーズが早く生きたいようだからもう行くけど、ゼギンも気を付けてね。ここらの魔物は狂暴な者も多いからね」


「はい、こいつらと共闘すれば亜竜ぐらいは片付けられるさ」


 自信の顎をしゃくりながら答えるゼギン。その会話を耳にし首を横に激しく振る冒険者たち。


「頼もしいね~じゃあ、本当に気を付けてね~」


 手を振りながら歩みを進めるエルカジール。シュミーズも森に入り警戒をしながら進む。この森は世界樹の森と呼ばれ魔物があまり寄り付かない神聖な森である。エルフ以外に入る事は許されず、木の上には弓を持ったエルフが自身の体を隠しながら警備に当たっている。


「警備の皆もご苦労さま~」


 木々を見上げ手を振るエルカジールに警備をしていたエルフたちは頭を下げ、森を進むにつれ料理の香りが鼻腔をくすぐりお腹を鳴らすシュミーズ。


「あはは、今日はずっと馬の上で何も食べていなかったからお腹が空いたね~」


「はい……申し訳ありません……」


「何やらいい匂いもするし急ごうか」


「はい、急ぎましょう」


 速足で森を駆ける二人が森を抜けると、我先に屋台に並ぶエルフや白ワインをギリギリまでカップに入れるエルフなどが視界に入り、例年にないほどの料理に群がるエルフたちの姿に目を丸くするエルカジール。シュミーズも到着早々「失礼します」とだけエルカジールに声を掛けて白ワインを提供している屋台へと全力ダッシュである。


「おや、ハイエルフが成樹祭に参加とはエルカジールでしょうか?」


 呆けているエルカジールへと歩み寄ったのは世界樹の女神シソリンヌであり、ハイエルフの中でもエルカジールは成樹祭に参加する事が多く、見た目が似ているハイエルフを見分けるひとつの方法だろう。


「ん? ああ、シソリンヌ。これはどういう事だい。成樹祭はまだ始まったばかりだろう? お酒が入って争う事はあってもまだ酔いも回らぬうちから戦争を見ているような光景だけど……」


 屋台の前には多くの人だかりがあり並ぶという文化はあるのだが、我先に焼うどんに群がり大事そうに受け取るとその場から逃げ出し安全を確保するエルフたち。料理を担当するフランは作る事に集中しているが、接客担当のエルフは手を出して盗むように奪い取る姿に顔を引き攣らせながらも並ぶように叫ぶ。


「ええい、並べ! 数はあるから並べ!」


「並ばないと店を閉めるぞ!」


「お願いだからマナーを守って!」


 から揚げの屋台でも同じような光景が繰り広げられ、それをニヤニヤと見つめながら二度揚げをするクラン。


「何でもう一度揚げるんだよ! 早く寄こせ!」


「一度食べたらもう忘れられない食感と味なんだよ! 早く作ってくれ!」


 そんな戦場に潜り込んだシュミーズは自身とエルカジールの白ワインを手に戻り手渡すと喉潤し表情を蕩けさせる。


「ぷはぁ~何これ美味しい! 前はクロにお願いしそびれたけど、これをママとパパが自慢してたのね! こんなに美味しいワインとか初めて飲だんわ!」


「黄金の色をしたワインとは珍しいね……どれ、香りは……うんうん、豊潤な香りは初夏の湖畔を思わせる清々しさがありながらも、咲き誇る花々が目の前に広がるようだね」


 香りの感想を口にし、ワインに口を付けるエルカジール。


「ふわぁ~何だいこの味は!!! ワインの渋みがまるでないじゃないか! それなのに飲んだ後に口に広がる甘みと香りは病みつきになりそうだよ!」


「ふふ、その白ワインは美味しいですよね。私も頂きましたがとても繊細な味と破裂するように広がる香りは極上という単語がぴったりだと思いました」


「エルカジールさま、お久しぶりにございます。もし宜しければ数本お包み致しますが」


 世界樹の女神に付いていたランクスからの言葉に目を輝かせるエルカジール。


「本当かい! それは嬉しいよ! そうだな、こんなにも美味しいワインだからエルファーレやエルフェリーンに自慢するのも楽しいかもしれないね!」


 その言葉に顔を引き攣らせながらも白ワインを入れたバスケットを里のエルフから受け取りエルカジールに手渡すランクス。その横では肩を揺らし笑いを堪える世界樹の女神。


「エルカジールさま、お久しぶりです」


 エルカジールの存在に気が付いた長老やキュロットが挨拶に現れ、白ワインをアイテムボックスに収納するその味を褒めるエルカジール。


「やあ、久しぶりだね~今日は驚いたよ! 黄金色したワインを初めて飲んだけどとても美味しいね! これは料理の方も期待していいのかな?」


「はい、焼うどんとから揚げと呼ばれる珍しい料理をお出ししております。伝統的な煮込み料理や串焼きなどもありますが、焼うどんとから揚げは自信作ですので口に合うようでしたら幸いです」


「それは楽しみだね! 早く食べてみたいよ!」


 目を輝かせたキュロットの言葉に若いエルフが走り屋台へと向かうが混雑する中で料理を取るのは大変らしく苦戦を強いられ、それに気が付いたキュロットは両手の関節を鳴らしながら屋台へ向かう。


「エルカジールさまに食して頂きますので、怪我をしたくない者は道を開けなさい」


 後ろから聞こえた重低音な声に体を震わせるエルフたち。中にはギラリとした視線を向ける者もいるが目を合わせた瞬間に相手がペプチの森の長老である『剛腕』だと視認すると震えながらその場に崩れ落ちる。


「あはははは、『剛腕』の二つ名は今でも伝説だね~見ていて面白いよ~」


「私は心苦しいのですが……」


 母親が現役ヤンキーのような扱いをされ、娘のシュミーズは顔を引き攣らせ、夫であるランクスはその勇姿を瞳に入れながら惚れ直すのであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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