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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十二章 七味たちと成樹祭
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残り物でも味が染みて美味しい料理とビア天使



「不味くはないけど美味しくもないわね」


 女神ベステルの言葉にローストビーフを食べていた教皇や聖騎士たちが唖然とする。彼らにとっては薄切りで柔らかく食べた事のないソースがかかったローストビールは衝撃的でこれ以上の肉料理はないだろうとさえ思っていたのだ。それが女神ベステルの一言により有り難がって食べていた自分を恥ずかしく思い、飲みかけていたワインで口内を洗い流しリセットする。


「ポテトは美味しいです!」


「マヨを付けたのなら、それは芸術です!」


 少し冷めているポテトフライにたっぷりとマヨとケチャを付けて食べる王女二人は置いておくとして、『草原の若葉』たちもあまり食が進んでおらずロザリアはピンチョスを口にして白ワインで流し込む。


「確かにいつものような作り立てではないのじゃ。この料理は時間稼ぎのように感じるのじゃ」


「そうね。クロならローストビーフを出すにしても厚く切って食べ応えがある感じにするわね。この巻いてあるのは個性的で美味しいけど揚げてある方がパリパリして美味しいわ」


「肉が少ないのだ!」


「キュウキュウ!」


 『草原の若葉』たちからの言葉に聖女や教皇の手が完全に止まり何とも言えない空気に変わるが、そこへ登場する料理の女神ソルティーラ。手にはまだ調理されていない青々とした葉や殻付きのエビにカットされた野菜などを乗せた竹製のザルを持ち奥へと移動する。


「今からメイン料理を作りますので少々お待ち下さい」


 クロも現れ会場の奥にテーブルを置くと七輪が置かれ、その上には大きな鉄製の鍋が乗りたっぷりの油が注がれる。


「時間稼ぎの料理はあまり美味しくはなかったわ」


 席を立ち作業をしているクロの横に並んだビスチェ。クロは作業しながらも口を開く。


「あれは時間稼ぎの心算で出した料理だったけどやっぱりイマイチだったか。刺身にすればよかったかもな」


「刺身だと食べた事のない人もいるし他の料理の方がいいわね」


「なら、この前作った煮物がまだ余っているからそれを出すよ。あとはかぼちゃとひき肉の煮物もあったな」


 アイテムボックスから大きな鍋を取り出すと器に盛り付けビスチェに渡し、天使たちも手伝いテーブルへ運ばれる。


「神に対して残り物を奉納するとは……不敬では……」


 話を聞いていた教皇の言葉に聖騎士たちも落ち着きがなくなり小声で「不敬ではないのか」と口にするが、女神ベステルは気にした様子もなく根菜と鳥肉の煮物を皿に取ると口にして表情を変える。


「これよ! この素朴な味がいいのよ! さっきまでの料理は心が籠ってないし、どうせ近くのお弁当屋さんで買ってきたものでしょう。クロが作った煮物は食べる人の事を考えて作っているから美味しいわね」


「このカボチャの煮物もひき肉の旨味を吸っていて美味いぞ。シットリと仕上がっているな」


「味が染みて美味しいですぅ。はい、アリルちゃんもあ~ん」


「あ~ん! あむあむ、おいしー」


 アリル王女の口にも合ったのか笑みを浮かべて美味しいと叫び胸を撫でおろす教皇。聖女は席を立ちかぼちゃの煮物を教皇へ取り分け前に置くと席に戻り自身でも口にして微笑みを浮かべる。


「やはり醤油と呼ばれる新しい調味料を使っているのですね。カボチャの甘さを引き立てているようです」


「一時はどうなるかと思いましたが……このような素朴な料理が好まれるのですね……」


 自身でもカボチャの煮物を口に運ぶ教皇。一口食べその風味と柔らかさに自然と表情が緩み赤ワインを口にするがワインが合わないのか眉間に皺が寄り、近くを飛ぶ天使に声を掛け女神ベステルと同じビールを頼み口にする。


「このような世界にはお酒があるのですね……」


「正確には異世界ね。これは生ビールと呼ばれる酒よ。味わって飲むというよりは喉を炭酸が通る爽快感を味わう酒ね」


 女神ベステルからの説明を聞き自身でも一口飲むとシュワシュワとした炭酸と苦みのある味に一瞬顔を顰めるが、スッキリとした味わいにカボチャの煮物を口にしてからビールを口にし満足気に頷く。


「スッキリとした味と苦みに喉を突かれているような感覚は初めてです。このお酒にはどんな料理も合いそうです」


「そうでしょう。生ビールは取り敢えず注文するぐらい人気なお酒なのよ。それよりもメイン料理はまだからしらね」


「先ほど色々と運び込んでいたが……」


 女神ベステルと叡智の女神ウィキールが視線を作業中のクロへと向けるとジュゥゥゥゥゥと心地の良い音が響き他の者たちの視線を集め、料理の女神ソルティーラは皿に和紙を敷き揚げ上がった物を箸で取り置くと女神ベステルと教皇の元へ急ぎ足で運ぶ。


「へぇ~エビの天ぷらをその場で揚げるとか贅沢ね」


「確かにエビの形をしていますが、このような料理は初めて見ます……」


「あちちっうまっ!? エビの弾力と甘みが最高ね! ぐびぐび……」


 揚げたてのエビの天ぷらを塩に付けて食べビールで流し込む女神ベステル。その様子を見た教皇は同じように塩で食べビールで流す。するとどうだろう。教皇はそのエビの味とビールの味に目を閉じて堪能し薄っすらと涙を流す。


「これほど美味しい料理とお酒を口にしたのは初めてです……エビは王都でも塩焼きにして食べられますがここまで甘く感じたのは初めてです。ビールが油っぽさを流し軽く食べられるのもいいですね……はぁ、もう思い残すことはありません……」


 自身の死期を悟ったかのような言葉に慌てて立ち上がる聖女と聖騎士たち。その横を速足で通り抜け天ぷらを配る料理の女神ソルティーラ。エビ以外にも山菜の天ぷらやビスチェの好きなサツマイモの天ぷらなども配られ口にする叡智の女神ウィキールと世界樹の女神。シャロンやロザリアも天ぷらを食べ満足気に頷き、キャロットと白亜もサクサクとした天ぷらを口にして尻尾を揺らす。


「これは木の新芽を使っているのですね……野草も使い油で揚げることで苦みの中に春を感じます……」


「世界樹の女神が木の芽の天ぷらを食べているのは共食いになるのか?」


「美味しいものを食べている時にぃ変な好奇心を持つのはマナー違反ですぅ。ウィキールはその好奇心を抑えるべきですぅ」


「確かに無粋だったな……」


「いえ、私の本来の姿は巨木ですから………………そうですね。この葉も天ぷらにして頂けますか?」


 料理を配っていた料理の女神ソルティーラを呼び止め、どこからか取り出した大量の葉を入れた籠を手渡す。それは薄っすらとだがキラキラと輝きを放ち精霊が舞っているかのような光を放っている。


「あの、これって……」


 顔を引き攣らせる料理の女神ソルティーラに世界樹の女神は口を開く。


「世界樹の新芽です。食べやすいよう小さめな葉を集まましたが同じ料理にして振舞って頂けたらと思いまして」


 微笑みながら口にする世界樹の女神。料理の女神ソルティーラはゴクリと生唾を飲み受け取るとクロの元へ走るのであった。








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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


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