七味たちと王家と精霊とマヨ
獣魔登録を終えたクロたちは相変わらず現れる王家の馬車に乗ったハミル王女とアリル王女に迎えられ王城へと向かう事となった。
「リボンを付けた黒い蜘蛛さんがいっぱいです!」
貴賓室に場所を移した一同は七味たちを紹介する。すると目を輝かせるアリル王女。ハミル王女はそれなりに虫が嫌いなのか数歩離れ、メイドたちも凛としているが膝が震えている者もおり、さり気なく離れるように指示を出すアイリーン。
「ほらほら、七味たちはこっちですよ~このソファーはお城のものだけあってふかふかですよ~」
アイリーンが座る大きなソファーに手招きすると揃って動き出しソファーに飛び乗りアリル王女も一緒になって横に腰かけ、その手には一美が抱えられ膝の上に置くと優しく大きなお尻を撫でる。
「あら、本当に契約したのね」
ビスチェが何気なく口にした言葉に目を輝かせるハミル王女。以前、中庭で毎日のようにマヨの歌を歌い音の精霊に気に入られたのだ。その後も毎日のように歌いいつの間にか契約したのか、ハミル王女とアリル王女のまわりをキラキラと音の精霊が飛び交いその事を口にしたのだ。
「本当ですか!?」
「ええ、本当に気に入られているわね。今もハミルとアリルの上を行ったり来たりしているわね。今度は名前でも考えてあげるといいわよ」
「本当ですか!? では、マヨーンと名付けましょう!」
「マヨーン! マヨーン!」
両手を合わせて宣言するハミル王女と付けたての名前を叫ぶアリル王女は一味をアイリーンに返すとソファーから飛び降り走り出す。その姿にメイドたちは精霊に対してもマヨなのかと複雑そうな表情を浮かべ、ビスチェは音の精霊を目で追いながら「喜んでいるわ」と精霊の気持ちを伝えると更にテンションを上げて喜ぶ二人。
「これこれ、二人とも少し落ち着きなさい」
「そうですわ。折角、エルフェリーンさまやクロさま方がいらしたのに騒いでは嫌われてしまいますよ」
「クロさん、お久しぶりです」
国王陛下と第一王妃にダリル王子が入室し会釈をする一同。軽く怒られた王女二人はシュンとしながらもビスチェに言われた事を伝えると、国王たちは喜び二人の皇女の頭を優しく撫で王妃も喜びの声を上げる。
「おおおおお、精霊さまが喜んで下さるとは良かったではないか!」
「二人はこれからも精霊さまが喜ぶようにもっと歌わないとですよ」
「マヨーン、マヨーン、マヨヨヨヨ~ン」
付けたばかりの精霊の名で即興の歌を作り口にするハミル王女。それに合わせて歌うアリル王女。すると精霊が喜んでいるのかキラキラとして光がハミル王女とアリル王女のまわりを飛び交い国王や女王にもその光が認識できたのか目を見開き驚きの表情を浮かべ、ダリル王子はそんな二人よりも七味たちが気になるのかアイリーンの傍へと近寄り口を開く。
「お子様が産まれたのですね」
蜘蛛の時代を知っているダリル王子の言葉にアイリーンは口をパクパクとさせ、近くにいたロザリアやエルフェリーンは肩を揺らし、クロは慌てて七味たちが仲間になった話を伝えるのだった。
「そのような事があったのですか……」
『アイリーン、家族、クロ、師匠』
「これが念話というものですか……凄いですね……」
「凄いです! 七味たちは可愛いのに凄いです!」
「七味たちにもマヨという名を付けたかったのに残念です……」
ダリル王子とアリル王女は念話を体験して驚き、ハミル王女の脳内はほぼマヨなので仕方ないにしても、国王と王妃も蜘蛛たちとの交流と料理を覚えたいという事情に本日二度目の驚きの表情を浮かべる。
「エルフェリーンさまのまわりは相変わらず不思議な事が起こりますな」
「あははは、そうだぜ~僕の平穏とは別の次元に生きているからね~カイザール帝国もエルカイ国として新たな国に変わったし、新しいゴーレム馬車を作ってご機嫌だよ~」
「先日、エルカイ国からの使者が来ましたが、やはりエルフェリーンさまが関与されていたのですね……」
「ああ、態々僕の家にまで来て嫌がらせをしてきたからね~でも、僕が滅ぼした訳じゃないぜ~邪神の欠片の暴走に巻き込まれて色々あったんだぜ~」
掻い摘んだ説明に国王は苦笑いを浮かべ、その横では七味たちが両手を上げてお尻を振るダンスを踊りハミル王女とアリル王女も一緒に踊り、クロはメイドさん方へマヨやお菓子を預け、シャロンから大地の亀裂であった事を詳しく聞くダリル王子。
中々にカオスな状況になっている貴賓室。
「うむ、ターベスト王国は良い所じゃな。街並みや国民を見てもそう思ったが、国王陛下や王女たちを見る限り良い国だと思えるのう」
「それは嬉しい事を言ってくれるな」
「うむ、我はこれでも王族に近い家系の生まれじゃからな」
「ほお、それはそれは、ちなみにどこの名に家かお聞きしても?」
「その辺りは内緒なのじゃ。我は家を継ぐ気はないが、面倒事はごめんなのじゃ」
ロザリアはヴァンパイアが多く住むローゼタニアと呼ばれる国の王女でありその素性を基本的には隠して行動をしているのだが珍しくその事を口にし、国王はリアクションに困り隣にいる女王へと顔を向け、女王は私に話を振られても困りますと愛想笑いを浮かべる。
「シャロンさん、新しい馬車とはどのような物なのですか?」
「ゴーレムを動力にした馬車で、外装に巨大なムカデの甲殻を使っていて、乗り心地もスプリング何とかを使っていてあまり揺れないですね」
「サスペンションだな。タイヤと車体の間に設置して揺れを座席に伝えない技術だな。キャタピラという車輪を使っているから悪路でも走行可能です。車体の上には梯子があって高い所の果実も採りやすく……ルビーは何で梯子を付けたのだろう……」
説明しながら上部に取り付けられた十メートルにまで伸びる梯子に疑問を持つクロ。ルビーが雑誌に載っているはしご車を見て再現し取り付けたのだが、空が飛べる者やクロのシールドを使えば足場にでき梯子が役に立つことは少なく顎に手を当てフリーズする。
「そう言うことじゃ。クロが住んでいた所では、ああいった乗り物があるということじゃ」
大まかに話をまとめるロザリアに、フォローされたシャロンと説明を求めたダリル王子は納得したのか頷く。
「そうじゃ、そうじゃ。ダンジョンから多くの醤油や味噌なる新たな調味料が民に広がっておるぞ。これもクロ殿が広めたと聞いたのだが」
考え込んでいるクロの肩を軽く揺するシャロン。頬を染めながら揺する姿にアイリーンの鼻の穴が広がるがそこに触れる者はなく、クロはシャロンへ向け顔を上げる。
「ダンジョン産の醤油や味噌が広まっているそうですよ」
「そうなると屋台料理が楽しみですね。屋台の煮込み料理とか、もしかしたら焼き物系とかの新しい料理が増えているかもしれませんね」
「もつ煮や炉端焼きとかあれば嬉しいですね~以外にお味噌汁とかも定着していたりして」
アイリーンの言葉に軽く頷き、午後は露店をまわってみようという話になりそれを耳にしたアリル王女のダイブを受けるクロ。
「私も行きます! 私も行きます!」
ソファーに背を預けるクロの腹の上に馬乗りになり、連呼するアリル王女が国王と王妃に怒られたのは仕方のない事だろう。
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