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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十二章 七味たちと成樹祭
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屋台調査と懐かしい再会



 城を後にしたクロたちは露店を覗くべく二手に分かれ王家の馬車に乗り移動を開始する。エルフェリーンとルビーはゴーレム馬車に乗り錬金ギルドへポーションを卸に向かい途中でルビーの叔父の店へ寄ると行動を別にした。


「あっちの馬車に乗ると乗り心地の違いに気が付くわね」


「揺れの少なさもありますが椅子の違いも大きいですね」


 ビスチェとシャロンは王家の豪華な馬車に乗りながらも乗り心地の悪さを口にし、クロは愛想笑いを浮かべつつ隣で目を赤くするアリル王女のご機嫌を取ろうと魔力創造でゆるいパンダのぬいぐるみを創造する。


「うん? それは何ですか?」


 先ほどまで怒られていたアリル王女が食いつき目をキラキラとさせ蕩けたパンダを見つめ、クロはそれを手渡すとぎゅっと抱き締めるアリル王女。


「ふわふわです! 不思議生物はふわふわです!」


「ぬいぐるみのプレゼントとか、クロ先輩は相変わらず幼女に優しいですね~」


「もう、こんなにも喜んでアリルはクロさまにお礼を言わなきゃダメでしょ」


 まだ目は赤いがぬいぐるみを抱き締め目を細めていたアリル王女はハミル王女の指摘を受けクロへ向きありがとうの言葉を口にする。


「いえいえ、そんなに喜んでもらえたらパンダも喜んでいると思いますよ」


 形を変えるほど抱き締めている事もあり多少苦しそうに見えるぬいぐるみではあるが、落ち込んでいた姿はどこへやら微笑ましい姿に自然と口角を上げるクロ。シャロンやロザリアも微笑みを浮かべアリル王女を見つめる。


「あんなに喜んで、キョルシーを思い出すね」


「はい、あの愛らしい笑顔はキョルシーさまにそっくりです」


「我も妹を思い出すのじゃ。しっかりしておったが抜けている所もあってよく怒られておったのじゃ」


「うふふ、私も妹がおりましたが、今頃はのうのうと暮らしているでしょうか……うふ、うふふふふ」


 故郷の妹を思い出す乙女たち。ただ、メリリだけはその笑い声に怨念めいた感情が乗り鳥肌を浮かべるクロ。


「私は下がいなかったから妹が欲しかったわね。まあ、クロが大きな弟だと思っているけどね~」


「弟って……あれ? 前に会ったビスチェのお姉さんは明るい人だったよな?」


「あれは明るいじゃなくて五月蠅いというのよ。ことある毎に私をライバル視して……今は冒険者になって里を抜け出していたわね」


「確かシュミーズさんだったよな。Sランク冒険者だって紹介されたな。人族のゼギンさんとパーティーを組んでいたよな」


「ゼギンは強かったのだ。何度殴っても立ち上がったのだ!」


「何度もって……」


「キャロットの拳を受けて立ち上がったのなら本物なのじゃ。打たれ強さのあるSランクなのじゃな」


 ロザリアが腕を組み感心したように何度も頭を縦に振る。


「馬車が止まりましたね」


 そう口にしたシャロンはカーテンの隙間から外の様子を窺うと活気のある屋台街が広がり、昼食時という事もあり多くの市民が屋台料理を楽しんでいる。


「どれ我も……この国の屋台はどれも混雑しておるのじゃな……」


 ロザリアも逆の窓からカーテンの隙間を覗き辺りを観察し、ノックの音が馬車内に響くと近衛騎士団の団長が「到着しました」と口にし馬車を降りる一行。

 ちなみにハミル王女とアリル王女は商人の娘という設定の服を着ており王女に見えなくとも豪商の娘に見えるいでたちをしている。が、市民たちはそれに気が付いておりおいそれとは近づかず見守る者が多い。中にはお近づきになろうとする者もいるが、そこは近衛騎士団が素早く前に入り話し掛ける事も不可能である。


「降りた途端に醤油の香りがしますね~」


「醤油の焦げた匂いもするのが食欲をそそるのじゃ」


「こっちからは味噌を焦がした匂いがしますよ」


 頭と肩に三匹の七味を乗せたアイリーンが鼻をスンスンしながら話し、キャロットも七味を三匹頭と肩に乗せふらりと歩き始め、慌ててクロはキャロットの尻尾を掴む。


「ん? 何で尻尾を掴むのだ?」


 クロに尻尾を掴まれ頭を傾げるキャロット。クロは大きくため息を吐き口を開く。


「迷子対策だよ。このひとの多さで迷子になったら大変だろ。それに白亜が寂しがるからな」


「キュウキュウ~」


 リュックから顔を出し鳴き声を上げる白亜に、キャロットは「それならこうすればいいのだ!」とクロの腕を取り抱え込む。


「そ、それは近くないか?」


 キャロットの大きな胸が当たり多少挙動不審のクロに対してキャロットは気にした様子もなく「あそこから美味しい匂いがするのだ!」とドラゴニュートの怪力で引きずられるクロ。その光景にビスチェが唇を尖らせアイリーンは肩を震わせ、アリル王女は走り出し空いている右側の腕に抱き着きキャッキャしながら引きずられ、近衛騎士団も慌てて動き出す。


「何とも愉快なのじゃ」


「キャロットさんもクロさんも王女さまも楽しそうですね」


 ロザリアとシャロンはそんな三名を追いながら動き出し、そんなシャロンの頭の上には最後の七味が乗り怪しい人物がいないかまわりを警戒する。


「ママ~蜘蛛さんがいっぱいいる~」


「蜘蛛の魔物をテイムしたとか耳にしたが本当だったのか!?」


「クロ! 英雄になっても女の尻に敷かれているのな!」


 市民たちの声に紛れ見知った声に呼ばれ振り向くクロ。そこにはコボルトの女性三名で構成された冒険者『疾走する尻尾』がおり手を振り笑顔を向ける。


「おう、久しぶりだな~」


 ドップラー効果を残しながら引きずられて行くクロと笑いながら別れた『疾走する尻尾』たちは、遅れてやってきたロザリアたちと挨拶を交わし一緒に歩きながら現状を把握する。


「ダンジョン産の醤油と味噌は高値で取引されているよ」


「最初の頃よりは安くなったけどね~」


「醤油一本が銀貨一枚。味噌も銀貨一枚だね。冬の次期の冒険者連中はウハウハだったね」


「うむ、醤油と味噌を使った料理が市民でも食べられるようになったのは冒険者のお陰なのじゃな」


「お陰は言い過ぎかもしれないが商人連中が笑顔で買い取ってくれているらしいね。価格も安定したけどまだまだ稼げるお宝には違いないよ」


「私たちはレアなお宝も引けたものね~」


「しゃぶしゃぶ鍋の宝は最高に美味かったな! あの味を一度知ったらまたダンジョンに潜ってレアな宝箱を拝みたいぜ」


 ダンジョン産の新作宝箱であるその場で料理が楽しめる宝箱の話になり、味を思い出してだらしない顔になる『疾走する尻尾』の三名。


「そんなに美味しかったのですか?」


「ああ、蓋の説明通りに火をつけて湯が湧いたら薄い肉をこうやってしゃぶしゃぶと泳がせて火を入れて、二種類のタレに付けて食べるんだよ。少し酸っぱいタレと香ばしく濃厚なタレと……はぁ……また食べたいものだね……」


 どうやらポン酢とゴマダレの二種類がありその味に嵌ったのだろうと理解するロザリアとシャロン。


「クロさまたちが足を止めましたわ!」


 ハミル王女の言葉にビスチェたちも後ろに並び煙を上げながら漂ってくる味噌と肉の香りに鼻を動かす『疾走する尻尾』の乙女たち。シャロンとロザリアもその香りに列の先が気になるのか体をずらして目を凝らす。


「ここは味噌だけじゃなく果物が入っているのか甘さと香りがあって、更に肉も柔らかい今大人気の屋台だよ」


「これからもっと混むからね。今並んでいるのは正解だね」


「クロはやっぱり美味しい屋台を嗅ぎ分けられるのな」


『疾走する尻尾』が感心したように先に並ぶクロを褒めるが「それを選んだのはキャロットよ」と口を尖らせながら話すビスチェ。アイリーンは隣に並びながら手を合わせ「貴重なツンデレ、貴重なツンデレ」と拝み、七味たちも同じような仕草をする。


「うまっ!? この肉串は柑橘系の果物に漬け込んでいるのか甘くて酵素の働きで肉が柔らかいな!」


 人数分の肉串を注文したクロはみんなに配り一口食べるとその肉の柔らかさと風味に自然と感想を漏らし、店主の男は「食べながら店の秘密をばらさないで下さいよ~」と軽く怒られるのであった。






 元気になりました~でも喉が……皆さまも色々と御注意ください。


 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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