ビスチェの本音と自信のあるクッキー
天界での宴から一週間が経過し、クロたちはいつもの日常に戻っていた。春らしい陽気の中で薬草を採取したり、ビスチェが管理する畑や庭園の手入れをしたり、妖精たちに囲まれて外でBBQをしたりと楽しく過ごしている。
なかでも七味たちはクロと料理をしたり、アイリーンに連れられ狩りをしたり、妖精や蜂たちと交流を深めている。
「春になって毎年思うが、雑草の力強さは凄いな」
「あら、雑草を育てようと思えば、どうせ薬草たちに同じことを思うわよ」
クロはビスチェの薬草畑に生えた雑草をむしりながら汗を流していた。温かな日差しを背に受けながら青々と茂る薬草のまわりに目を出す多くの雑草を注意深く引き抜き、ビスチェと他愛のない話をする。最近ではシャロンやメルフェルンにメリリもそれに加わり、午後の日差しを背に受けながらお茶休憩を入れながら草むしりをしている。
「うふふ、こうした農作業はいいですね。中腰で行っていると良い運動になります」
「格闘訓練とは違う筋肉を使うのか内ももとわき腹が筋肉痛になりますね」
「そろそろお茶の用意をしてきますね」
メルフェルンが作業を抜けお茶の用意へ向かい、クロはザルに雑草を集めシャロンやメリリの元に向かい雑草を回収しビスチェの元に戻る。
「やっぱりポーションの残りカスを撒いたから雑草の育ちがいいのか?」
「ポーションは魔力反応をした後だからポーションを撒いているのと同じ効果があるわ。それにゴリゴリした後のカスもあるから土に吸収されていい肥料になるのよ。雑草だってその力を吸って育つから根が太く張るのはしょうがない事ね」
青々と茂る薬草たちと同じように成長する雑草の強さに納得をするクロ。
「ポーションの残りカスは普通の畑の方にも撒いているよな?」
「そうよ。根菜系の野菜は根が太くなるし、葉野菜はその葉を大きくするわね。果樹園にもたまに撒くけどアルーが欲しがって蔓を巻きつけて来るから気を付けなさい」
「そ、それは少し怖いですね……」
「うふふ、アルラウネは信仰される魔物の中でも珍しい種。森を守り田畑にも豊作を約束するとありますが、アルーちゃんは悪戯好きで困る事がありますねぇ」
「それでも甘芋を提供してくれるからなぁ……甘やかすのはよくないが……ん? どうかしたか?」
甘芋から進化しアルラウネとなったアルーの事を話しているとビスチェの表情に時折影が入り、それに気が付いたクロは一週間前の事を思い出し口にする。
「成樹祭には本当に行かないのか?」
「行かないわよ……世界樹さまからは来て欲しいと言われたけど……行かないわ」
どこか寂しそうな表情をするビスチェに、シャロンとメリリも不安そうな瞳をクロへと向ける。
「その、なんだ、ランクスさんとは色々あると思うが、たまにはこっちから顔を出してもいいと思うぞ?」
クロの言葉に口を尖らせたビスチェはプイとそっぽを向くとその場にしゃがみ込み雑草を抜き始める。
「成樹祭には出てもいいと思ったの!」
視線を合わせず雑草を抜きながら声を荒げるビスチェ。
「思ったが出ないのか?」
「出ないわよ! 成樹祭はお見合いの場でもあるから勘違いした馬鹿なエルフが私に寄ってくるのよ! 前に行った時も多くのエルフから花を贈られてうんざりしたの! そうでなくてもパパが私を守ろうと暴走するし、ママはママで暴走したパパを……だから行かないの! これでいい!!」
顔を合わせずに本心を語るビスチェ。クロはビスチェの言葉を聞きながらランクスの打たれ強さに感心し、シャロンとメリリはお茶の用意を持ちやって来たメルフェルンの元へと向かう。
「それに前はお姉ちゃんが一緒に参加したけど……はぁ……思い出したくないわ……」
雑草を引き抜くスピードが上がり底からは無言で雑草を抜き続けるビスチェ。クロは抜かれた雑草を集めながらもビスチェなりにランクスの事を心配しているのだと考え、成樹祭の事は今後口にしないと心に決める。
「クロさま、ビスチェさま、お茶の準備が整いました」
菜園の端には白いテラステーブルが置かれ人数分の椅子がありシャロンとメリリは既に席に付いているのだが、いつの間にか現れたキャロットに抱き着く白亜と小雪がテーブル中央にあるお菓子をロックオンしている。
「キャロットたちは手を洗ってからだぞ~」
大きな声を上げるクロにキャロットは「わかったのだ!」と声を上げるとメルフェルンの元に走り、メルフェルンはやって来たキャロットへ水の魔術を使い水球を浮かせると白亜と小雪を放して手を洗い、白亜も両手をゴシゴシし、小雪は浮かぶ水球を齧り付き破裂させる。
「まったく何をやっているのだか……ぷくく」
不機嫌に話していたが小雪の珍行動に笑い出したかと思うと小雪の元に向かい、風の精霊の力を借りて濡れた毛皮を乾かすビスチェ。
「わっふわっふ」
風を受け気持ち良さそうにする小雪は尻尾を振りビスチェに抱かれて席に付く。
「洗ったのだ!」
「キュウキュウ~」
「わふぅ!」
キャロットたちが増えアイテムボックスからキャンプ用の折り畳める椅子を取り出したクロはそれに座りメルフェルンが入れるほうじ茶を口にする。
「今日は私が作ったクッキー各種をお食べ下さい。クロさまが出す御出しするお菓子ほどではありませんが自信作ですのでお楽しみ下さい」
テーブルの中央には木皿に入れられたクッキーが並び、シンプルなバタークッキーにチョコを使った物やナッツが乗った物などがあり、キャロットが手を伸ばして白亜と小雪に配り二匹とも尻尾を振りテンションを上げる。
「キュウ~」
「わふん」
二匹とも美味しいのか一口食べて鳴き声を上げ勢いよく尻尾を振り、キャロットはドヤ顔をしながらも口に入れ目を見開く。
「サクサクで美味しいのだ! クロのクッキーより美味しいのだ!」
「本当に美味しいよ。ナッツの風味が強く出ていて美味しいよ」
「あら、美味しいわね。お茶ともよく合っているわ」
「ありがとうございます。お菓子作りは昔からやっていますがクロさんの出すクッキーに負けないよう色々と試行錯誤を繰り返しました。今回のは渾身の出来だと自負しております」
おすまし顔だが心の中では飛び跳ねるほど喜んでおり、特にシャロンから褒められ硬く閉めた口が歪みそうになるメルフェルン。
「美味しいですね……こんなに美味しいのなら女神さま方にも喜んで貰えそうですね」
「えっ!?」
そう口にするクロは木皿へ数枚取り立ち上がり屋敷へと歩き始めた所で我に返ったメルフェルンは一瞬で魔化するとタックルがお見舞いされる。
「ちょっ!? 何をやっているの!」
「メル!!」
ビスチェとシャロンから驚きの声が上がり、クロは何が起きたか解らずその場に組み伏せられる。
「ダメです! 女神さま方に奉納などさせません! 私は一般のメイドです! 女神さまに奉納してはクロさまの様に教会へ行くだけで天界へ招待されてしまいます!」
女神に奉納するというクロの言葉に恐怖したのかメルフェルンが叫びながらクロを抑え込み、クロは背中に柔らかな感触を味わいながらも後ろからスリーパーホールドされるが意地でもクッキーを落とすまいと腕を伸ばし堪える。
「クッキーを落とさないように戦うプロレスとか初めて見ました! クロ先輩頑張れ!」
「何を楽しそうな事をしておるのじゃ?」
お茶をしながら楽しみながらクッキーを落とさないようにプロレスをしていと勘違いしたアイリーンと頭を傾げながらも楽しそうということだけは理解したロザリアからの言葉に、メルフェルンは無言で技を解きクロはクッキーを落とさないよう立ち上がり何事もなかったかのように席に付きお茶を再開しクッキーを口に入れるのだった。
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