途中参加のアイリーンと聖騎士二人
クロが天ぷらを揚げ続けていると料理の女神ソルティーラが大量の葉を持ち込み、それを見たクロは一枚を手に取り香りを確かめる。
「やっぱりというか、これって大葉ですよね? それなら天ぷらにしてもいいですが、何かを巻いても美味しいよな~」
そう口にすると天ぷらは料理の女神ソルティーラに任せ、自身はアイテムボックスから食材を取り出すとキャロットを呼ぶ。
「お~い、キャロット。これを頼む」
ローストビーフを食べ終えたキャロットはクロの声に反応し、掲げる大根を確認すると「任せるのだ!」と声を上げて席を立ち、簡易キッチンへとやって来ると皮を剥いた大根を持ちおろして行く。
「大根おろしは得意なのだ!」
鬼おろし器と呼ばれる波打つおろし金を使いゴリゴリと大根をおろすキャロット。普通の大根おろしよりも細かくならず食感が良くなる鬼おろしを力任せにおろし、三分と掛からずにおろし終えると揚げたてのちくわの天ぷらをこっそりとつまみ食いをしハフハフとしながら席へ戻る。
「大葉は小麦粉を振って山芋の千切りを巻き込んで天ぷらにして、もうひとつは鳥のササミを開き梅肉を塗って大葉で閉じて天ぷらにすればいいかな」
二種類の大葉を使った天ぷらを用意すると料理の女神ソルティーラと揚場を交代し油で揚げて行く。一番に揚がった物を二つにカットしてクロとソルティーラで味見をすると表情を蕩けさせ、クロも満足のいく仕上がりに無言で頷き、揚げたてを和紙の上に盛り鬼おろしを入れた天つゆと共に天使が一番に世界樹の女神に届ける。
「世界樹の葉を使い包み込んでいるのですね……では、あむあむ……」
サックリとした歯応えに包まれた芋でしょうか? 天つゆに入れられた根菜のザクザクとした食感もいいですね。こちらは……中にほんのりと酸味のある果実が入れられ、肉の旨味に世界樹の葉の爽やかな香りが堪りませんね。
無言で二つを食べ終えた世界樹の女神は白ワインでその油を流すと、まわりで女神ベステルや叡智の女神ウィキールらが食べ表情を蕩けさせている事に喜び微笑む。
「世界樹の葉を料理するとか……クロは常識がないのかしら……あむあむ……うまっ!?」
「世界樹の葉には体調を整える効果や失った四肢を再生する力があるが……美味いものだな……」
「少し酸っぱいですぅ。そこがまた食欲を誘いますぅ」
女神たちにも好評なようであっという間に平らげ、教皇や聖女に聖騎士たちも口にしてその味に満足気に頷き、ハードなトレーニングをしている聖騎士や騎士などは古傷や筋肉痛などの痛みが消えたことには気が付かずに食事を続ける。中には眉から頬にかけ大きな傷跡のある女性の騎士もいたのだが食べる事に夢中になり、まわりも後になって気が付くのだが美味しい食事の前では些細な事なのか、それとも気が付いていないのか、夢中で天ぷらと飲酒を続ける。
「うむ、天ぷらは揚げたてが一番なのじゃ」
「ハフハフしながら食べるのがいいのよね」
「鬼おろしが美味しいのだ!」
「キュウキュウ~」
「酸味のある天ぷらも美味しいですね。淡白なお肉の味を酸味のあるジャムが引き立てて美味しいです」
「うふふ、サクサクとしながらもホクホクとした芋が美味しいですね。少し粘るのは山芋ですね」
「山芋は精力が付くと言われていましたが……」
チラチラとシャロンへ視線を向けるメルフェルン。すると、新たにドアが開きやって来たアイリーンと七味たち。その後ろには聖騎士長やレーベルの姿もあり女神たちと席を共にしている事に驚き固まる二人。
「クロ先輩! 先に行くとか酷いです!」
クロへと走り寄ったアイリーンに文句を言われながらも手を動かすクロは揚げたての天ぷらを和紙の乗った皿に盛ると手渡しすぐに機嫌を戻すアイリーン。七味たちは両手を上げてお尻を振るダンスで喜びを表し、その光景に女神たちは笑い声を上げる。
「あれが七味たちね。こう見ると思っていたよりも可愛いわね」
女神ベステルの言葉に気を良くしたのかフォーメーションを組み踊り始め、アイリーンは席に付こうとしていたが一緒になって踊り始め、アリル王女も愛の女神フウリンの膝から飛び降りると一緒になって踊り始める。
「可愛いですぅ~アリル王女はとても可愛いですぅ~」
「蜘蛛の魔物と思っていたがダンスをしている姿は何とも可愛く見えるものだな……」
「酒の席での余興にピッタリじゃない。神たちの忘年会にでも呼ぼうかしら」
「成樹祭ではこのような催しはありませんが、取り入れてもいいかもしれませんね」
愛の女神フウリンはアリル王女のダンスに喜び、叡智の女神ウィキールは魔物が訓練された踊りを披露する事に感心し、女神ベステルは神たちの宴に呼ぶか悩み、世界樹の女神は今度行われる成樹祭に取り入れるか思案する。
「呆けていないで聖騎士団長とレーベスさんは座って下さい。こちらの天ぷらと呼ばれる料理は美味しいですよ。お酒も天使さまから頂けるので早くお座りになって下さい」
席を立った聖女が神々や七味たちに見惚れている二人の背中を押して席へと座らせると、天使が舞い降り担いだビアサーバーからビールを注ぎ入れそれを口にする聖騎士団長。
「美味いな! 喉が喜んでいるのがわかるぞ!」
「かぁーっ!? 喉を蜂に刺されているみたいだね。でも美味い! この天ぷらってのをクロが作ったんだろ?」
ビールを呷り天ぷらを口にする二人。聖騎士団長は大葉が巻かれたササミを口にしビールで流し、レーベスはエビの天ぷらを食べて身をよじる。
「サクサクしながらも酸味のある中身に驚くが美味い! こんなに美味いものは初めて食べたぞ!」
「こっちのエビは今まで食べた事がないぐらいの甘味だよ! エビを食べて甘いと思ったのは初めてだ!」
「そうでしょう、そうでしょう。クロさまの料理は女神さまたちをも感動させる素晴らしい料理なのです! ですから、味わって食べて下さい!」
ひょいパクひょいパクと天ぷらを口に入れビールで流す二人に聖女が指差し注意するが気にした様子もなく食べ続ける二人。特に聖騎士団長は体も大きく食べる量はそれに比例し大食漢で、大皿に盛られた天ぷらがあっという間になくなり「おかわり」と大皿を持ち叫ぶ。
「そろそろ椀物を出しましょうか」
「はい、別室の大鍋に湯を沸かしておりますので、いつでも茹でられます。お任せ下さい」
そう言葉を残して会場を後にする料理の女神ソルティーラ。クロは椀物に合わせ千切りにした長ネギや一口大のホタテやエビを混ぜ合わせ粉を振りかき揚げを揚げて行く。ソルティーラの私室にある調理場ではお風呂にも使えそうな大鍋に湯が沸いており、そこに自信で打ったそばを入れ茹で、網ですくうと水で流してぬめりを取り麺を締め、再度お湯に入れ温め湯切りをしてかつおと昆布で出汁を取った温かい麺つゆを合わせると天使に運ばせる。
天使がクロの元へと移動し流れ作業の様に揚げたかき揚げが乗せられ長ネギとワカメを添えて上座から配られ、温かいかき揚げそばの登場にビスチェやロザリアは表情を明るくし、女神ベステルは箸を使いサクサクのかき揚げを口にして蕎麦を啜る。
「これはいいわね。サクサクとしたかき揚げに、コシのあるそばと温かい麺つゆが最高よ。これに合わせるのなら日本酒ね!」
そう言って手を払うと各自の前に日本酒の瓶が置かれ、突然の事に目をぱちくりさせる聖騎士や騎士たち。アリル王女やハミル王女の前にはオレンジジュースが現れるがお酒を嗜んでいた者たちの前には日本酒が現れ、それを開けて口を付ける聖騎士団長はその味に頷きフォークでかき揚げに齧り付くと大きな声で「美味い!」と口にする。
「これは最近王都で流行り出した醤油を使った麺料理だね。前に食べた時はあまり美味しいとは思わなかったが……あむあむ……うまっ!? 私が食べた物とは全く違う……スープもコクがあって奥行きがあって……サクサクした天ぷらも美味いけど、下の麺とスープが最高ね」
あまり料理に関心のないレーベスの言葉に聖騎士たちは驚きながらもかき揚げそばを自身たちも食べ、それに合わせて配られた日本酒を口にして心まで満足するのであった。
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